とりあえず、11人数えてみよう。
1.オーシャン
2.ブラピ
3.マットデイモン
4.老いぼれ詐欺師
5.通信マニア
6.爆破担当の黒人
7.8.双子
9.中国人曲芸師
10.ユダヤ人のパトロン
11.元八百長ボクサー
ちゃんと数えられるか不安であったが、数は足りた。しかし「オーシャンの11人」というと、オーシャンを入れると12人になるのではないか。このあたりは英語の文法の問題である。「オーシャンと11人の仲間たち」とった感じの邦題であれば、問題はなかったのに。映画を見てから、一週間以上たっているので、もう記憶が定かではない。まあ、思い出せないほどの脇役のことは別にいいだろう。
 この映画「オーシャンズ11」は、ハリウッド娯楽映画としてほぼ完璧なのではないか。監督のスティーブンソダーバーグは「セックスと嘘とビデオテープ」で有名になったわけだが、あれを見てマニアックでマイナーな作風の人だと思っていた。ここのところ当たりを連発している。化けたのか。
 とても理屈っぽい映画を作ることからわかるように、頭が明晰なのだろう。だから分析的に娯楽映画を作ることができる。何億ドルという大金をはたくのだから、情熱だけで制作するわけにはいかない。リスクが回避できない。情熱以上にロジックが必要なのだろう。
 ぴったり2時間に編集され、ひとつの目的に向かって休む間もない進行でスピード感を出しているようでいて、1時間過ぎたころにオーシャンとテスの男女のいきさつを2シーンくらい入れて、ダレ場を用意している。観客はそこで頭を休める。
 主役級のキャラクターはたくさん出ているが、それぞれに見せ場を与え、かつ、平等ではない。上に挙げた順位で、下に行くに従って出番は少なくなっている。それがメリハリになる。
 そして、緊張感もある。厳重に守られたものを盗み出す映画でぼくがすぐ思いつくのは、「ミッションインポシブル」だが、あれは主人公が国家機関のスパイで失敗が許されず、冷酷で深刻であった。それと違って「オーシャンズ11」は主人公がゴロツキ達である。感情移入する観客は、気が楽である。疲れることがない。
 それから、悪役の存在とハッピーエンドである。これほど留保も譲歩もない(オーシャンは最後、少しの間留置所に入れられるけど)、アホみたいなハッピーエンドはいまどき珍しいのではないか。カネを獲得するだけではなく、女も取り戻してしまうのである。
 しかし、ハッピーエンドでカタルシスを手に入れるためには抑圧つまり悪役が必要で、それは行動の動機につながるのだが、この映画の悪役はやや特殊である。アンディガルシア演じるマフィアは、権力を握って不法にカネを稼ぎ、憎たらしいが、オーシャンの嫁を横取りしたこと(これもテスの自由意志によるとも考えられる)以外、悪いことはしていない。むしろ、そのワーカホリックぶりは同情に値する。これでは、マフィアが不幸な被害者になってしまう。
 これは逆から考えてみるべきかもしれない。最近の物語では、熱烈な動機は疎んじられる傾向がある。もっとさっぱりと凄いことを仕出かすことが、かっこいい。だからブラッドピットは私情を挟んだオーシャンに対して怒るのである。「仕事に私情を挟むと失敗する」という説明で。
 ここでもう一度逆に考えると、主人公はオーシャンなのだ、ということになるかもしれない。私情を挟むのは他の仲間ではないのである。オーシャンがリーダーであることによって、この映画は冷静で無機質なプロフェッショナリズムを批判しているのである。だから、オーシャンはとてもかっこ悪い。しかし、いわば人間味は出ている。
 これは「エリンブロコビッチ」とは反対の構造である。エリンはヒューマニスティックな人物として描かれていた。(ぼくはジュリアロバーツがアメリカで多大な人気を博していることが長らく理解できなかったが、「エリン」を見て少しわかったと思う。ジュリアロバーツは数カットのすばらしい笑顔を見せた。まあ、映画そのものがよかった。砂漠が象徴する荒涼寂漠たるアメリカで、かなり翻弄されながらも、人間として筋を通して生きて、報われる主人公は感動的である。これは事実に基づいた映画だが、事実にあわせた強引なキャラクター設定がうまくいったのだろう。)しかし、映画の内容はカネの話ばかりである。企業から賠償金をがっぽりせしめた地域住民は、その金額を聞いて、涙を流して喜ぶ。エリンもじぶんの報酬額を知って狂喜する。まったくカネまみれの映画であった。
 多分その反動であろう。「オーシャンズ11」では純愛がストーリーの根幹になっている。監督は「エリン」で、カネに食傷したのだろう。それで、純愛がやりたくなった。ただ残念ながら、ジュリアロバーツはどうしたわけか、味気なかった。魅力がなかった。一流女優を使った、という記号としての美女でしかなかった。
 さて、「オーシャンズ11」の音楽はガイリッチーの「スナッチ」の音楽にそっくりである。犯罪がテーマで共通するから音楽も似てしまったのか。ハリウッドは、これはぼくの主観だが、アメリカ以外の作品を平気で剽窃する。例えば、「タイタニック」のラスト、女がドア板の上に載って助かるシーン。あれは宮崎駿の「未来少年コナン」だ。また、一時期昆虫の世界をアニメ化することが流行ったが、あのアイデアは宮崎さんがあちこちで喋っていたものだ。
 これはアメリカの一国主義ぶりが表れている。アメリカの中でなら、秩序や礼節は必要だが、国外に対しては下品に振舞っても構わない。海の遥か彼方のことだから気にすることはない。
 でもまあ、映像表現では、パクリパクられが常態かもしれない。日本でも、外国から盗んでいるだろう。
 最後にスティーブンソダーバーグと「ウォール街」の関係について。「エリンブロコビッチ」では企業秘密をつかんで、それを利用してのし上がっていく。「オーシャンズ11」では、ブラピがキャラとして盛り上がってきたとき、棒つきのアメちゃんを舐める。これらの要素はいずれも「ウォール街」で見られるものである。




目次へ