「………(怒)」 部活の真っ最中、犬飼の怒りは最高潮に達していた。
その原因は天国の記憶が無いのを言いことに、自分に都合のいい事を吹き込もうとする野球部員(主にレギュラー)である。
怒りの為にコントロールが乱れた剛速球により、罪も無い平部員達の屍が一つ、また一つと増えていく。
そんな哀れな彼らが願うのはただ一つ…
 『…猿野、早く記憶を取り戻してくれ』
であった。

クッキングパニック■記憶喪失編■


 監督に天国が記憶喪失になった事を伝えると、
 「記憶喪失〜?別に体に異常が無いんだったら問題無いだろう」
と、言われ、天国は普通に部活に参加する事になった。
部員達に事情を話すと、最初は純粋に驚いていたが、牛尾は何かを思いついたのかニヤリと笑う。
 「今の猿野君なら僕が『恋人』だって言ったら信じてくれるかもね」
その一言に部員達(しつこいようだが主にレギュラー)の目が光った。
天国が犬飼と付き合い始めてからは、指をくわえて見ているしかない彼らがこのチャンスを逃すわけが無い。

 そして話は冒頭に戻る。
 「兄ちゃーんvv」
まずは切り込み隊長の兎丸がいつもの様に天国に飛びつく
いつもの天国なら抱きつかれても踏ん張れるのだが、兎丸を憶えていない状態では抱きつかれるとは思いもせず、そのまま兎丸共々地面に倒れこんだ。
 「痛てぇ〜…何すんだよ!えーと…」
 「比乃だよv」
 「比乃!痛てぇじゃないか!」
 「ごめんねー、でも、いつもこうだったんだよ」
さり気なく名前を呼ばせ、ベッタリと抱きつく兎丸。いつもの事だと言われ、天国は兎丸のされるままにしていた。
 「(わー、兄ちゃん細い。幸せ〜v)」
ドゴッ!
幸せをかみ締めていた兎丸の頭に時速140キロオーバーの硬球がめり込む。
ちなみに犯人は少し離れたところで青筋を立てている犬飼である。(何をわかりきった事を…)
 「わー!比乃、どうした!?しっかりしろ!」
ピクリとも動かない兎丸に必死に呼びかけるが、反応は無い。
 「モンキーベイベー、そんなヤツ放っとけYo」
 「え?で、でも…(てか、モンキーベイベーってオレか?)」
 「コイツはこれくらいじゃ死なないZe。放っといてオレと柔軟やるZo」
 「ちょ、ちょっと!(って、いうかアンタ誰だよ!?)」
天国は虎鉄に連れて行かれ、兎丸の死体(死んでるの!)だけがその場に残された…

 「いでででで!!!大河先輩、も、もう無理…」
虎鉄に拉致られた天国は、彼と柔軟をやらされていた。(ついでにさり気なく名前を呼ばされている)
体の硬い天国は虎鉄が体を少し前に押しただけでも悲鳴を上げている。
 「なんだよ?もうギブアップKa?」
 「は、はい、ギブアップするからもう止めてください〜」
 「情けねぇNa。ほれ、もう少し頑張れYo」
 「ひゃあ!ど、何処触ってるんですか!」
 「なんだ、もう感じてるのKa?感度がいいんだNa」
虎鉄が故意に足の付け根辺りを触ると天国はビクリと震える。
それを見た虎鉄はニヤリと笑い、足の付け根辺りに置いている手を撫でる様な動きで動かす。
 「ちょっ!やめ…」
ドガッ!
兎丸の時と同じように、虎鉄の頭に今度は140キロオーバーで飛んできた砲丸の玉がめり込んだ。
ちなみに犯人は(以下、略)
 「た、大河先輩〜」
天国が呼びかけてみるが、反応は無い。
 「ど、どうしよう……」
 「おい、天国。」
 「あ。えーと…犬飼!大河先輩が……」
 「(ムカッ)こんなバンダナの事を名前で呼ぶな。」
 「え?いつもこう呼んでるって……」
 「…コイツの嘘なんか真に受けるな。もういくぞ。」
 「ちょっ…放っといていいのか?」
 「大丈夫だ。とりあえず、このバンダナはこれくらいでは死なん。
  だから、こっちに来い。話がある」
犬飼は部活中で人が居ない部室へと天国を引っ張って行った。
そして、残された虎鉄は猪野によって生ゴミ置き場へと運ばれた(酷い…)

