最終更新 2003/04/13 20:48:05

そんな彼女

「あ〜もう、ムカツク〜!」

 怒り一辺倒といった感じで、彼女が叫ぶ。カラオケで、十八番の歌を中断させられたことに腹を立てているのだ。

「怒るのはいいけど、怒鳴るなよ。近所迷惑だろ」

 今はカラオケからの帰り道。もうすぐ日が暮れようかという時間だ。

「む〜……だって、まだ3分はあったのよ! 十分歌いきれる時間だったのに。あの店員、あたしが上手いもんだから、嫉妬して早めにやめさせたのよ」

「……んなわけないだろ。まあ、お前が上手いのは認めるけどよ……」

 その時、路地を縫うように風が吹く。ふと空を見上げると、雲の流れが速い。

「風が出てきたな。早く帰ろうぜ」

 俺達の住むアパートは2K。六畳の洋室と四畳半の和室だ。六畳を居間に、四畳半を寝室に使っている。

「ねぇ、何か作ってよ」

 彼女がハンドバッグをソファの上に放りながら言う。そしてテレビを点け、窓を開けた。冷たい空気が部屋を満たし始める。

「それって普通男のセリフじゃない?」

「古いわね〜。大体あなた、レストランで働いてるでしょ」

「まだ、皿洗いだよ」

 そう言いつつも、俺は冷蔵庫を開け、中身を確認する。

「……見事なまでに何も無いな。まあ、チャーハンぐらいなら作れるか」

 卵と余りものの野菜を取り出し、チャーハンを作り始める。音と匂いで分かったのか、彼女がテレビを見ながら文句を言う。

「なあに、またチャーハン? もう少し芸のあるもの作りなさいよ」

 まだ機嫌は直らないらしい。

「なら食うなよ」

「食べるわよ!」

 あっという間にチャーハンはなくなった。空になった皿の上で、スプーンがカチャリと音を立てる。

「ごちそうさま。……まあまあ、上手くなったじゃない」

「御飯粒一つ残さず食べといて良く言うぜ。……あ、そうだ」

「何?」

「昨日ワイン買ったんだ。飲む?」

「ワイン? 飲む飲む!」

 やたらと嬉しそうに、彼女が答える。

 ……さっきまで機嫌悪かったのに、飲食一つでこれだもんな。子供だね、まるで。

「何か言った?」

「いいえ」

 俺はクスリと笑うと、グラスを取りに台所に向かった。