a novice at wizard
| エルが部屋に戻ると、なぜか廊下にクロと浴場で会った女性がいた。 「夕飯一緒に食べないか、だってよ。どうする?」 あまり気乗りしていないような声で、クロ。どことなく「断れ」と言っているかのようだったが、断るような理由がないので、 「いいけど……知り合い?」 クロはがっくりとうなだれて返事をしない。それを気にした風もなく、女性が答えた。 「ええ。さっきはすみませんでした。クロさんのお弟子さんだと知って、驚いてしまったもので」 「い、いえそんな。こちらこそ……」 こちらこそ……何だろう。とりあえずそう言ったはいいが、後に続く言葉が見つからない。言葉を探してあたふたするエルに、 「お腹も空きましたし、行きましょうか? 美味しいお店を知っているんです。あ、私のことはフィーリアと呼んでください」 女性は優雅な笑みを浮かべ、そう言った。何か返事をしなければならない。そう思いながらも、 「え、エルです」 恐縮したままの頭では、それだけ言うのが精一杯だった。 女性……フィーリアの案内した店は、いわゆるバイキングだった。比較的安いこともあってか、客はかなり入っている。フィーリアはその容貌に似合わず、静かで上品な店よりもこういう騒がしい店の方が好きなのだった。クロは何回か似たような場所で彼女と食事したことがある。 ちなみにこの店は、品揃えは豊富で味もなかなか良かった。以前、苦手な鶏肉の専門店に連れて行かれた時はどうしようかと思ったものだが。そのことに少しだけ安堵した。 「……クロ、卵料理好きなの?」 エルが、クロの皿を見ながら聞いてきた。オムレツに目玉焼き、ゆで卵……肉やサラダもあるにはあるが、全体の約八割が卵である。 「嫌いじゃないぞ」 「嫌いじゃないってレベルじゃないでしょ、それは」 言われて、クロは改めて自分の皿に目をやる。そう見えるだろうか。外食……特にこんなバイキング形式の店に来た時は、大抵こんなものなのだが。 「ま、気にするな」 少し考えたが、問題があるわけではないのでそう答えた。別に一年中卵ばかり食べているわけではないし。 「……」 それでもエルは、パンをもくもくと食べながら横目でこちらを見てくる。他人にそういう視線を向けるのは感心しない。そう言おうとしたところで、 「エルさん……そんなに見つめられては、クロさんも食べづらいでしょう。ただ好きなものを食べているだけなのですから、そんなに珍しがることもないと思いますよ」 「えあ? あ、そ、そうですね……」 恥ずかしげに顔を伏せるエル。どうやら、彼女もフィーリアには苦手意識を持っているらしい。ただ単に年上だから、という理由なのかもしれないが。 フィーリアはこの地域――東エリアを担当する連盟の人間である。 一口に東エリアと言っても、国を四分したうちの一つなのだからかなり広い。エリアごとに何十人、何百人、何千人もの担当者が存在し、彼女はその中の一人だった。 言葉を信じるなら、彼女らは普段、東エリアの治安維持に勤しんでいる。警察では対処できない、魔法や魔法使いの絡んだ特別な事件。それらを早期に発見し、連盟に報告するのだ。連盟にはそういう事件専門の警察組織――通称騎士団というものがあり、彼らが事件を解決する、ということになる。 そして、彼女らの仕事はもう一つある。 トーナメントの進行係。二次予選開始の二ヶ月前、参加資格を持っている百二十八人の魔法使いをチェックし、参加選手のリストを作成するのだ。 他にもまだ一つあるのだが、基本的な活動はクロの知る限りその二つだけだった。連盟……と言うか、彼女自身に謎が多いため、それ以上のことは解らない。彼女以外の担当者にも会ったことがないし。 そんなことを考えていると、 「わたし、飲み物とってくるね。何か欲しい?」 エルが立ち上がった。