「総本部の軍宿舎が焼かれたらしいですよ。一部の部署が、緊急で王城内に臨時移動しているとか。」

狙う者

 軍総本部で起きた事件を聞き、こちらナウンディア王国軍第36支部の敷地の周りで一般兵達が、警備を強化している。
陣頭指揮を執っているのは、ヒルト・ギル中佐だ。総本部の次に、危ない軍の施設と言える。なぜなら、女王襲撃事件に関連して第36支部に将校達が集まっているからだ。もし、国や軍に反感を抱いて者がいるのなら、真っ先に攻撃してもおかしくない。
 中佐補佐官が走ってきて、 「中佐、大佐がお呼びです。」 と、敬礼をして言った。あとのことを、中佐補佐官に任せて、軍舎内の最上階にある大佐室へ向かった。
分厚く重厚な木製の扉をノックして、階級と、名前を言った。扉の奥から「どうぞ。」という返事のあとに、ヒルトは部屋に入った。
大佐室には、その部屋の主である銀髪の初老の男が来客のあとの資料の片づけをしていた。本来の定年の年齢である、40歳をとうの昔に超えているはずなのに、それから十何年も経った今でも、大佐の地位に就いている。
 「あぁ、来たか。ヒルト。そこのソファーに座っていてくれ。やっと、本部やら、他の支部にいた将軍達が帰られてな。」
と、言いながら本棚に資料を片付けていった。
「シラギ大佐、用というのは?」
ソファーに腰掛けながらヒルトは聞く。
机の引き出しから、シラギは鉛の弾を取り出した。そして、ヒルトに見せた。
「これはなんだか分かるか、ヒルト。」
掌に転がっている3つの鉛の弾を指差した。ヒルトは以前、その鉛の弾を見たことがあった。その記憶から、銃弾であると判断した。
「銃弾ですよね。異界の武器なのに、なぜここに?」
ヒルトの言うとおり、この世界には、拳銃、ライフルなど、その類のものはない。そんなものがなくても、魔法で済んでしまうからだ。
「もし、私と、ヒルトと、ラキニス医務総長が異界追放になった行方不明の王女の乳母の事後調査で異界を捜査しなかったら、これの正体を知らないだろう?」
「はい。異界調査をしない限り、こんなものの存在すら知らないはずです。」
「魔法が使えないとしても、引き金を引けば、この鉛の弾が飛び出す。というわけで、魔法を使えない者でも襲撃することは可能。しかも、見たこともない武器で襲われたら、こちらとて、怯むだろう。」
「ということは、これは護衛官達の遺体の中から出てきたというわけですか。」
「言っていなかったかね?この3つの鉛の弾は、護衛官の遺体の中から見つかった。一人は、心臓に命中していて、もう一人は、肩と、頭に当たっていた。女王にいたっては、ナイフで一突きだ。」
 外が騒がしくなっていることにヒルトとシラギは気がついた。気がつくのと同時に一般兵が飛び込んできた。
「失礼します!!魔獣族に襲撃され、中佐補佐官が、犠牲に。」
「なんだと、ほかには。」
顔色を変えてヒルトは続きを聞く。
「部隊の大部分が全滅。中佐、大佐、もうだめです。相手は、デスレイト皇国のガウン・ダーク率いる精鋭部隊で・・・。」
一般兵が首の根を?まれ、持ち上げられた。持ち上げているのは、黒い肌を持ち、獣のような顔立ちをしている兵士の報告に出てきた魔獣族だった。
 黄色い気味の悪い瞳がギラリと光る。
「ご紹介に預かったようで、名乗る必要はないかもしれませんが、ここを襲っている部隊の指揮などをとっております、ガウン・ダークであります。」
兵士は懐から短剣を取り出し、ガウンの手首を切りつけたが、反応はなかった。
「そんなことをしても、あなたの寿命を縮めるだけですよ。」
ガウンは長く、鋭く意図的に瞬間的に伸ばした爪で、兵士を切りつけ、投げ捨てた。
「我々の種族は、血の気の多い種族でしてね、戦いが絶えないのですよ。あなた方が知るとおり。」
「目的は何だ!!ガウン・ダーク。」
ヒルトは、ボールを投げる直前のような体勢で開いた右手に大きな魔法弾を作り、それを投げようとする。
「私の父の死期が近くてですね、異界追放になった皇位継承者である、兄一家を、一刻も早く戻してほしいんですよ。」
「そういうことで、軍や、女王を襲ったのか。」
「ええ。」
シラギの問いかけに不敵な笑みを浮かべて答えた。
「残念ながら、それはできない。」
ヒルトは、ガウンに向かって言う。ガウンはシラギへと向かっていた視線をヒルトへと戻して言った。
「なぜかな。」
「俺に殺されるからだ。その要求は通らない!!」
ヒルトは最大限に溜めた魔力で作った魔法弾をガウンに向けて投げ飛ばした。
「無駄ですよ。」
ヒルトの魔法弾を握りつぶした。
「もともとない能力を無理に植えつけるからそんなのは、敵いませんよ。あなた方は、もともと白魔法を使う種族だ。黒魔法などを使う能力を持っていない。私が、手本を見せましょうか。」
ヒルトと同じように魔法弾を作ってガウンは投げ飛ばした。魔法弾は爆発し、その中に、ヒルトと、シラギが巻き込まれた。

