店員「いらっしゃいませ。今日はご予約で10名様と伺っておりますが、ご変更などはございませんでしょうか」
学生A「いや、ないです、きっちり10人で、はい、お願います」
店員「それではもうしばらくいたしまして、おそろいになってからご注文をいただきに参りますので」
学生A「はい、わかりましたぁ」
学生B「どこ座ろかな」
学生C「どこでもええやんけ」
学生D「よっこらせ」
学生C「おまえ、そんな端っこすわんなや、もともと喋らんやつがますます喋らんようになってしまうやんけ」
学生B「おまえどこでもええて、ゆうたとこやろ」
学生D「おれはもうここをうごかへんで」(お絞りで手を拭きながら)
学生A「あ、先生、先生方はどうぞこちらで、ええ、こっちが上座ですんで」
学生B「ほんまかいな」
教授・助教授「別に上座じゃなくても、いいよ」
学生D(小さな声で)「端っこに追いやろうという、魂胆みえみえやな」
学生C「何をぼそぼそゆうとんねん」
学生E「あいつ、来ないらしいねえ」
学生A「うん、バイトがあるとか言って」
学生F「バイトと研究室の飲み会、どっちが大事だと思ってんだ」
学生G「バイトに決まってんだろ」
学生B「そうかあ?」
学生F「バイトぐらいいつでもできるだろ、飲み会は滅多にない先生と学生の、あるいは学生と学生の懇親と交歓の愛のひとときなんだ、この時こそ友情を深めないでいつやるんだ、我々は毎日研究で忙しい、研究に没頭していれば口を利く暇もない、しかし重苦しい雰囲気の研究室では研究も捗らない、我々は深刻なジレンマに陥っているといっても過言ではないだろう、だからこそ、寸暇を割いて築き上げたこの貴重な愛の時間を疎かにすることは断じてならない」
学生C「愛の時間て、なんやねん」
学生G「おれは別に忙しくないけどなあ」
学生E「だいたい君もそんなに熱心に研究してるのかい?」
学生C「こないだモー娘のサイト一生懸命見とったん、見てもたしな」
学生F「あれはぼくが未だ知らない概念をネットで調べていたら、偶然紛れ込んでしまっただけだ。と、とにかく、バイトとこの飲み会を比べるとだよ、これは我々だけの問題ではないんだ、君たち暇な学生が数限られた雇用の場を奪うことになってるんだからね、学生は本分に立ち返って研究をするべきなんだ」
店員「失礼します、お飲み物のご注文の方はよろしかったでしょうか」
学生A「とりあえずみんなビールでいいよね、あの、先生方も、ビールでよろしかったですよね」
教授・助教授「うむ」
学生A「あの、生チュー10個で」
学生D「あっ、おれ、ウイスキーの水割りにするわ」
学生E「もっとはやくいいなよ」
学生C「ほんまやで、そうやって店員のおねーさんの手を煩わして」
学生A「すいません、ひとつウイスキーにしてください」
店員「えっと、生ビールの中が九つとウイスキーの水割りがおひとつ、以上でよろしかったでしょうか」
学生A「はい」
学生F「それでだな、我々は社会的な役割というものを考えてもだな、時給700円をシコシコ稼ぐより、余人に代えがたい研究を行ったほうが社会的に効率もいいんだ」
学生E「まだその話は続いてたのかい」
学生B「なるほどな、ほんならおれらの研究、時給にしたら何ぼやねん」
学生G「家庭教師の時給分ぐらいはないとね」
学生B「ほんなら2000円ぐらいやろか」
学生E「実際払ってくれるんだったら、その半分でもいいけどね」
教授・助教授(にがわらい)
店員「おまたせしました」
学生C「お、きたきた」
学生B「早いな」
学生A「みんな、行き届いたかな」
学生C「おまえ乾杯の発声やれや」
学生D「おれが?」
学生B「たまにはやってみいや、いつも他の人に任せてばっかりやろ」
学生C「少しは研究室に貢献せえ、ちゅうことや」
学生D「ほんまにええんか、しらんで」
学生E「いいって、いいって、早くしてよ、みんな待ってんだから」
学生D「ほんなら、まあ」(ゆっくり立ち上がる)
教授「おお、君がやるのか、珍しいな」
学生D「えー、では、みなさん、お手元のグラスのご準備はよろしいでしょうか」
学生C「うまいやんけ」
学生D「世間では景気が悪い、不況だなどと、暗い話題でいっぱいですが、我々にはそんなこと一切関係ありません、今日は大いに飲みましょう、かんぱーい」
学生H「あはははは」
その他一同「・・・・・」
学生D「なんでうけへんねん」
学生H「はははは」
学生G「うけるわけねえだろ、不謹慎だぞ」
学生F「そうだ、関係ないとは何だ、我々こそ社会の上に立たざるをえないものとして、下々に不満があるなら誠実に耳を傾け、それを解決していかなくてはならないのだ」
学生B「いや、君は上に立たんでもええけどな」
学生D(小さな声で)「これやから京大生とは話ができん、何でもまともに受け取るから冗談ひとつ言われへん」
学生C「またそんなちっさい声で、みんなに聞こえるように声張れよ」