辛いものでも食べたような顔をしている。彼女の皿を見ると、赤い色のピラフが食べかけになっていた。 「じゃあ、水」 「私はけっこうです」 クロはパンに目玉焼きの黄身をつけながら、フィーリアはスープを飲みながら、それぞれ言った。エルは頷き、「あー辛かった」とか呟きながら飲み物のコーナーに向かって行く。 「……可愛らしいお弟子さんですね」 エルが、声が聞こえなくなるほど離れたところで、フィーリアが言った。パンを口に入れながら彼女を見ると、優しげに微笑んでいる。 「最初に会った時は、正直信じられませんでした。あなたは弟子を取るようなタイプではないと思っていましたから」 もし、勝負に負けて無理やり師匠にさせられたと言ったら、彼女はどんな顔をするだろう。少し好奇心が湧いたが、黙っておいた。油断していたとは言えプロの魔法使いが素人に負けたなどというのは、クロにとって恥でしかない。 「一体、どういう風の吹き回しですか? まさか彼女に好意を抱いているとか……」 「んなわけあるか。……あいつの持ってる魔法。呪文が何だか解るか?」 「? いえ」 「風の騎兵」 その言葉を聞いた瞬間、フィーリアの顔に、それまでとは違う感情が浮かんだ。彼女が滅多に見せないそれは――驚愕だった。 「それは……彼女が、シズクさんに会ったことがあると?」 「十年だか前に、一回だけ会ったらしい。風の魔法に襲われてたところを助けられて、それ以来魔法使いに憧れてたんだと。呪文が一緒なのは……何か思い入れでもあるんじゃないのか?」 「……」 「ま、あの事についてはあいつは何の関係もないだろうけどな。でも、少し気になった。他の奴なら夜逃げしてでも弟子になんかしなかったんだが」 「夜逃げ?」 「何でもない。とにかく、それだけの理由だ。あいつの熱意も半端じゃなかったし、別にいいかと思ったんだよ」 ちらっとエルの方を見る。混んでいるようで、列の中ほどに並んでいた。 フィーリアはしばらく驚いた顔をしていたが、やがて静かに微笑んだ。 「そう、ですか。あなたがそう決めたのなら、私が口出しすべきではありませんね」 「半分は無理やり決めさせられたんだけどな」 「え?」 「何でもない」 頭を振り、話を打ち切ろうとした。だが、フィーリアは構わず続けてくる。 「でもクロさん。どうするつもりです?」 「何が」 抵抗の姿勢としてジャガイモのフライを頬張りながら、聞き返す。 「あんな可愛らしい、それも食べ頃の女の子を弟子にして。別にクロさんを色魔扱いするつもりはありませんが……やっぱり、興味のあるお年頃でしょう?」 「誰が色魔だ。そんな気は全くない。あと、食べ頃とか言うな」 「またまた。いいんですよ、私はそういうことには割と寛容ですし」 「……俺だって命は惜しいんだよ」 「は?」 「何でもない」 エルの両親の忠告(脅迫とも言う)を思いだし、クロは心なし青ざめた。どんなに真面目に聞こうとしても冗談にしか聞こえない言葉だったが……あの威圧感。妙に現実味のある雰囲気。そして、言葉の端々に垣間見える殺意。あれは、本気だった。 エルに対するそういう気は全くない。むしろ自分から回避する……そういうクロの雰囲気を察したのだろう。フィーリアは訝しげな顔をしながら、残念そうなため息をついた。 しかし、それで終わりかと思いきや、話はまだ続いていた。 「でも、エルさんは本当に可愛いですよね」 「……そう、なのか? よく解らん」 「そうですよ」 フィーリアは振り向いて、ようやく前の方に移動できたエルを見る。そう言えば、彼女はこの手の話が大好きなのだった……半年ぶりに、クロはそのことを思い出した。 「小柄な体格に、幼さを残した可愛らしい顔。そのくせ体の方は生意気にもそこそこ発達しているんですもの。男は絶対放っておきませんよ」 「ふーん……ん? あの服の上から体の発達具合なんて解るのか?」 