この頃、天国の様子がどこかおかしかった。
部活はいつも通り頑張っているが、何故かどこか元気が無かった。
心配した部員たちが、原因を聞いたが『何でもない』の一点張りで何も話そうとしない。

 「おい、バカ猿。ボーッとしてんじゃねぇ」
 「………」
いつもならここで『何だと犬ッコロ!』と喰ってかかってくるのだが、無視して行ってしまった。
 「さ、猿……?」
無視された犬飼は呆然とその場に立ち尽くした。

 「……痛ぇ」
ボンヤリしていて受け止める筈の球を股間に受け止めてしまいその場に屈みこんでしまう
そんな天国を心配して司馬が駆け寄ってくる。
 「………」
 「ああ、アリガトな…」
心配そうに自分の見る司馬に礼を言うと、その場からさっさと立ち去ってしまった。
天国のそっけない態度に司馬は悲しくなった。

 何故か天国は犬飼や司馬を最近避けるようになっている。
この二人だけではなく牛尾や蛇神など天国より体格がいい者も避けられているようだ。
が、ただ避けているのではなく、ジーッと背中を凝視したりもする。(目が合うとすぐに逃げる)
避けたり凝視したりを繰り返しているのだ。
避けられている方は、天国に嫌われたのかと落ち込んでいる。
ちなみに避けられない者はその落ち込み様を見て笑っていたらしい……


 「………」
 「…(汗)猿、言いたい事があれば言え」
ここ数日間、更に元気を無くした天国はいつもの様に近くに居た犬飼の背中を凝視している。
最近、背中を凝視する視線が強くなった事に気が付いた犬飼は無駄だと思うが聞いてみた。
 「………」
やはり返答は無い。
犬飼はまた逃げられたと思い振り返ってみるが、天国はそこに居た。
何かを言いたそうにしているように見えたので、犬飼は再度『言ってみろと』促す。
 「バカにするなよ?」
あまりにも真剣な表情で言うので、とりあえず頷いておく。
 「…じゃあ、頼みたい事があるんだけど…いいか?」
上目使いで見つめられつつ言われたお願いを断れるわけもなく、犬飼は再び頷く。
 「後ろ向いてくれ」
 「?」
言われるままに後ろを向いた瞬間、背中に何か暖かい感触が…
天国が背中に抱きついたのである。

 「〜〜〜〜〜〜!!!(喜びのあまり声が出ない)」←犬飼
 「ーーーーーー!!!(怒りのあまり声が出ない)」←野球部の皆さん
 「キャーーー(喜)」←腐女子のマネージャーさん達
 「ス、ス、ス、スッパ抜きですわぁー(萌)!!!」←梅さん

グラウンドは喜びのあまり脳内に紙吹雪が舞っている人、怒りのあまりブラックホールを作り出している方々、 黄色い悲鳴を上げながら『ネタが!』とか『次のコミケは完璧ね!』と言っている方々、 一心不乱に写真を激写している人が入り乱れ凄い事になった。

 「あ、兄ちゃん!何やってるのさ!?」
 「猿野どけんしたんと!?」
 「こんな奴にくっつくのは止めるのだ!」
いち早く正気に戻った暗黒ミニモニの3人(兎丸・猪里・鹿目)が天国を犬飼から引き剥がそうとする。
肝心の天国はというと……
 「背中広いなーv」
と、言いながら幸せそうに頬擦りまでして話しが聞こえてないようだ。
 「(おお、神よ感謝します)」
犬飼は信じてもいない神に感謝の祈りを捧げていた。


 「ありゃー、やっぱこうなったか。」
騒ぎを聞きつけたらしい沢松がやって来た。
 「脇役君、それはどういうことだい?とっとと答えたまえ」
怒りのあまりに黒いキャプテンオーラを撒き散らしつつトンボを構えた牛尾が沢松に詰め寄る
沢松は恐ろしさの為に逃げ出したくなったが、いつの間にか周りを他の部員たちに囲まれていた。
他の部員たちも『さあ、吐きやがれ』といわんばかりの視線を向けている。
 「…天国って、すげぇお兄ちゃん子なんですよ。」
誰もがそれが今の状況と何の関係があるんだと思ったが、続きを促した。
 「アイツの家は両親とも一年に20日くらいしか家にいないんですよ。
  それで天国は一回り程離れたお兄さんに面倒見てもらってて、よくお兄さんの背中に抱きついて甘えてましたよ。 だから、今でも一年に数回くらい他人の背中にくっつきたくなる事があるんです。」
 「あれは発作か何かなのかい?」
 「まあ、そういうもんでしょうね。今年は野球部の奴らにバカにされたくないからって我慢してましたから、その反動が激しいんでしょう。」
 「では我々が避けられていたのは…?」
 「天国のお兄さん190cmあって大きいんですよ。だからアイツが抱きつきたくなるのはアイツよりも背が高くてガタイがいい奴ばっかだから…」
その言葉で天国に最近天国に避けられていた方々は機嫌は最高潮に達した。
そりゃあ、彼らは自分も抱きついてもらえる可能性があるのだ。
反対に今まで避けられなかった方々の機嫌はわるくなったとか……
 「話は解かったよ。で、どうすれば治るのかな?」
 「あれは一時的なものだからほっときゃ治ります。いつもは2、3日だけど今回はいつ治るかはちょっと…」
 「では、あの駄犬から猿野君を引き剥がすのはどうやれば?」
 「それは…あ、アンタでいいや。ちょっとこっちに来てくれ。」
沢松は司馬に声を掛けると、未だに犬飼の背中にくっついている天国に近づく
 「おーい、天国。こっちこっち。」
司馬の背中を見せてやると、天国は犬飼から離れ今度は司馬の背中にくっついた。
 「〜〜〜〜〜♪」
天国に抱きついてもらった司馬はご機嫌だった。
 「ほい、剥がしましたよ」
 「って、それじゃあ根本的な解決になってないじゃん!」
 「大丈夫!しばらくすれば元に戻る。」
 「「(いや、戻らなくてもいい!!)」」
この時、犬飼と司馬の心は一つになった。
 「ははは、たまにはこういう猿野君もいいよねv」
 「有無、その通り也」
牛尾と蛇神もどこか嬉しそうにしている。
この二人も天国より背が高いのでこの事態は大歓迎なのであった。
反対に天国より背が低い方々はすっかり落ち込み、早く天国が元に戻るように天に祈った。


それから一週間の間
野球部では嬉々として犬飼・司馬・牛尾・蛇神のベッタリとくっつく天国と、
ヤケになって牛乳を飲みまくる野球部の皆さんの姿が目撃された。


終われ