ナウンディア王国軍第36支部。平穏だったこの管区内はその夜この大尉にとって軍人人生の中で一番長い夜になったであろう。

女王襲撃事件

 けたたましいサイレンが軍の敷地内に鳴り響く。
「魔法学校寄宿舎が何者かにより襲撃された模様。寄宿舎にはアメシスト・ナウンディア女王が滞在中。至急出動せよ。」
サイレンとともに指令がどこからでも聞こえるように指令も響き渡る。
 この支部内での唯一の幹部、マリエス・ウィルソン大尉は身支度を整え、補佐官を引き連れ、階段を駆け下り、現場へ走る。
詳しい状況は、見回りに行っていた上官からの連絡は届いている。なんでも、なぜか非公式で女王は王立魔法学校に訪問し、これまた、なぜか寄宿舎に滞在していたらしい。
王子はたしか、魔法学校に在籍していたが、軍事学校に編入し、すでに卒業していて、軍総帥の実権を握る女王の補佐をしているはず。どこにも女王が魔法学校に非公式で訪問する動機が見当たらない。
ナウンディアでは、軍は警察、消防、救急の役割を担っている。マリエスの場合、警察、及び、戦争の際には兵士という部署に所属しており、女性であるため、体力は他の軍人たちには劣るが、実力により大尉という地位まで24という若さで上り詰めている。
「マリエス大尉、状況は思ったより酷そうですね。」
遠くに見える現場を見て、大尉補佐官は言う。
「状況は想像するべからず。研修で習わなかったかしら?大尉補佐官。」
「習いました。でも、想像したほうが場合によっては動きやすくないじゃないですか。」
「たしかにそうね。でも、今、私が想像したら最悪な事態を想像するわ。」
「女王陛下の崩御ですか・・・。」
「そして、ラピス・ナイト・ナウンディア王子が、王位を継承し、軍総帥に就任。」
二人は同時に乗っているほうきのスピードを上げた。

 バチバチと音を立てて寄宿舎は燃えている。先に到着していた上官たちや、消火や、救助に向かう一般兵たちでごったがえしていた。マリエスは、頼まれごとの品を渡すために、上官を探し回っていた。
「マリエス大尉!」
声がするほうへマリエスは振り向いた。幹部の証である青の三本ラインの入った白の軍服を着た黒髪の青年が目に入った。
「ヒルト中佐!!」
やっと探していた上官を見つけてマリエスは走っていった。
「王女失踪事件の報告書と王立魔法学校の寄宿生の名簿と孤児院収容者名簿です。」
マリエスはヒルトに書類をすべて渡した。ヒルトはぱらぱらと書類に目を通した。
「女王の目的はこういうことだったのか・・・。マリエス大尉、見てほしいものがある。」
ヒルトはそういって、緊急司令部になっているテントにマリエスを連れて行った。狭いテントの中には簡易通信機と、組み立て式の大きな机があり、すでに少佐が中佐に呼び出されたのかテントで待っていた。
「イーグル少佐、マリエス大尉。この写真を見てもらいたい。」 と言ってヒルトは写真を差し出した。長い金髪に碧眼の若い女の人と、座っている彼女の膝の上に抱えられている、抱えている女と同じ髪色、同じ虹彩の色を持つ年端もいかない子供、そして、その横には長い黒髪で黒い瞳の女が立っている写真だ。
「二人は分かるかもしれないと思ってこれを見せている。」
この黒い髪の女を見て、マリエスとイーグルははっとした。
「もしかして、マリエスの姉さんか。」
「姉です。姉のラリエット・アディリートです。14年前に失踪した。」
マリエスとイーグルはともに幼馴染であり、夫婦でもある。イーグルは、マリエスの姉についても知っていた。
「やはりそうか。14年前のまだ王女だった女王と、失踪した王女、その隣にいるのは、王女の乳母だ。」
「中佐、この写真は・・・?」
「女王が持ち歩いている写真たての中に入っていた写真だ。」
ヒルトの返答にイーグルは質問した。
「総帥のものを勝手に持ち出ししてたら、首吹っ飛びませんか?」
「心配することはない。女王は、生きているが、もう目覚めることができないと医務総長の報告だ。」
物騒なことを笑いながらヒルトはさらりと言ってしまった。
机の上に放置してあった報告書に何かを書き加えた。
「これは、隣国の仕業だ。女王が非公式で魔法学校の訪問していることと、いつもより護衛官が少ないということを知っている。」
「それじゃぁ、護衛官たちでも歯が立たなかったということですか。」
「二人しかついていない。いつもなら、5名いるはずだ。そこに、5人襲撃してきたと、寮母が証言している。」
「これでは歯が立たない。」
「護衛官たちは全員死亡。即死のようだ。」
ヒルトは書きあがった書類を全て封筒に入れた。
「イーグル・ウィルソン少佐、マリエス・ウィルソン大尉の両名に、明後日から軍総本部への報告へ行ってもらう。」
二人はヒルトに敬礼をし、テントを出た。
「この事件で姉さんの失踪について少し分かるかもしれない・・・。」
「俺たちまだ10歳だったよ。そのころ。」
「中佐は6歳ね。軍事学校に所属していたとはいえども、まだ、本格的に軍属ではなかったしな。」
長い夜は、慌しく且つ、ゆっくりとふけていった。

 二日後、マリエスとイーグルの二人は王城敷地内にいた。本来なら、軍本部に行っていたはずだ。さかのぼること、一時間前。
 城下町のはずれにある、軍総本部に、やっとのこと到着した。国のはずれから、国のちょうど中心にある、王城がある首都までほうきで一晩。とても長い道のりだ。ほうきの速さは大体現実世界で言う車と同じスピードだ。
 門の脇に立っていた門番に軍から支給された身分証を見せて、着替えるために宿舎の場所を聞いた。なぜなら、重要書類を運んできている故に軍関係者を狙う不穏分子の襲撃を防ぐため、彼らは私服姿で移動してきたからだ。
頭をかきながら、門番は答えた。
「えっと、ウィルソン大尉でしたっけ。実は昨日、軍宿舎が焼かれてしまいまして、王城内に全員避難しているんですよ。」
門の奥で、火が消えてもなお煙が上がり続けているほうを門番は指をさした。
「というわけで、警戒して、大将室やら、まぁ、重役の部屋と、重要部署は王城内に移動していますので、とりあえず、王城へ向かってください。」
左側の遠くにそびえたつ、王城へ二人は向かうことになった。
「うわっ、でかっ。」
イーグルは、これ以上曲げられないというくらい首を上に曲げて王城を見上げて言う。遠くから見る王城は大きかったが、間近で見てももっと大きかった。
軍総本部の一部の部署などが移動したせいもあって、敷地内は衛兵のほかに、軍の幹部などが大勢いた。
イーグルは後ろから誰かに肩をたたかれたような感覚がして後ろを向いた。槍を据えた衛兵が立っていた。
「本日は、王城見学ツアーはございませんので、一般の方は、お引取り願います。」
敬礼をして、衛兵は言った。国は、そんなことをして収入を得ているのかと思うとマリエスたちは笑えてきたが、一般人と間違えられているので、身分証を提示して二人は言った。
「第36支部、イーグル・ウィルソン少佐だ。」
「同じく、第36支部、マリエス・ウィルソン大尉です。」
身分証を確認して、衛兵の顔色が青ざめた。
「ど、どどどのような、ご用件でしょうか。」
「軍宿舎と、キルリス大将のところに行きたいんだけど。」
「はっ、かしこまりました!!」
二人は王城内へ連れて行かれた。

戻る。