堕胎
首筋を透過する
それは氷のように冷たくて刹那の痛みとともに
体液に含まれて溶け出していく
美しいその溶壊の過程
次第に冷めゆく体液と溶けゆくものが混ざりあう
それは繊細に奏でる旋律
僕は羊水に浮く胎児
溶壊する過程のその旋律に安堵感を覚える
突如として訪れる堕胎のとき
旋律は乱れる
大きな手は僕に吸い込まれる
心の片隅に絡まる指は雛鳥を抱くがごとく優しかった
そして堕胎の瞬間
やさしかったその手に刃向かうこと許されず
徐々に引きずり出される
柔らなものを崩さぬよう添えられる指
力強く抜かれていく
僕の肉体から徐々に抜かれていく
そして堕ちた今 僕には肉体だけが残された
溶壊し美しい旋律を奏でた僕の心は堕ろされた
混ざり合い澄みきったもののない心の闇は取り払われた
残された容器その空洞 満たすものはなにもない
欲深き容器が残された 心のない棺は埋められた