第三回 『心にダムはあるのかい!!??亡きものにされようとしている過去のレッド・ドラゴンの悲劇!!』
犬川:心にダムはあるのかい?心にダムはあるのかい?
田辺:今日はなんの話ですか?
犬川:僕はね、映画業界の恐ろしさに対して抗議しているのだよ。
田辺:なんかありましたっけ?
犬川:『レッド・ドラゴン』のことよ。
田辺:ああ、もう公開になりましたっけ?アンソニー・ホプキンスと、あとあの人も出てるんですよね・・・あの、エドワード・ノートン。
犬川:ばっかも〜んっ!!!!おまえも業界人かあっ!!おまえらに心はないのかい!?そしてその心にダムはないのかい〜っ!!
田辺:もう何言ってるかさっぱりわかりませんよ。
犬川:ほ〜・・・人間って恐ろしい生き物よの〜・・・。
田辺:なんスか、その歌舞伎口調は。
犬川:俺はよお、何年も前にあるビデオを目にしたことがあるから知ってんだよ、ちゃんと。
田辺:何をですか?
犬川:ある日よお、ビデオ屋でよお、見たんだよ俺は。
田辺:だから何をですか?
犬川:レッド・ドラゴンをさ!!パッケージにはストッキングかぶってる変態のような男が写ってたよ。そのとき俺はこう思ったさ。「へえ、これってすでに映画化されてたのか。ってか『羊たちの沈黙』でホプキンスがレクターのハマリ役になっちゃったからこの映画可哀想だな」ってよお!
田辺:へえ、もう昔に撮られてたんですか、あの作品。
犬川:そういうことよ。それがなんだよ。最近のあのCMはよお。「あの物語には第一章が存在していた」なんてよお!!とっくの昔にそのまさに第一章を撮った監督さんはどんなせつない思いでそのCMを見てることか!!おまえ監督の気持ち考えたことあんのか!!??あんのかよ!!??ああん!!??
田辺:うるさいなあ、毎回この人は。でもそもそもその監督さんは日本のそのCMなんて見てないと思いますけど。
犬川:ほほ〜、そう来ましたか!出たよ!冷静ぶりやがって!日本人は冷たいの〜。冷めとるの〜。
田辺:だからなんですか、その口調。
犬川:ニポンジントテモツメタイデ〜ス。
田辺:誰ですか、それ。その監督のマネですか?
犬川:この金の亡者が!!
田辺:意味わかりませんって。
犬川:とにかくよお、今回新しく『レッド・ドラゴン』が撮られたことで、僕の見つけたあの過去のやつはどんどん闇に葬られていくわけよ。俺はせつないよ。例えばこの過去作でレクターを演じてた俳優の気持ちを考えてみようぜ。
田辺:またっスか〜?
犬川:うるさい!ちゃんと考えろ!きっとやつは『羊たちの沈黙』も自分がレクターをやるって思ったに違いないんだよ。それがどうだ!?ある日やつは居間でテレビをつけたことだろうよ。すると『羊たちの沈黙』のCMがやってるじゃないか!そこでやつはこう思ったに違いない。「あれ?僕やってないのになんでこんな映画のCMが?」とな!そしてレクター役にはアンソニー・ホプキンスがっ!!これほどの裏切りが果たしてあるだろうか・・・。やつはその場で泣き崩れたに違いない。
田辺:居間でテレビをつけたっていう細かい描写をしたのはなぜですか?
犬川:おまえは悪魔だな。デビルだな。前から思ってたよ。おまえは6月6日に生まれた悪魔の子だって。
田辺:オーメンかよ。
犬川:おまえが教会を恐れてた理由もこれでわかったよ。
田辺:恐れてないですし。そもそも犬川さんと教会行ったことないですし。
犬川:おまえはそんなに冷めて、いったいどこに行き着こうとしてるんだ?
田辺:はいはい、わかりましたよ。そりゃ可哀想だとは思いますよ。ホプキンスのレクターがあんなにヒットしちゃって、その俳優さんは確かに可哀想だと思いますよ。でもきっと犬川さんが描写したような、居間のテレビだとか、CM後にその場で泣き崩れただとかいったことは100%起きてませんよ。
犬川:そうか。わかったよ。ボケ老人扱いかね。まあいい。僕ももう長くはここにはいられないからね。
田辺:え?なんでですか?
犬川:俺は知ってしまったからだよ!!過去の『レッド・ドラゴン』の存在を知ってしまったからだよ!!きっとハリウッドのエージェントたちが俺を消しにかかろうとしてることだろうよっ!!
田辺:なにもそのこと知ってるの犬川さんだけじゃないですよ。
犬川:でも過去の『レッド・ドラゴン』を消しにかかってるのは確実だよ。
田辺:どうしてですか?
犬川:おまえなあ、ビデオ屋で旧『レッド・ドラゴン』と新『レッド・ドラゴン』が並んでたとする。どっちをレジに持っていって借りるよ?しかも旧作のパッケージの写真にはストッキングを被ったような変態オジサンが起用されてるんだぞ!
田辺:やっぱ新作のほうでしょうね。
犬川:だろ?するとだな、どんどんどんどん旧作は闇へ闇へと落ちていくんだよ。本物はひとつで良いんだよ!!つまり新『レッド・ドラゴン』が残るってこったよ。きっと旧作は廃盤の憂き目に遭うな。
田辺:まあそうでしょうね。
犬川:そうすると、旧作の存在を知る者もどんどん少なくなっていくんだよ。恐らくエージェントたちもそいつらを血眼になって探してることだろう。やがて俺にもやつらの魔の手が・・・。
田辺:もう帰っていいっスか?
犬川:俺は今からどっかに身を隠すよ。そうだ!ハリウッドに行ってやる!まさかやつらもターゲットがわざわざ自分たちの目と鼻の先に潜んでいようとは思いもしないだろうよ。この才能・・・きっとやつらも俺を見てこう思うはずだ。「この男、消すにはもったいない人材だ」とな。
田辺:帰っていいっスか?
犬川:田辺くん!すまないことをしたな。俺が教えてしまったがために、君も彼らの敵になってしまった。
田辺:聞けよ!
犬川:君も行くかね、ハリウッドに!!
田辺:帰りますよ、僕。
犬川:そうか。帰るか。なかなか人生を達観してるな。やつらが来たときは来たときってやつか。たぶん、今日で君を見るのは最後になるだろう。俺はもう行くよ、ハリウッドに。では、さらばだ!!君が抹殺されないことを祈るばかりだ!!
田辺:じゃあ、僕明日早いんで、失礼します。