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散々『バルコニーに出るな』と言われるが、「なぜいけないのか」とガーネットは思う。 自分はもともと違う世界(階級)の人間だと知らされ、もう二度とその世界に戻ることができないと知ったとき、今見えている空の色よりガーネットの心の中は暗くなった。 在るべき世界〜彼女の場合〜 学校を逃走してから、もうすぐ一ヶ月がたとうとしている。この窮屈な王女様生活が半ば強制的に始まってからも、一ヶ月がたとうとしている。 「王になるべき人間がいるんだから、自分は別に元の世界に戻ってもいいいいのではないか」とガーネットは思っていた。この世界ではどうやら、そういうわけにはいかないらしい。 『正式な王の子は全員王の候補になるための、すべての儀を行わなければならない。』というしきたりがあるからだ。たとえ、一回王籍から外されても。 結界によって外の景色は少々自然な色ではない。女王襲撃の件があってからの話らしいが、結界のせいで余計ガーネットには窮屈だ。 学校に行けない状態なので、学校に行っていたとき以上に勉強をさせられている。ガーネットは「逃げ出したい」と思うことが度々ある。 「ご機嫌よろしゅう、王女様。」 聞きなれた親友の澄んだ声がした。結界が張られて、一般人は立ち入れない状況で彼女が入ることができない以上は、空耳で片付けておいた。 でも、空耳どころではなく、箒に乗った本人が目の前にいた。前と変わらない茶色の長い髪に碧眼、明らかに見た目はノーム・ウェザーだった。首には蒼い小さな珠を一粒ぶら下げている。 驚きのあまり、ガーネットは言葉を失って言葉を出そうとした口が開いたまま閉じることができない。 「どうやって結界を抜けてきたんだよ。世界最難級の結界だよ?」 とりあえず、ガーネットは頭に浮かんだ疑問を投げかけてみた。 「いつもと違うところに気がつかない?」 ノームのその言葉にガーネットはまじまじと彼女を見た。しばらくたってから、答えを見つけ出した。 「蒼い珠?」 確信したわけではない答えを言ってみた。 「その通り。女王様に会ったときにガーネットに渡すようにって渡されたのだけど、『王女だった頃にしょっちゅう城下町に繰り出していたものよ』ってそのとき女王が言っていた。ガーネットがいなかったからいろいろとあんたのことを聞かれてね。『私にそっくり、やっぱり私の娘ね』って笑っていたよ。」 明るくなっていたガーネットが急に暗くなった。 「私に直接渡せばよかったのに。間接的に渡そうとしていたみたいじゃない。」 その言葉にノームは黙り込んだ。自分が話したことに傷つくなんてノームは思いもしなかった。「ガーネットは女王と親子なのに女王と過ごした記憶がないと」と考えさせられた。 ガーネットはノームをにらみ続けている。青い瞳の奥にはさびしさが浮かんでいた。 「でも、ガーネットは、本当の親が誰だかわかったじゃない。私はそれがうらやましい。私には本当の親なんて分からない。会ったこともない。」 ガーネットは黙ったままだ。ノームの言ったことに関しても何も言わない。 --コンコンコン-- 特徴のあるリズムで木の扉をたたく音が聞こえた。 「ガーネット、いるか?聞きたいことがある。」 ノームの師でも、ガーネットの師でもあるキャルルのようだ。少し低い声だ。 あわててガーネットは扉のほうへ走っていった。その間にノームは箒を上昇させた。ガーネットが扉を開く頃にはバルコニーにはノームの姿はなかった。 目の前にはキャルルがいて、その後ろには異界にいるはずの翔の姿があった。 「異界で魔獣族の襲撃があってな、命からがら母上と逃げてきたようなのだが、驚いたことにガーネットを知っていると言うんだ。」 翔は少し疲れているように見えた。見知った顔を見て表情が明るくなっていた。 「ガーネット、彼を知っているか?」 「知っているも何も、異界に行ったときに翔君の真上に落ちました。」 