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あの日、オレは光の見えない闇の中に迷い込んだ。 涙は枯れ果て、痛みに耐えることが出来なくなった心は何も感じなくなり、世界からは音と色が消え去った。 今のオレは白と黒の世界の中で、何も感じず、何も聞こえず、ただ無気力に存在しているだけ… 身体だけが生きていて、心が死んでいる様な……いや、心は本当に死んでしまっているのだろう。 そう、姉さんが死んで独りぼっちになってしまったあの日から…… オレが小学校にあがる前、両親は両親は離婚した。 オレは姉さんと一緒に父さんに引き取られ、二人の兄さんともう一人の姉さんは母さんに引き取られていき、それっきり母さんたちには会ってない。 オレより一つ上で、病名は知らないけど重い心臓病を患っていた姉さん。 大手企業に勤めていて、とても温和な人だった父さん。 そして、オレの家族はこの二人だけになった。 母さん達に会えない事は寂しかったけど、父さんと姉さんはとても優しくて、近所にはとても仲がいい親友がいて、時々姉さんが入院する事を除けば幸せで穏やかな生活。 この生活はずっと続くものだとその時のオレは疑う事もしなかった。 ある日、突然全てが壊れてしまうことなんか知らずに…… 中学校に入学した頃、父さんの勤めていた会社の不祥事が世間に明るみに出た。 会社は、一人の社員に全ての責任を押し付ける事で世間からの追求を逃れようとした。 その社員は…オレの父さんだった…… 会社の為に必死に働き続けたのに、最悪な形で裏切られた父さん……酒に溺れる様になりオレに暴力を振るうようになった オレの身体からは傷が絶えないようになったけど、姉さんが親友が傍に居てくれた。 オレに暴力を振るった後に、泣きながら『済まない…』と何度も繰り返して許しを請う父さんを見ると何も言えなくなった、憎む事が出来ないでいた いつかは元の父さんに戻ってくれる事を信じながら時間は経っていく… いつかは元の父さんに戻ってくれる。 そんなささやかな願いはかなえられる事はなかった。 俺が暴力を受け始めて一年くらいが経ったある日、家に帰ると父さんは………首を吊って死んでいた。 ……自殺だった 足元には遺書が残されていて、もう生きていくことが出来ない事、オレに暴力を振るう自分を許せない事、オレや姉さんに弱い自分を許して欲しいといった事が書かれていた。 遺書を読み終えて姉さんと一緒に狂った様に泣いて、泣いて、泣き続けた。 オレ達は父さんに死んで欲しくなかったのに…どんなに暴力を振るわれても、それでも傍に居て欲しかった…一緒に生きていたかったのに……何でだよ父さん? そして、オレには姉さんしか居なくなった。 父さんが死んだ深い悲しみも、姉さんが居たから乗り越えられた もう、何も望まないから姉さんと静かに暮らしていきたい……それだけを望んだ。 なのに姉さんはこれまでのショックや悲しみの所為で、ただでさえ弱かった心臓を更に弱らせてしまう。 父さんを裏切った奴らが、せめてもの罪滅ぼしだと言って姉さんを病院に入院させた。 本当はあんな奴らに頼りたくなかったが、姉さんの命には変えられない なのに姉さんの心臓はどんどん悪くなっていき医者は長くて一年の命だと宣告した。 その日は皮肉にもオレが十二支高校に合格が決まった日だった… 姉さんが死ぬ? まだ16、7年しか生きていないのに…? そんなの嫌だ! 神様でも誰でもいいから姉さんを助けて!! オレには姉さんしか居ないのに、姉さんを失えばオレは……独りにぼっちだ… 心を押しつぶしてしまいそうな不安を抱えたまま、オレは十二支高校に入学した 不安を少しでも忘れようとバカをやってたりしながら、彼女を…いや、誰か傍に居てくれる人を探し始めた。 そんな時にオレは凪さんに出会った、とても優しい凪さんにオレは惹かれていき、彼女の為に野球部に入部した。 野球部で仲間が出来て、凪さんよりも心惹かれる相手が出来て、仲間やその人と甲子園を目指して頑張る日々はとても楽しくて充実していた。 姉さんの容態も安定した日々が続き、もしかしたらという思いがオレの心に生まれ始めた時…… 姉さんの容態は急変した。 そして、最後まで発作に苦しみながら治療の甲斐もなく姉さんのたった17年の人生は終わったのだった。 オレはソレを認められず、既に冷たくなった手を握り締め必死で姉さんの名を呼んだ。 そうすれば姉さんは目を開けてくれる、いつもの様に優しい笑顔でオレの名前を呼んでくれる。 そう思ったのに姉さんの目は開かない、オレの名前を呼んでくれない、握っていた手を離すとその手は力なく崩れ落ちた。 ……ああ、そうか 姉さんはもう居ないんだ…… ………姉さんはもう…死んだんだ…… オレは本当に独りぼっちになってしまったんだ…… …あれ?おかしいな?認めたら…オレの中で何かが壊れちゃったよ……… それからの事は殆ど覚えていない いつの間にか姉さんの葬儀は終わっていて、いつの間に姉さんは骨になっていた。 あれから何日たったのかもわからない、オレは何も飲まず喰わずのままただ迷い込んだ闇の中を彷徨っていた。 光のない闇の中を彷徨っていると、心が壊れてしまった筈なのにとても苦しい いつまで苦しみ続ければいいんだろう? どうすれば闇の中から抜け出すことができるんだろう? そんな事をもう働かない頭で考えていると、急に父さんと姉さんの最後の顔が思い出される どこか微笑んでいる様な…安らかな表情。全ての苦しみから解放されていたかに見えた。 ……オレも死ねば全ての苦しみから解放されるのだろうか? その考えは急速に広がっていき瞬く間にオレを支配する そして、オレがその考えを実行するのにもそう対して時間はかからなかった 躊躇することなく切り裂いた手首から生まれる熱が浴槽に張られた水の中に逃げていく …熱が奪われる度に目を開ける事も億劫なほどのダルさが襲い掛かり、徐々に意識が薄れていく 身体は確実に死に向かっているのに不思議な程落ち着いていた。 不思議な安堵感に包まれたままオレは…… 闇の中に沈んでいった 誰かの声が聞こえたような気がした |