鉛色の空に、灰色の石畳、殺風景な広場に兵士が集められた。
一般的な人間と姿形がまったく異なる種族、魔獣族の民の国デスレイト皇国。
兵士たちはこの国の君主である、皇王に跪き、勅令を直々に受けている。

影と企み

 隊列の中の馬車には頭部に顔が見えないよう、布をかぶった者と、皇王の血族である、位の高い将軍が向き合って乗っていた。
布をかぶった者は、足を組みなおして、
「望むのは、双子の兄の死とな?」
と言う。少し低い若い女の声だ。
「父上は、最初から、死んだも同然の異界に飛ばされた兄上に皇位を継承させる気でおられる。」
「その見返りは?」
「言ってある通りだ。皇王になった暁には、お前らに国をやる。」
「どんな国だ、ガウン・ダーク次期皇王候補。」
「ナウンディアだ。あの国はじきに再びじきに我々の支配下になる。どうだ、代々自分たちを彼らの影であるがために苦しめ続けた主の国を支配するのは?」
ガウンはにやりと笑い、
「悪くないな。」
くすくすと、女は笑った。そして、女は頭部を覆う布を取り始めた。女の素顔は、先ほど彼らの話題に上がっていた国、ナウンディアの王女ガーネットと瓜二つだった。ただ違うのは、耳の位置と形で、猫の耳のような形をして猫のような位置についていた。
「噂の通りだ。これが猫耳族というものなのか。」
「そうでなかったら、代々王の影として苦しむことはない。猫耳族族長スピネル・ラウエルが遂行させましょう。」
スピネルはおもいきり深く頭を下げた。
 馬車はガタガタ揺れながら異界への通路、ナウンディアのよじれへ向かう。

 暦の上では秋に入ったとはいえ、まだまだ暑さが残っていた。制服のネクタイと、シャツを緩め、中津翔は友人と談笑しながら学校からの帰路についていた。
突然、向かい風が吹きつけてきた。翔には、風に乗って少女がすれ違ったように見えた。その少女はしばらく前に空中から落ちてきた奇妙な少女ガーネットと姿が似ていた。というよりも、むしろ、ガーネット自身の姿に見えた。
「ガーネット・・・?」
と翔は一人呟いた。友人は、
「ものすごい風やったな。」
と言っている。ガーネットの姿が見えていなかったらしい。
 翔は家に帰るなり、玄関の靴を調べたが、自分の家族の靴しかなかった。
家の中は物音一つせず、しんと静まり返って留守にしては気味の悪い気配が流れていた。居間の扉を開くと怯える母親の淑子と、居間の奥で気味の悪いうすら笑みを浮かべる父親の裕二の姿があった。淑子は翔が帰ってきたことに気がつくと、平然を装って翔の手を引き声を震わせながら、
「一生ここには戻らないつもりで荷物をまとめなさい。」
と耳うちした。翔は黙って頷くと、
「用意ができたら、外に出なさい。」
と言い残して淑子は外に出て行った。振り返ると、いつもの優しい雰囲気と全く違う冷たい目をした裕二が立っていた。

 町外れの山の上の鉄塔の頂上にスピネルは立っている。耳を働かせ、じっとこの町のどこかにいるであろうガウンの兄の会話を聞いていた。
「実に愚かだ。ラリエット・アディリート。自分の世界を追われてまで、俺を異界人だと思い続けていた。まんまとデスレイトの策略に引っかかったわけだ。我々の計画ではあの世界に今日戻る予定だ。まもなく迎えが来る。俺と翔が死んだことになるように兵士たちが町に攻撃している。お前のせいでまた不幸な者が出る。」
裕二は空を仰いだ。
「信頼することは愚かではない。」
「信頼こそが、愚かなのだ。王族を裏切った裏切りの民コントラリ族の末裔はこの世界で命を落とす。」
スピネルは町を見据えてわずかに笑った。
「貴方のほうこそ世界に帰ることはできない。ケット・ダーク皇王候補。」
町のあちこちから火の気が上がり、所々紅く染まっていた。

 門の外は崩壊する町並みや、町の所々から上がる火の気から逃げ惑う人たちが見えた。上空にはこの異変にテレビ局や新聞社のヘリコプターが飛び交っている。
「翔は渡さない。私をこの世界で命を落とさせるつもりであれば、必死に足掻くわ。」
と、淑子はライターのような着火器具を裕二のほうに突き出し、火を点して
「赤の波動よ我を助けよ、炎龍。」
と淑子は唱えると、火力を増して炎になり、龍のような形になり裕二を襲ったが、
「闇よ、黒く染めたまえ。」
と裕二が唱えて龍は消えてしまった。残るのは炎から発せられた一時的な熱気だけ。
「飛び級の上、魔法学院を首席で卒業したにもかかわらず、黒魔法に色魔法で対抗するとは、何を考えているんだか、ラリエット。」
と裕二は笑った。
立ち上る煙に翳っていた太陽が、煙の合間に現れたのを淑子が見つけると、
「光の波動よ、闇を磔にせよ。」
と唱えて裕二の動きを封じた。その隙に身支度を終えて外に出ていた翔を連れて、人々の流れと逆らって走った。
 「母さん、そっちは危ないんだ。」
と翔は淑子を止めようとしたが、淑子は走り続けて翔は止められなかった。諦めて淑子のあとを追う。
ふと翔は後ろを走りながら見た。視界に入ってきたのは、翔を追いかけまわす、姫川綾乃とその後ろには淑子を追う裕二が走っていた。
「父さんが追いかけてくる。」
と翔が言うと、淑子はすぐそこに見えた角を曲がり、しばらく走ってから、
「いでよ、ナウンディアのよじれ。」
と唱えると、先の空間が歪んで見えるようになった。

 目を凝らして、スピネルは裕二の位置を探り当てて深呼吸した。
「全ての波動よ、動きを止めよ。そして我に従え。」

淑子と翔が一斉によじれを潜り、よじれが消えかかったところを綾乃が潜り、よじれは完全に消えた。

「動け。」
と低い声で唱えると、裕二を中心に半球状に爆発が起こった。


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