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辺りを見回すと、自分の住んでいた街とは全く違う風景が目に入ってきた。 わけの分からないうちに、あちこちから火の気は上がっていて、自分の住んでいた街とは全く違う風景でもおかしくはないのだが、地面は舗装されてなく後ろには鬱蒼としげる森で絶対にあり得ない風景だった。 在るべき世界 彼の場合 「ここが翔の在るべき世界。私たちは14年前にこの世界から追放されたわ。私が敵国の支配者の血族と結ばれているっていう疑いで。」 「は?何を突然。」 「とにかく早くそこにいる女の子と一緒に逃げなさい。私と一緒にいると最悪の場合死罪よ。」 淑子が淡々と話し続けていることに翔の後ろに立ち尽くす姫川の目が点になっている。 「簡単に来られたんだから、元の世界に戻せよ。在るべき世界でなくても俺は生きてきた。友達だって沢山いる。友達も知っている人も誰もいない世界で生きていけるわけが。」 翔が話している途中にけたたましい羽音が聞こえ、舞い上がった砂で翔達の視界が遮らた。そんな中、姫川の悲鳴が聞こえた。 やっと目が見えるようになると、目の前に見えたのは姫川のを足で掴んで飛び去ろうとした黒い大きな鳥で、額には丸い紅い宝玉が埋め込まれ、両脚には金の装飾が施された輪が填められていた。 「おっ、おい!!」 翔は飛び去るそれを必死に追い掛けて捕まえようとして、長い羽根が付いた尾を掴めたが、それも虚しく羽根だけ抜けて鳥は飛び去ってしまった。 「姫川ぁぁっ!!」 翔は為す術もなくただ叫ぶだけだった。翔は母さんの言うとおりにさっさと姫川を連れて逃げればよかったと後悔した。立つ気が失せて翔はしゃがみこんで、手近にあった小石を遠くまで投げた。 「まずいことになったわね。あの鳥はきっとこの国の黒魔鳥じゃない。赤の魔石の魔鳥はデスレイト皇国だわ。何のために何も関係が無い異界人を…。」 淑子は漆黒の長い髪をうつ向いてかきあげて考え込んだ。 「一番近い街まで連れていくから、そこから別れましょう。いいかしら。」 翔がゆっくり一回頷く。そして二人は歩き出した。 日はとっぷりと暮れた。辺りは暗闇の中。頼りになるのは乾電池で駆動している懐中電灯。 「魔法使うと身元がばれるかもしれないからって、街の近くまで魔法を使えばいいのに。」 「異界に魔獣族が大量に攻めいった。異界に行くにはこの国にあるナウンディアのよじれを通過しなければいけない。魔法陣によってよじれの代わりを作り出すことは不可能。そこから考えて…。」 「その魔獣族との間に問題が起こっているということ?母さん。」 「そうなると街の近くに軍が巡回しているわ。だから、ほらっ。」 淑子の視線の先には、青白い強い光が輝いていた。ますます光の大きさが大きくなる。翔が見たものは箒に乗った白い制服を着た紅い瞳に茶色の波打つ長い髪の女の姿だった。 (ゲイル・アディリートと面会を求める。)と翔には意味の分からない言語で書かれた紙を彼女に見せた。気が付いたら、淑子は喉元に槍の切先を彼女に付きつけられた。 「残念ながら、ゲイル・アディリート少尉は存在しません。こちらはマリエス・ウィルソン王国軍第36支部警吏部特捜課少佐であります。ラリエット・アディリート王国軍第36支部への連行願います。」 「なんですぐに身元が分かるんだよ。」 「さっきも言った通り、ゲイル・アディリート少尉は現在存在しません。」 「亡くなったのか?戦争とかで。」 「亡くなられたとは言っていません。あなたのせいでアディリート家との繋がりを失って、兄さんはラキニス姓を名乗ることになったのよ。久しぶり、ラリエット姉さん。」 マリエスは泣いていた。槍を構えていた体制を崩した。腰に提げていたカバンから掌に収まる大きさの水晶玉を出して、それに呼び掛けた。 「イーグル、イーグル・ウィルソン中佐!!異界追放者2名保護しました。内1名が魔法を使えない模様。至急、援護願います。」 マリエスが握っている水晶玉にマリエスと同じ制服を着た長い白い髪の青年の姿が映し出されているの翔はを見た。 