ベッドに横たわるアメシストの手を、白髪の青年が握っていた。その横にはその護衛官と、後ろには主治医が彼を見つめていた。
彼らがいる部屋の扉が開き、何人かの祭司が入ってきた。
「母様・・・。」
白髪の青年はそう呟き、涙を流した。

女王の意思

 司祭達は祈りを唱え、アメシストの手を組ませて胸の上におく。生き残ったアメシストの護衛官らがアメシストの遺体を大聖堂へ運んでいった。
続いて大臣達が入ってきて、白髪の青年の前にひざまづいて、上辺だけであろう悔やみの言葉を言った。
「早速ではありますが、陛下。」
一番年老いているのであろう大臣が口を開いた。
「王位の件ではございますが、女王陛下の意思により、今の時点では陛下は暫定国王になります。ラピス・ナイト・ナウンディア暫定国王。」
「影になるしかないのか。」
力のない声でラピスは言った。
「残念ながら、陛下のおっしゃるとおりでございます。王女様の影探しの旅が終われば、あなたは王座から去らなくてはならない。」
「王の条件が揃っていないから。」
力を入れて握り締めたラピスの手はガクガク震えていた。

 大きな城門の脇に2人の衛兵が微動だにせず立っていた。門の奥にもまだ道が続く。遠くから見ても十分大きかった王宮はどれほど大きいのか、ガーネットの想像の域を超える。
ダヨ・ダーヨという奇妙な名前を名乗った鍛冶屋の男は、左側に立っていた衛兵に門を開けるように声をかけた。
「一緒にいる少女は何者ですか。」
「城にたびたび行くことのあるダヨを知っているのか、ガーネットについて聞いてきた。」
「うちに修行に来た、門下生だ。」
(も、も、門下生?)
ガーネットは思った。
「そうですか。では、どうぞ。」
衛兵は門の脇にある小さな扉を開けて、ガーネットたちは扉をくぐった。門をくぐると、地下道につながっていた。途中には、衛兵が立っていた。
十分ぐらい歩くと、のぼりの階段に当たった。
階段を上りきったあと、扉を開けると、外の光が差し込んできて、ガーネットの目がくらんだ。地下道から出て、正面を見ると、大きな白壁の城がそびえたっていた。
 普通の軍人が着ている軍服と違う、黒い制服を着た、黒髪の男が声をかけてきた。
「お待ちしておりました。王女様。」
ガーネットに向かって言った。
「私、女王陛下の護衛をしておりました者であります。ダヨ殿、約束の品は。」
ダヨは右手に持っていた包みを護衛官に渡した。護衛官はゆっくりと包みを開き、鞘に収められた装飾の施された短剣を出し、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。
「確認いたしました。さぁ、お二方こちらへ。」
護衛官は付いて来るように促した。
「王女様、あなたのことは、生まれた頃から存じ上げております。孤児院に隠されたときも、女王様が魔法学校視察と称してこっそり様子を見に行ったときも存じ上げております。」
自分が王女だということを忘れて、ガーネットは返事しなかった。ガーネットは大きな礼拝堂にたどりついた。
 護衛官は礼拝堂の扉をゆっくりと開けた。白髪を一つに纏めた青年の後姿が見えた。ガーネット達の足音が聞こえると、彼は後ろを向いて、ガーネットのほうを向いた。そして、ツカツカと足音を響かせてガーネットのもとへ歩いてきた。
護衛官とダヨは深々と頭を下げてガーネットも彼らに倣って深々と頭を下げた。
「頭を下げなくていい。頭を上げろ。」
礼拝堂内に声が響いた。
「久しぶりといったほうがいいのか、ガーネット。」
少し間を空けて、改めて言う。
「そうか、分からないのは無理もない。私は君の兄にあたる、ラピス・ナイト・ナウンディアだ。」
「あ、えっと、ガーネット・ナウンディアです。」
何を話せばいいのか分からないので、自己紹介をしてみた。
「私達の母君である、アメシスト・ナウンディアの意思により、王籍に戻ること、王位継承権を再び持つことを命ずる。」
「とういうことは?」
「王宮に住むこと、王の直系のものに課せられる儀式を行わなければならない。それより、母上が亡くなった。」
祭壇には棺が置かれていた。ガーネットはそこへ早歩きで行った。
 棺の中には、意識を失ったときに声をかけた、女王のその姿で横たわっていた。
「私のせいなのか・・・。」
ガーネットは膝の力が抜け、その場に座り込んだ。


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