プライド
髪飾り1

*2*

まあ、こういう顔にうまれていい思いも嫌な思いもしたけど、おおむね得したと思う。
不特定多数の人に好感持たれるしね。
酔っ払いのおやじとか、そういう人にまで好感持たれちゃうのはちょっと厄介だけど。

中学入ってからはね、まず部活の先輩に告白された。あたしバスケ部のマネージャーやってたの。
バスケなら体育館で日焼けの心配もないしね。
でも夏はね、横でバトミントン部がやってるときは窓開けられないの。風で羽根が飛んじゃうから。
暑かった。蒸し風呂状態。
だから制汗スプレーがんがんにしてから部活行ってたな。

あたしに告白してきた先輩は、二年なのにレギュラーに入っててバスケはすごく上手かった。
次期キャプテンだったし。ルックスもそれなりによかったからあたしはオーケーしたの。
みんなにうらやましがられて満足だった。
まあ、中一だよ。まだまだ子供だったんだろうけど、恋に恋してる状態だったのかもしれない。
その先輩バスケの話ばっかりするの。共通の話題って言ったらそれくらいしかなかったんだけど。
でもあたし、もともとバスケが好きでバスケ部選んだんじゃないんだよね。
もしバスケが好きなんだったら、女子バスケ部で選手やってるよ。
あたしはとりあえずマネージャーがしたかったのよ。で、外でやる部だったら日焼けしちゃうじゃない。
だから中でやる部のなかから選ぼうと思ったんだけど、イメージ的にバスケが一番かっこよかったから、
バスケを選んだの。

そんなあたしだから、バスケの話はちんぷんかんぷんなわけ。
NBAで誰がどうしたとか言われても、ぜーんぜんわからないのよ。
きっとつまらなさそうに先輩の話聞いてたんだろうな。
あるとき先輩に、『俺のことホントに好き?』って聞かれたの。
あたしとっさに答えられなかった。他の男の子に比べたら、そりゃあ先輩が好きだけど、
初恋の亮助君と比べたら、なんか違うの。亮助君みたいに、めちゃめちゃ好きって感じじゃないのよ。
先輩は好ましいって感じかな。
それって『好き』に入るんじゃないかと思ったんだけど、あたしが答えるより先に、
先輩の口から、『別れようか』って言葉が漏れた。

あたしそのときむかついてね、あと一瞬先輩が言うのが遅かったら、好きだよって答えようとしてたのに、
他に好きな人ができたって言っちゃった。
そうすればあたしが振られたことにならないでしょ。男に振られるなんて、美少女のプライドが許さないから。
そんなこんなで先輩とは終わりました。夏休みに告白されて、ちょうど冬休み前だったから、
四ヶ月、五ヶ月、ってとこかな。長いのか短いのか。
そうそう、クリスマス前だったんだよね。それはちょっと痛かったな。

冬休みがあけて三学期に入ると、あたしは部活をやめたんだ。
きっと先輩と別れたからだとか色々噂されたんだろうけど、それも華々しくていいかなと思ったから。
三学期の間はのんびりしてた。ものすごく暇だったけど、それはそれで楽しかったな。
帰宅部友達もできたしね。
そうやって静かに生活してたんだけど、やっぱりあたしの性に合わなかったのよ。
あたしは人前に立って、大勢に見られるのが好きなんだって気づいたの。
だから二年になるとき演劇部に入ることにした。
友達の友達が演劇部だったから、紹介してもらって、入ってくる一年生よりも一歩リードするために、
春休みからがんばった。

うちの中学の演劇部は、あんまりぱっとしない感じで、ここでならあたしがヒロインをやれると思ったの。
あたしが友達に紹介してもらった演劇部の子が、結構かわいくて清楚な感じで、
今までヒロインっぽい役とかやってるのを見たことがあったの。
それ見ていいなあって思ってたから、その子と友達になれて嬉しかった。
でもその子とあたしはタイプが違うのよ。その子がかわいいなら、あたしは美しいって感じ。
あたしのほうがスター性はあると思うのよ。だからその子を追い抜いてやろうと思ってがんばったわ。

あ、かわいいと美しい綺麗は全然違うのよ。とりあえずかわいいって言っとけばあたり障り無いことが多いでしょ。
でも美人だっていうのは本当に綺麗な人にしか使えないでしょ。
例えば、ぽっちゃりめで顔もくずれてる女の子にかわいいって言ったら、ぽっちゃりしててもそこがかわいいよ、
みたいな意味になるけど、綺麗だねって言ったらちょっと嫌味じゃない?

