「あ……」
すっっ、と。
右目から涙がこぼれた。
右目から、だけ。
どうしようもなく悲しいとき。独りぼっちで寂しいとき。自分が酷く惨めに思えるとき。彼女の右目からは涙がこぼれる。
まるで、人間のように。
そんな時はそっと、誰にも気付かれぬよう、濡れた右目と赤くなった鼻を右手で隠す。
MIS・U−7型。それが彼女の名前。人に似せて創られた人型機械。
そして――今のところ彼女が自覚している以外誰も知らないが――彼女は不良品だった。
左目から、涙がでない。限りなく人間に近く作られた人形のはずなのに、彼女の左目は涙を流さない。左目は哀しみを表さない。
彼女はその事実を皆に隠す。知られれば、不良品である自分は処分されてしまうから。他の人型機械と同じでないと、処分されてしまうから。
だから、隠す。
でも。
「どうして……?」
ガタン、ガタン…………
地下鉄に揺られながら、誰にも聞こえない声で呟く。
右目から溢れる涙は止まることなく目を押さえる右手を伝い袖を濡らしている。
だが左目を――白く渇いた瞳を見せている。
周りの人は、誰も彼女のことなど気にもしない。
涙を流している少女が目の前にいることなど、想像すらしない。
ある時彼女は思った。
『私って、どうして人間じゃあないんだろう?』
思うと、右目から涙が出た。
右目を、隠した。
ある時彼女は思った。
『右目を隠せば誰も私が泣いているなんて思わないわ。これって考えてみたら何処でも泣け
て便利な能力よね』
思って、微笑んで、右目から涙が出た。
微笑みながら、右目を隠した。
右目を隠して笑う少女。
誰も彼女の心に、気付かなかった。
ガタン、ガタン…………
そして今、彼女は地下鉄に揺られている。砕けた心と腫れた右目を持って。
「おい、あの娘、可愛いんじゃないか?」
「え? どの娘どの娘?」
「ほら、あそこで笑っている女の子!」
彼女に向かって、見知らぬ誰かが噂している。
すっっ、と。
右目から涙がこぼれた。
右目から、だけ。
『次はー、終点ー、終点ー』
響く、いつもの、毎日今まで何度も聞いた終点を告げるアナウンス。彼女は列車を降りる。き
っと明日も、その次の日も、ずっと。
右目を誰にも見せることのできず隠す少女。
微笑み、決して泣くことのない機械のココロ。
永遠に笑い続ける、人形。
彼女の涙を、見た人はいなかった。