「ということは、よじれをくぐったことがあるということか。」 キャルルの眉がつりあがり、顔のしわが3本プラスされた。 「こうやって生きていると言うのは大変な強運の持ち主ということで、大して怒らないが、今後、他の者を巻き込んだら、容赦はしない。」 声のトーンがいっそう低くなった。 どこの世界のどの時代に飛ばされるか分からない以上、うかつに『よじれ』をくぐることはできない。なぜなら、くぐった瞬間「死」ということもありうるからだ。 「決まりだな。」 キャルルがつぶやき、 「彼を宮殿内に保護することになるだろう。」 と続けた。 「異界人なら、異界人保護区域に住まわせるはずじゃ…。」 普通と違う扱いにガーネットは疑問に思った。 「彼は異界人ではないのだよ。事情により、宮殿内に保護することになるだろうな。」 「事情って?」 「彼の父親は魔獣族のトップの候補なのだよ。」 「トップってことは、デスレイト皇国の皇王の候補で、女王の云々があるから、簡単には渡すことができないということ?」 ガーネットの頭はフル回転している。翔の見た目は普通の人間や魔族と変わりはないのに、信じられない事実だ。 「女王の云々ではない。後継者争い云々だ。彼の身に起こったことを整理して叔父上に狙われているようだ。」 「叔父上ってことは、ガウン・ダーク?」 正解だ。 --ドスン-- 鈍い音が宮殿内に響き渡った。 「ガーネット、ここはどの方向か?」 キャルルが声を荒げて聞いた。 「南の方向です。南の塔の真上です。」 「朱(あか)の間です。」 ガーネットは朱の間へと走り出していた。 毛足の長い絨毯の床は走るには邪魔だ。それに加え、床を引きずる感じの王族仕様なドレスを着せられて、とても走りにくい。「姫様は走るな」という意味らしい。いい迷惑だ。 南塔を頂上まで登り詰めて、最上階にあるのが朱の間だ。特に何も使われていない。眺めがいいので、よく暫定国王こと、ラピスはそこで執務したり、物思いにふけったりすることが多いらしいのだが。 すでに朱の間には黒い護衛官の制服を着た者が数人来ていた。 床には気絶しているノームが横たわっている。その彼女を囲むようにして、ラピスと護衛官たちが立っていた。 「魔獣族とのつながりが考えられる侵入者ですね。黒魔術を使っていることも考えると。」 丸眼鏡を光らせた肩までかかる黒髪の面長の男が淡々と言った。 「ごく稀に黒魔術を生まれつき操る者もいるというのもお忘れかい?」 護衛官の制服を着流した一番背の高い緑色の瞳に栗毛色の髪の男が前髪をくしゃくしゃにしながら言う。丸眼鏡と緑の瞳の男に共通して言えることは、何を考えているか分からない、見た目暗そうな男だ。 「しかし、超高度な結界を破るときたら、国家レベルの研究が必要でしょう。箒で宮殿敷地内に進入ですよ。」 緑色の瞳の男はその言葉に苦虫をつぶした顔をした。 「これは・・・。」 丸眼鏡の方がノームの右手に握られた蒼い珠を見つけた。 「女王陛下のものではないか!!なぜそのようなものを。この娘からは直接尋問しなくてはならないな。」 緑の瞳のほうが丸眼鏡のほうを見てにやりと笑った。 「班長の命令だ。彼女を地下牢へ。」 丸眼鏡が後から来た護衛官たちに命令した。男女含めて5人がノームを運んでいこうとしたそのとき、キャルルは言った。 「その子の保護者は私だ。私がこの子の代わりに尋問を受ける。」 キャルルが護衛官たちを止めようとした。しかし、 「彼女はあなたの言論を黒魔術で操作している可能性をお忘れで?」 と丸眼鏡は言い残してノームを地下牢に運ぶ集団に付いていった。 「ガーネット、どういう事情だか分かるな?なぜ事情をやつらに話さない?なぜノームの一大事にノームを助けようとしない。自我も芽生えない頃からの付き合いだろ?」 キャルルの感情がむき出しになり、彼女の目には涙が溜まっていた。ガーネットはまったく表情を変えない。 「私は何も知りません。知らないから言わないだけです。」 ガーネットはそういい残して部屋から立ち去った。 |