僕のケージは
−4−
目をあけると、真っ白だった。
天井だ。
ここはどこだったっけ。
ちゃんとベッドで寝ている。知らないベッドだ。
左側は窓で、右は・・・・・・
人間?
女?
南ひろみだ。
どうして。
僕はあわてて体を起こした。
そして高くなった視点から見えたのは、そこら中に転がる男たち。
そうだ、高石の家で飲んでたんだ。
「やっと起きたか。」
高石がペットボトルを持って現れた。
「はい。」
僕の方にペットボトルを突き出す。2リットル入りのお茶だった。まだほとんど減っていない。
所狭しと体を横たえている男どもを器用によけて、テーブルまでたどり着いた高石は、
そこに重そうなペットボトルを置いた。
「この子起きてまうし、こっち来て。」
高石はあごで南ひろみを指した。
ああ、高石もこの子のことが好きなのかもしれない。
僕はまだはっきりしない頭でそんなことを考えながら、重たい体を引きずってベッドから抜け出した。
「もう大丈夫か?」
「うん、だいぶすっきりした。」
からからだった喉に、体に、お茶が吸収されると、頭もだんだんすっきりしてきた。
「もう、大変やってんで。ちゃんと記憶あるか?」
「え?何が?」
「ちょっと待て、どの辺まで覚えてんの?」
高石に質問されて初めて、自分でも記憶が曖昧なことに気づいた。
「えっと、たばこもらって、ベランダに吸いに行った。そしたら急に気分が悪くなって・・・・・・」
そうそう、その辺はちゃんと覚えている。
「そのままベランダでつぶれて寝ちゃったんじゃないの?」
「そうや、俺ちゃんと上着も掛けたったのに。」
高石はそう言って僕の寝ていたベッドを見た。
そこでは白いジャケットがくしゃくしゃになっていた。
「その後はどうなん?」
「え?何かあったっけ?吐いちゃったりしたの?」
「やっぱりお前覚えてへんのか〜。吐いたりはせんかったけど、ある意味もっとすごかった。」
溜息をつく高石に悪い気がして、思い出そうと試みたがやっぱり頭に靄が掛かっている。
ふわふわした感じ。
幸せな夢を見ていたような、そんな感覚だけが残っている。
「お前な、空飛ぶとか羽生えたとか変なこと言って、俺が止めてなかったらあっこから飛び降りてたで。」
「うそ。そんなことしたの?」
恥ずかしさが足元から駆け上ってくる。
「そうそう。まあ、そんときには皆つぶれて寝てたから、知ってんのは俺だけや。安心し。」
「ありがとう、高石。命の恩人だよ。」
「当たり前や。お前未成年やろ。未成年に酒飲ましてたばこ吸わして、挙句に自殺なんかされたら、
俺の人生どうなんねん。」
高石の言葉に、二人で笑いあった。
「まだ時間あるけど、朝ごはん食べてく?パンくらいしかないけど。」
時計を探すと、時刻は八時半を少し過ぎていた。
「いいよ、一回帰る。」
「いいの?まあ、今やったら家帰っても間に合うな。今日2限英語やろ。俺はこいつら起こして連れてくわ。」
「大変そう。」
「大変やろな。下まで送ろか。」
「ありがとう。」
僕は自転車にまたがると、高石のほうを振り返った。
「気ぃつけてな。」
「うん、ありがとう。」
「ちゃんと授業来いよ。」
「わかってるよ。」
「じゃあなー、また後で。」
自転車で風を切っていると頭が冴えてくる。
飛び立とうとした僕を高石が止めた。
周りの人たちのちょっとした行動が、僕をつなぎ止めているのかもしれない。
枷となり、檻となって。
僕は自由で、でも檻の中で。
まだまだこの檻を抜け出せないだろう。
なんだかすがすがいのは、きっと朝の風のせいだけじゃないはず。
end
*back*