オムレツを食べながら、返事。エルの白い服はゆったりとしていて、どちらかと言うとボディラインははっきりしないタイプのように思える。 「お風呂で会った時にじっくり鑑賞させて頂きました。あの容姿なら、そうですね……人質役とかはさぞ似合うでしょう」 「そんな役が似合っても、本人は嬉しくないだろうな」 「敵に捕まって危機に陥っているところを、王子様に颯爽と助けてもらう。女の子の憧れですよ?」 「どうだか……て言うか、危機になんか陥らない方がいいだろ」 「……それもそうですね。実際に捕まったりすると、××とか××とかされちゃいますし」 「……そういうのは冗談でも止めとけ。全く笑えん」 クロは半眼になって、ボソリとそう言った。 「それでは。おやすみなさい」 宿屋に戻り、クロ達の部屋の前でフィーリアはそう言った。慣れない徒歩での旅に、石投げの練習。疲れが出ているらしく、エルは眠そうな声で「……おやすみなさい……」と返事する。意識の半分は、既に夢の中のようだった。 フィーリアは苦笑しながら、クロの方を向いてきた。隣でエルが首をかっくんかっくんさせている。立ったまま寝るつもりだろうか。そう思いながら、クロは言う。 「まあ、楽しかったよ」 社交辞令も混じってはいるが、本音でもあった。この女につきものの厄介事は今回なかったし、長い間一人で旅をしてきたから、誰かと話をしながらの食事というのも久しぶりだった。 「それじゃ。おやすみ――」 「クロさん」 部屋に戻ろうとしたところで、フィーリアに呼び止められた。エルはまた「おやすみなさい〜〜」と言い、一人で部屋に入っていく。 「何だ?」 「さっきの話なんですが」 さっきの話。はて、何だろう。思い当たらないクロに、フィーリアは「人質云々のことです」と告げた。 「ああ、あの笑い話か。あれが?」 「――まだ、未確認の情報なのですが」 フィーリアの声は真剣だった。笑い話ではない――そう判断し、クロも静かに耳を傾ける。背後でエルの寝息が聞こえ始めた。 「この近くに、ある魔法使いが住んでいます。腕はそれほどでもないのですけれど」 フィーリアが名前を伏せたのは、情報が間違いであった場合、その彼だか彼女の尊厳を貶めることになると考えたからだろう。クロもそのことには同意見なので、名前を聞くようなことはしない。 「……それで?」 「……情報によると、彼女は魔法の売買をしているらしいんです」 彼女……と言うことは、そいつは女らしい。男だと思っていたクロは、少し意外に思った。 魔法の売買――決してありえない事ではない。魔法というのは、解放言語さえ知っていれば誰にでも使える力だからだ。素人が持っているのは危険過ぎるため、連盟ではこうした犯罪に特に力を入れているのだが……それでも、完全に抑止するには至っていない。 「今はまだ解りませんが、この情報が正しかった場合、またクロさんの力をお借りすることになるかもしれません。ですが……もし、その事が彼女に知られたら――」 魔法使いであるクロには、中途半端な刺客など通用しない。逆にそいつらを捕まえて尋問して、情報を引き出すだろう。クロ本人を攻めるのは、その彼女にとっては得策ではない。 クロには今、エルという弱点がある。クロが敵に回ったら、彼女は絶対にそこを突く。フィーリアはそう言っているのだった。 「人質役が似合っているなんて、笑い話以外の何でもないですが……本当に人質にされてしまっては、笑えるものも笑えなくなります。あなたが近づいてくれば、彼女はあなたのことを監視するでしょうし……くれぐれもお気をつけください」 「……俺じゃなくて、他の奴の力を借りればいいことだろう」 嫌味でも皮肉でもなく、クロはそう言った。フィーリアが大げさなため息をつく。 