 大小さまざまな石が転がり、風により砂が巻き上げられている。ナウンディア王国北中部、ナウンディア荒野。
「君、我々をずっと追跡していたのかい。」
ガウンはノームに言った。彼女は、ガウンが従える兵士に捕らえられている。
「そうじゃなかったら、ここまで来るつもりはない。」
ノームはそういってそっぽを向いた。
「軍に命令されたんじゃないのか。」
「軍とは関係ない!わたしはただの魔法学校の生徒であって・・・」
ガウンはノームの話をさえぎって、
「調べはついている。ただの魔法学校の生徒ではなく、二年間の軍事学校に通っていた経験のある魔法学校の生徒だ、ノーム・ウェザー。」
と言い、ノームは返す言葉をなくした。
 ノームは妙な気配を感じた。どこかから何かがやってくる気配だ。
ノームと兵士達の後ろの空間が歪み、そこから出てきたガーネットに兵士達は押し倒され、ガーネットの下敷きになった。
兵士の上に乗っかっているガーネットを見てノームは、
「ガーネット、逃げて!!」
と言ってガーネットの手をとりその場から走って逃げた。わけも分からずガーネットもノームと走った。
しかし、そのほかの兵士達にぐるりと取り囲まれてしまった。兵士をかきわけてガウンが輪の中に入ってきた。
「誠に、女王陛下の少女時代によく似ていらっしゃる。」
ガウンはガーネットに向かってノームへ向けて言った口調と全く違う口調で言った。
「この子は、女王と全く関係ない!!」
ガーネットに近づこうとするガウンの前にノームは立ちはだかった。
「はて、さっき逃げたときにその子のことをガーネットと言ったはずだが。」
「この国では、よくある名前。行方不明の王女じゃない。」
ノームは先ほどの過ちを必死で隠している。
ガウンはノームをどけようと肩に手をかけた瞬間、ノームはぼそぼそと唱えていた魔法の呪文を唱え終えて、兵士達が魔法により吹き飛ばされたが、ガウンには何も起こっていない。
「君の能力にも気になるが、今すべきことは王女を消すことだ。どけ。」
とガウンはノームを魔法で吹き飛ばした。
「ノーム!!」
ガーネットはノームの名を叫んだ。
「じきにあなたの母上であるアメシスト女王は亡くなる。ガーネット・ナウンディア王女、あなたもあとを追ってもらいましょうか。」
ガウンはそう言ったが、ガーネットはガウンの言っている意味どころか、なぜ自分が王女だと言われているのかもしらない。
「最期に自分の本当の姿を言われてからのほうが良いかもしれないでしょう。敵である私の口から告げられるのもどうかと思いますが、一言で言いましょう。あなたは、王女だ。」
「そんなはずはない!!私は小さいころに孤児院に入れられて、孤児として育った。」
「そんなことを言い切れますか?あなたは、そうではないからこうして私が狙っている。そして、今殺そうとしている。」
ガウンは左手を上げて軍を襲ったときのようにガーネットに襲い掛かった。
 ガーネットはガウンの魔法の圧力に耐えられず、地面に倒れ、意識が途切れていった。途切れ途切れの意識の中、ガウン達が立ち去っていくのが感じられた。


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