僕のケージは
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僕の前で笑っている高石の顔が赤い。
久しぶりのコンパで、僕もいつもより飲んでいる。
高石の隣では、南ひろみがビール瓶を持ってスタンバイしている。
どうやらこの子は高石のことが好きらしい。
今日のコンパで気づいた。
僕はどうしてここにいるんだろう。
みんなの話し声の中、一人になるとふと思う。
一人で家にいるときよりもずっと孤独を感じる。
僕のまわりに、見えない檻があるみたいだ。
南ひろみにつがれるままビールを飲み、高石の話を聞く。
関西弁の高石が言うと、何でも漫才のように聞こえる。
そうしているうちにお開きとなった。
いつのまにか高石の家で2次会をすることになっていたようで、
僕も誘われてついて行った。
高石の部屋には物が少ない。
ベランダに続く窓の前にベッドがある他は、
ローテーブルと、テレビや本がのった大きなメタルラックがあるだけだ。
そこに10人近い人間が押し寄せてもたいして狭いとは感じなかった。
僕と高石がベッドの上に座り、
あとはみんなローテーブルを囲んでいる。
僕の手元には空になったチューハイの缶。
1次会のときのビールもかなりの量だったから、だいぶ酔いがまわっている。
高石はビールの缶を灰皿にしてタバコを吸っている。
僕は高石がタバコを吸うところを、その日始めて見た。
「タバコっておいしいの?」
僕はタバコを吸ったことがなかった。
「おいしいっていうよりは、中毒やな。」
高石はそう言って、小さく開けた窓の方に煙を吐き出した。
「一本くれない?」
「ええで。」
高石が差し出した箱から、僕は一本抜き出した。
「ベランダで吸ってくる。」
僕がそう言うと、高石はライターを投げてくれた。
ベランダに出ると、風が火照った体に心地よかった。
なぜかとても体が軽く、不思議な感覚だった。
自分で認識しているよりも酔っているのかもしれない。
僕はベランダの手すりにもたれかかると、咥えたタバコに火をつけた。
最初に少し煙を吸い込んでみる。
そして次にもう少し深く吸い込んでみた。
苦いような煙たいような、ちょっとすっとするようなそんな感じ。
たしかにおいしいという感じはしない。
そもそも食べ物と同じ言葉では言い表せない。
思ったより刺激が少なかったので、今度は思いっきり吸い込んでみた。
お腹の底までじゃなくて、肺の底まで。
そうしたらむせてしまい、僕は目尻に涙が浮かぶほど咳き込んでしまった。
窓の隙間から顔を出した高石が笑っている。
僕は煙を深く吸い込みすぎないよう注意しながら、初めてのタバコを味わった。
下を走っている道路は広く、この時間でも車は途切れない。
こうしてベランダで風にあたっていると、空を飛びたくなる。
どうして僕は飛べないんだろう。
この肉体は、なぜ空を飛べないんだろう。
肉体という器に、魂と呼ばれるものが宿っているならば、
魂は空を飛べるのだろうか。
魂は時間も、空間も超えることができるのだろうか。
きっと肉体は、魂を閉じ込めておく檻なんだ。
そうしておかないと、魂は自由に飛んでいってしまう。
僕もそうして檻に閉じ込められているんだ。
本当は翼を持っているのかもしれない。
高石にもらったタバコが終りに近づいたので、
僕は火を消して、灰皿代わりに持ってきていたチューハイの缶の中に入れた。
部屋の中に入ろうと思い、方向転換した瞬間だった。
足がふらつき、急激に視界が狭くなった。
耳もよく聞こえない。
僕は耐えられず、その場にしゃがみこんだ。
飲みすぎた。
気分が悪くなるほど飲んだことは、今までなかった。
自分の限界を思い知った。
ああ、やっぱり肉体が魂を閉じ込めている。
意識が薄れていく中、そう考えていたことだけは鮮明に覚えている。