最終更新 2003/04/13 20:48:07
時計は九時半を指していた。
彼女はシャワーを浴び、バスタオル一枚という姿で、床と言わずベッドと言わず部屋一面に広げられた洋服の山とにらめっこをしていた。
散々悩んだ末、どうにか今日着ていく服を決定する。
忙しい日々にピリオドを打ち、彼とのデート。
既に彼に抱かれたことはあったが、デートらしいデートというのは初めてだった。
普段は自信に満ちた彼女も、今日はどこか不安そうだ。
(この服、気に入ってくれるかな?)
時計が十時を指す。
約束の時間。
彼は来ない。
電話を入れる。
留守電になっていた。
電話を切り、ベランダに出る。
空を見上げると、雲一つなく、空いっぱいに広がる青。
下の道路を見下ろす。
車は来ない。
部屋に戻り、冷蔵庫からペットボトルを取り出す。
コップにミネラルウォーターを注ぎ、一気に飲み干す。
落ち着かない。
「……下で待ってよ」
エレベーターを使い、一階まで降りる。
そこへちょうど車が来る。
十時十五分。
「十五分の遅刻」
彼女はふくれっつらで怒る。
だけど、どこか嬉しそう。
「ごめん。何着ていこうか迷っちゃって……」
そう言う彼の服装は、黒いTシャツにジーパン。
「迷って、それ?」
「この車、どうしたの?」
彼女が尋ねる。
黒のオープンカー。
「友達に借りた」と彼。
彼は夏に入る前に、バイトをしながらやっとの思いで免許を取った。
さすがに車にまでは金は回らない。
ゆっくりと速度を上げる。
車は街中を走る。
夏の熱い空気を、黒い風が切り裂く。
カーラジオから聞こえるのは今一番人気のアイドルのサマーソング。
二人黙ってしばしその歌を聴く。
「あっ」
街を抜けた頃、彼女が声を上げる。
「どうしたの?」
彼は聞き取りやすいようにラジオのボリュームを下げ、速度を落とす。
「ロードマップ忘れちゃった。いろいろメモして用意してたのに……」
「どうする? 取りに戻る?」
「……ううん。いいよ」
彼女のロングヘアーが風に乗って舞う。
「適当に走らせれば、海に出るでしょ?」
「……そうだね」
彼は微笑むと、アクセルを踏みこんだ。
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