「確かにそうではあるのですが……でも、クロさん。あなたは――」 「解ってる」 フィーリアの言葉を制して、クロは言った。 「同じ事を何度も言われてるからな。もう覚えてる」 「……すみません」 謝る彼女に、クロは嘆息した。 「別に謝ることないだろ。心配しなくても、エル一人くらいは俺が守るさ。……死にたくないからな」 「……クロさん」 訝しげに、フィーリアは問うて来た。 「ずっと気になっていたのですが、あなたは何を言ってるんです?」 翌朝エルが目覚めると、クロの姿は既になかった。 「……早起きしたのかな?」 昨日野宿した時は、起床時間はエルとそう変わらなかったはずだった。目を擦りながら床にある靴を履く。クロの荷物は既にベッドの上に整えられていた。気の早いことである。 「そんなに急がなくてもいいのに……」 エルが呆れながら思っていると、部屋の扉が開いた。入ってきたのは、案の定クロだった。 「やっと起きたか」 呆れたような響きのその声。エルは眉をひそめる。 「やっとって事はないでしょ。クロが早起きしたんだから」 「……時計を見てみろ」 「?」 言われて、枕元に置いてあった時計を手にとる。 文字盤を目にした瞬間、エルは凍りついた。 「……十時?」 「みたいだな」 どうやらクロが早起きしたのではなく、エルが寝坊したらしかった。十時。休みの日であればこの時間まで寝ていることもあったが…… 「……ひょっとして、もう出なきゃまずい?」 「身支度するならできるだけ急げ」 淡々と言われたその言葉。エルは急いで風呂場に向かった。部屋に備え付けられているほど豪勢な宿ではない。 「朝飯はもう終わったからな。道すがらパンでも買って食え」 クロの声が、後ろから追ってきた。 我ながら記録的な速さで部屋に戻り、リュックを漁って服を取り出す。その場で、昨夜いつ着たのか全く思い出せない寝間着を脱ごうとして、クロがいることに気付き、 「ちょ――」 「早く着替えろよ」 クロはトイレに入るところだった。手際のいいことである。エルはしばらく呆然としていたが、慌てて服を脱いだ。のんびりしたいが時間がない。 「ねえ! フィーリアさんは?」 『もうとっくに出た。五時くらいだったか、あいつが挨拶に来て、それで起こされた』 手は止めずに聞くと、どことなく苛ついた返事が返ってきた。多分、その時はクロも熟睡していたのだろう。それはそうと、お別れを言えないのは残念だった。次はいつ会えるか解らないと言うのに。 荷物を片っ端からリュックに詰め込みながら、ふと思い出した。昨夜聞きそびれてしまったこと。 「ねえ……クロと、十年前にわたしを助けてくれた人って……ひょっとして知り合い?」 その言葉を口にした途端、クロが緊張したような気配がした。そんなにきわどいことを聞いただろうかと、エルは不審に思う。 「……どうしてそう思うんだ?」 わずかに強張った声音。何となく、クロは聞かれるのを拒絶しているかのような気がした。 だが、はっきりと拒まれたわけではない。エルは構わずに答えた。 「わたしの呪文聞いた時、驚いてたから。知ってるのかなと思って」 「……知り合いって言えば、知り合いだ」 「ただ、」と、エルがより深く聞こうとする前に、クロは言った。 「もう何年も会ってないし、これからも多分会うことはない。今そいつがいる場所も……俺は、知らない」 「……そうなんだ」 がっかりしなかったと言えば嘘になる。だが、これは知っていたなら儲け物、知らなければそれで良しくらいの質問だったのだ。あの人の過去をクロが知っているだけでも、十分だ。 「じゃあさ、今度色々聞かせてよ。あの人のこと」 「……また今度な。それよりエル――」 まだ着替え終わらないのか。何となくではなく、はっきりと苛々している声に、エルは慌てていつの間にか止まっていた手を動かした。 