 「話って?」
 「いいか、お前の恋人は俺だ。だから、他の奴らに恋人だって言われても信じるな。」
 「はあ?」
いきなり男に恋人だと言われ、マヌケな声を上げてしまう。
その態度に犬飼はムッとした。
 「…信じてないだろう?」
そりゃ、『はい、そうですか』と信じられる話ではないだろう。
犬飼はそんな天国の顎を掴むとそのまま自分の唇を重ねる。
 「○×△☆□@ーー!!!!!」
 「とりあえず、これが証拠だ。お望みならもっとやってやるぞ。」
触れるだけの口付けの後、混乱する天国にそう言うとブンブンと首を横に振った。
犬飼の目がマジだったので、言っている事が冗談は無いと感じ取ったのだろう。
 「わかった!信じる、信じるから!!」
 「そうか、そうか。じゃあ、戻るぞ。」
今の天国に何を言っても効果は薄いだろうが、今の行動は少しは他の奴らへ牽制にはなっただろう。
この程度の牽制は聞かないかも知れないが、やらないよりはマシである。
犬飼は物陰に隠れて一部始終を見ていた者全員に一瞬だと視線を向けると部活に戻っていった。

 が、予想と言うのは悪い事ばかりが当るもので、あれだけの牽制では効かなかったらしく、天国に余計な事を吹き込もうとする輩は後を絶たなかった。
その度に犬飼はその輩を抹殺していたが……
一部例を挙げると天国に『ご主人様』と呼ばせようとした鹿目には手榴弾を、獅子川に至っては何かを吹き込もうとする前に辰羅川のモミアゲを投げつけておいた(モミアゲを奪われた辰羅川は泣いていた)
そして、部活が終わる(というか死者続出の所為で中止)になる頃には、グラウンドには猿野狙い(くどいようだがレギュラー陣)の部員の屍が大量に転がっていた。

 「やあ、猿野君。部活はどうだった」
 「……怖かったです。」
部活が終わった(てか、死者続出の為に中止になった)後の牛尾の質問に天国は怯えながら答えた。
そりゃあ、140キロオーバーの硬球や、砲丸の球や、手榴弾や、モミアゲ、その他諸々が飛び交い死者が続出する部活に怯えるなという方が無理だろう…
 「確かに…でも、まあ犯人には罰を与えておいたから気にしないでくれたまえ」
 「はあ……」
牛尾の言う通り、犬飼は部活を中止させた罰としてグラウンドの整備、用具の後片付け、マネージャーの手伝い、死体の片付け(え!)などの雑用を一人でやるように命じられていた。
現在は天国に話し掛ける牛尾を睨みながら、トンボ掛けに精を出している。
 「さあ、部活の終りの挨拶をしようか」
 「な、何ですか?」
神々しいキャプテンスマイルを浮かべたままこちらに近づいてくる牛尾に怯え、距離を離そうとする天国。
犬飼の忠告が無くても、何故か本能が目の前の相手が危険だと告げている。
なのに、肩をガッシリ捕まれて逃げる事が出来ない。
そのまま再び唇を重ねられる。
今度は犬飼のように触れるだけのキスではなく、しっかりと舌が入れられている。
 「ふぁ……」
キスが上手かったからなのか、ただの酸欠の所為かはわからないが天国はグッタリとして牛尾にもたれかかった。
ブチッ!
それをしっかりと目撃してしまった犬飼の堪忍袋の緒が、本日何度目かはわからないが音を立てて切れた。
即座に手に持っていたトンボを牛尾目掛けて投げつける。
それは上手く天国を避けて、牛尾だけに当る。
だが、犬飼はそれでは足りないとばかりにたまたま側に居た三象(!)を持ち上げると投げた。(すげぇな、オイ)
トンボが頭に突き刺さって死にかけている牛尾の上に、140キロ近いスピードで飛んでいった三象は見事に落下
三象の下から何か嫌な音がして、血と何かが流れ出ているが精神衛生上良くないので無視しよう。
犬飼はそんな牛尾に目もくれずに、天国に近づいていく。
 「おい、行くぞ」
 「…どこに?」
 「俺の家。」
 「な、何で?」
 「まずは体で思い出させた方がいいだろう。今夜一晩かけてじっくり思い出させてやる。」
 「い、い、い、嫌だー!」
そんな叫びも空しく天国は犬飼の家へと連行されていった。


 翌日、酷い腰痛になりながらも記憶を取り戻した天国と、何故か背後に黒い影を背負い落ち込んでいる犬飼が一緒に登校してきたとか、しなかったとか……

終わっちまえ