「了解、俺もすぐにそっちに向かう。特捜課から1隊出す。その様子だとお姉さんじゃないのか。ヒルトも向かうと思う。動くな、そこで待機だ。」 水晶玉から男の声がした。テレビ電話のようなものだろう。会話が終わると、人の姿は消えてもとの何の変哲もない水晶玉にもどった。 突然の展開で、翔の頭の回転が追いつかなくなってきた。淑子が箒に乗ってきたマリエス・ウィルソンという将校の姉で、彼女らにはゲイル・ラキニスという兄がいて淑子が異界に来たというきっかけでラキニスという姓を名乗るようになったということまでで限界だ。これ以上、また覚えることが増えるとなったら、力尽くでもこの世界から逃げ出したいと翔は思った。たとえ、ここが翔の在るべき世界だとしても。 残念ながら、翔には覚えることがまだまだあって、しばらくして箒と馬に乗ってきた集団に囲まれて、改めてマリエスとイーグルからいろいろと吹き込まれた。 「だからね、君の本当の名前は、中津翔ではなくて、マイティア・アディリートなの。分かるかい?俺が君の叔父に当たって、あのマリエスっていうのが君の叔母。」 イーグルが翔の顔を深い青色の瞳でじっと見て教え続ける。 「はぁ。今までの異界の名前を名乗っちゃいけないんですか?」 「いや、かまわないんだけど、異界人が魔法を使っていたらいろいろ不審がられて、軍に厄介になることがおこるんだよ。軍の警察みたいな部署にね。嫌だろ、何にもしていないのに連行されるのは。」 「っていうか、俺は魔法を使えなんだけど。」 翔はかなり困った顔だ。勝手に魔法使いに仕立て上げられて。 「魔法使えるかどうか調べに行くの。これから。十中八九、魔力があって黒も白も色魔法も使えるはずなんだよね。ラリエットは凄腕の魔法使いだったし、君のお父さんは異界人に化けた魔獣族のクオーターだから。」 頭をかきながら、ああ言ったらこう言ってまいったなと苦笑いしながらイーグルが言った。 「マイティア君、馬車の準備ができたから王都につれていくわね。じゃ、イーグルよろしく。」 マリエスが翔の背中を押しながら言ってきた。 「俺はガキ扱いかよ!!おばさん。」 「おばさんって何よ!!私はまだ24よ。それにね、マイティア、あなたのこの世界の記憶は三歳になるちょっと前までの記憶しかないの。だからガキと同等!!」 マリエスは翔に指をさした。 「マリエス、君のほうが大人気ないよ。マイティアの言ったおばさんっていうのは、叔母さんっていうことじゃない?」 イーグルは必死でマリエスをなだめる。この調子でいったらマリエスが槍を出して翔を襲いかねない。 翔は淑子が馬車に乗っていくのを見て、その馬車に乗るのかと理解してついていこうとしたが、マリエスとイーグルにとめられた。 「君はそっち。」 と言われ、マリエスとイーグルに指を指された先は淑子の乗った馬車とは反対側の幌馬車だった。 ガタガタと馬車に揺られていくつかの街を経由して三日。寝ているところを起こされて、馬車を降りたら目の前には首を限界まで曲げても頂上が見えない大きな城で、ウィルソン夫妻に両脇を固められて案内をされたのはよくある占いの館とかいう胡散臭い店のような薄暗い部屋。部屋の椅子に座っているのは黒い髪の穏やかな顔の青年。白い軍服の上着の前を開けて下に着ている黒いシャツと、首にしている銀色の四角いロケットが翔の目に入った。 「ラキニス医務総長、ご足労かけてすいません。」 イーグルが言ったことによると、かなり高い地位の人物だとうかがえた。その割には軍服を着崩しているのが奇妙にうつる。その男の名前に一、二度翔には聞き覚えがあった。 「ゲイル・ラキニスです。地位は王国軍医務総長。一応、私は異界人の血が流れているんだ。君の叔父に当たる。私は君とは初対面じゃないんだけど、はじめまして。よろしく。」 ゲイルが立ち上がった。右手を差し出されて、翔も右手を出して握手をした。 「さて、始めよう。右手を出してこの器の上にかざしてくれるかな。」 ゲイルが座って予め机の上においてあった、空の古い金色の器を指差した。 |