だけどね、顔自体はそんなに美人じゃないのに、なんかかわいくてもてる子っているのよね。
なんていうんだろ、雰囲気っていうか物腰っていうか、独特のオーラがあるの。
すっごい美人てさ、ちょっと近寄りがたい冷たい印象与えちゃうときあるじゃない、高嶺の花っていうのかな。
でもそういうかわいい子って、親しみやすいのかな、ふんわりした感じがするんだよね。
男ってそういう女の子に弱いよね。

演劇部はほんとうに楽しかった。そりゃあバスケ部と違って自分が好きで始めたんだもんね。
腹筋とか腹式呼吸のおかげで、かなりウエストが細くなったんだけど、
制服のスカートがゆるゆるになっちゃって困ったな。あ、もともとそんなにお腹が出てたわけじゃないよ。
演劇部って体育館の舞台で立ち稽古したりするんだけど、あたしが舞台に上がる頃には
バスケ部の先輩はもう引退してた。その年は地区予選で早々に負けたらしいから。

演劇部は三年になって引退するまで続けた。
引退前の最後の大会では、あたしが主役やってけっこういいとこまで行ったんだよ。
あたしが勝手にライバル視してた友達には勝ったって思った。
それにね、演劇部は先輩とか後輩とかみんな仲良かったから、
部活やってる間は楽しくて楽しくてしょうがなかった。もう部活一色って感じ。
男の子達とも仲良くなって、初めて恋愛抜きで無邪気に接することができた気がした。
仲間って感じ。男女の友情ってあるんだなって思った。

でもね、そうはいかなかったんだ。三年になって引退するとき、友達だと思ってた城本君に告白されたの。
城本君は脚本も書いたりしてて、頭よくってインテリって感じの子。
同じクラスにはなったことが無かったし、城本君だけ特別仲がよかったわけじゃなかったんだよね。
みんなと同じ大切な友達だって思ってた。
だからあたし、そのときなんだか裏切られた気がした。
あたしは友達だって信じてたのに、向こうはそうじゃなかったわけでしょ。
あたしが主役やった台本も城本君が書いたわけだから、もしかしたらあの台本はあたしのために?
とか思ってすっごい恥ずかしくなった。
それに城本君、妙にあたしに勉強教えたがってた。テスト前とかにみんなで勉強してるときも、
なんかはりきって教えてくれてたな。今考えるとそういうことかって感じだよね。

まあ、そんなこんなで、信じてたのに裏切られた気がして、ちょっとへこんでたんだけど、
やっぱり城本君は友達なわけ。傷つけたくないのよ。
でも、断ったら傷つくよなとか思って、あたしかなり悩んだんだよ。
どうして嫌いじゃないのに傷つけなくちゃいけないんだろうって思った。
二人ともが気持ちよく今までの関係を続けられる方法はないのかなって、一生懸命考えた。
受験生なのにね。
で、結局正直に自分の思ってること言うしかないと思って、洗いざらい全部話したわけ。
城本君のこと嫌いじゃない、友達として好きだって。嫌いじゃないから傷つけたくなくて悩んだって。
できたら今までどおり友達でいてほしいって。

城本君は『これから先も友達以上になる可能性はないの?』って聞いてきた。
あたしはあるかもしれないと思った。これから先そうなる可能性があるんだったら、
今ここで切ってしまわない方があたしのため。
でも城本君のためには、ここでその可能性を否定すべきだって思った。
変に期待を残されるより、すっぱり振られた方が城本君もすっきりして次ぎの恋ができるでしょ。
だからあたしははっきりないって答えた。あたしにできることはこれくらいしかないと思ったから。

城本君は泣きそうな顔をしてた。
あたしはその日帰ってから泣いた。

恋愛で泣いたのは初めてだった。やっぱり城本君につらい思いをさせちゃったんだなって思った。
今まで告白された方の女の子が泣くのを何人か見てきて、どうして振った方が泣くんだろうって思ってた。
でもちょっとその気持ちが分かった気がした。やっぱり涙が出るもんなんだね。
少し大人になった気がしたな。

城本君とはね、今でもメールが続いてる。いまでも友達だとあたしは思ってる。
高校は別々。だって城本君頭いいもん。
あ、初恋の亮助君もね、城本君と同じ高校。亮助君てね、何でもできる人なんだ。
城本君も早く彼女ができればいいのにね。そうすればあたしも安心して友達やれるんだけど。
いい人なのよ、城本君。でもちょっと女の子と話すの苦手そうかな。
いい人いないのかなぁ。



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