学生D(いくぶん大きな声で)「せやからな、君ら京大生は与えられたもんを素直に正直に正確に受け入れて、そのまま飲み込む能力は抜群やけどな、自分独自の考えをもって目の前にあるもんに疑いを持ってみるということができひん、まあ、せやなかったら、受験で勝ち残ることはできんねんけどな」
学生G「よくある受験教育批判の受け売りじゃないか」
学生C「それよりおまえも京大生やんけ、忘れとんちゃうか」
学生D「おれは裏口で入ったんや」
学生C「そんなことできるんか、この日本の国立大学で裏口入学て、そっちの方がまともに入学するより難しいで」
学生F「そもそも裏から入ろうが表から入ろうが君は京大生には違いないんだよ」
学生D「それを言われると痛い」
学生E「どうして痛いんだよ」
学生C「でも、この国の大学は入ってなんぼやからな」
学生B「おまえよその国の大学入ったことあんのか」
学生F「とにかく、改めて思うに、乾杯の発声としては不適格だが、彼の言うことには一考に値する内容が含まれているのではないだろうか、少なくとももう少し耳を傾けてやってもいいかもしれない」
学生C「あの乾杯が下々の不満の声とでもゆうんかい」
学生F「いや少し違う、ニュースなんかで失業率が何ポイント上昇したといわれても、裕福な親のすねをかじっている我々にとっては馬の耳に念仏というものだ、確かに我々は与えられたものにしか反応できないかもしれない、だから世の中の痛みの声が遠いものであるなら、優秀な我々の頭脳は作動できないんだ、それなら、我々は腰を落ち着けてる場合ではなく、自ら足を運び声の聞こえるところまで近づいていかなくてはならないんだ」
学生D「なかなかええこというやんけ、世の中機会の平等、へたすると能力まで人間生まれたときは平等などとぬかしやがるおつむのゆるい連中がおる、あいつらコケかキーキーやで、いやサルのほうがまだええわい、サルの社会ははっきりしとるからな、喧嘩の強いやつがすべてのメスと交尾できるんや、日教組の洗脳を経験してきた君らもうすうす気がついとるはずやで、人間には階級があるっちゅうことにな」
学生F「ちょっと待てよ、君の論理でいくと、君の属している社会は、君が頭のゆるい人たちを罵倒したときに用いた表現でいうところの、サルと同じであるということになる、君はどうも自分のことを棚に上げる癖があるようだね」
学生D「痛いとこつくやんけ、おれは頭悪いからな、間違えることもあるわい、しかしおれの話を理解しとるということは少し見直したで、生まれてから自分が教わってきたことに疑いを持ったことのない人間は、この階級のことをいわれてもすぐには理解できんことが多いからなあ、さすが京大生というべきかな、飲み込みが早い、とにかく君ら京大に合格するような息子を産み落とすことができた親が貧困に喘いどるなんちゅうことあらへんやろ、周りで聞いたことあるか、パンの耳齧って育ったちゅうな話、君らしっとるか、大蔵(現在の財務省)のキャリアになろ思たら親の年収が1000万なかったらあかんちゅうことをな、だいたいな、あのDNAちゅな、繊細な物質はやな、ちょっとした拍子に狂ってしまうもんなんや」
学生F「そこまでいくといいすぎということになる、しかも最後は意味がわからない、それに君は確か裏口入学をしたんだったね、すると君の親は相当な金持ちということになる、つまり君は家の金持ち自慢をしたいんだね」
学生D「ぐう」
学生E「それにさあ、おれの友達のさあ、親戚の部下が会社首にされたっていってたよ」
学生C「なんや、おまえとは関係ないやんけ」
学生G「それってやっぱ、リストラなわけ」
学生E「いや、得意先の役員の娘に手を出して、不興を買ったらしい」
学生G「はは、確かにフキョウのせいだね」
学生B「でもさあ、おれらもさ、行きたいとこ就職したくてもできないってことはよくあるわけでさ、決して楽じゃないよね」
学生F「それは君の肥大した自意識が邪魔になってるだけだろ」
学生G「雇用のミスマッチってよく聞くよね」
学生E「そうそう、うちの兄貴も初任給50万で美人秘書つきの仕事がしたいって、探したけどなかったっていってた」
学生B「それはわがままなだけだろ」
学生F「セーフティネットっていう言葉も一時期流行ったな」
学生G「ああ、失業してマンションから飛び降りて自殺する人を救うために、下にネットを張っとくっていうやつだろ」
学生B「違うけど、それも一部に含まれるかもしれない」
学生F「いずれにせよ、政府にしっかりしてもらわなくては困る、そもそもこの不況は我々のせいじゃないもんな、おっさんどもが不況にしてしまったんだ」
学生E「そうだそうだ」
学生A「あんなこといってますよ、先生」
教授・助教授(にがわらい)
店員「そろそろお料理のご注文の方、お伺いしてもよろしいでしょうか」
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