そこは、わずかに豪奢なだけの普通の屋敷だった。目を見張るほど裕福ではない。明日の暮らしに困ることもない。普通の人間よりほんの少し金に余裕のある、そんな人間が住んでいそうな屋敷だった。 建てた人間の趣味なのか、ほとんど人の来ない山の中にある。景観や環境というものには非常に恵まれているが、便利さという点では難色を示すしかない。なにせ、一番近くの町へ行くのに一時間かかる場所にあるのだ。 もっとも屋敷の主人にとっては、そんなことは大して重要でもないのかもしれない。なぜなら、屋敷の外へ一歩も出ていないのだから。 屋敷の中。二階の一番北側の部屋が、その主人の私室だった。 室内は暗い。昼間からカーテンを閉めきっているのだ。日当たりが特に良いというわけでもないので、ランプの小さな光がなければほとんど真っ暗だった。唯一の光源であるランプは机の上に置かれていて……その光が、ベッドの上も照らしていた。 そこには、横たわっている少女に覆い被さるようにしている、一人の男がいた。 痩せていて青白い顔色。長髪の、あまり健康そうではない容貌である。彼は醜悪な笑みを浮かべ、組み敷いている少女を見下ろしていた。 一方の少女は、それに何の表情も見せない。受け入れるでもないが、拒むでもない。ただ無表情に、焦点の定まらない目で虚空を見つめていた。目の前にある男の顔も、見ていないかのようだった。 長い黒髪の、端麗な少女である。容姿という点では、男とは不釣合いなように見えるのだが……少女はそれも、気にしている様子はない。 と言うか、少女はまるで意識がないかのようだった。微かな呼吸とまばたきさえなければ、人形のように見える。 その、人形のような少女の髪を、男がそっと撫でた。彼はもう片方の手――魔法使いの証であるリングを、二つはめた手――で、少女が着ているブラウスの胸をはだけさせていく。ゆっくりと、ゆっくりと。 白い肌が露わになり……その時、扉をノックする音がした。男はチッと舌打ちをし、身を起こしてリングのはまった中指を少女に向ける。紅い色の宝石が、淡く発光した。 「誰?」 突然、少女が能面のような表情のまま口を開いた。 『ウィルです。お嬢様、その……商品の準備が完了しました』 彼の声には、若干の躊躇いが含まれていた。犯罪者の自覚がある者の、独特の後ろめたさ。 少女はそれを気にした風もなく、言った。その声には、彼をねぎらうような響きがある。無表情のままそんな声を出す少女の姿は、はっきり言って不気味だった。だが、子の場で唯一少女の表情を目にしている男は、それを当然のように眺めている。 「ご苦労様。お疲れでしょう、今日はもう終わっていいですよ」 『……はい。あ、それともう一つ』 男が、舌打ちをまた一つ。 「何?」 『以前言っていた魔法使いが、この近くの町に来ています。まあ近くと言っても相当離れてはいますが』 「そうですか……ウィル」 『はい?』 「黙せよ、人形」 男が呟いた。突然割り込んだ声に、扉の向こうから驚愕の気配が伝わってくる。だが、なぜか詰問や人を呼ぶ声は聞こえなかった。 『――っ!?』 扉の向こうのウィルが、痙攣したような気配。 その瞬間、突然ウィルの声が変わった。ひたすら無機質な声になる。まるで、魂が抜けたかのような。 「以前伝えた特徴と比べて、変わっていた部分を全て挙げてくれ」 少女ではなく、男が言った。だが、ウィルはいきなり割り込んできた声に全く疑問を示さなかった。 『身長が二〜三センチ伸びています。体格もやや大きくなりました。体重は五キロ前後変化していると思われます。髪は――』 「身体的な特徴はいい」 『少女を同行させています』 簡潔に言われたその言葉に、男は不審そうな顔をした。 「少女? まさか、弟子?」 『不明です』 「すぐに調べて……いや」 一度自分の言葉を否定し、新たに告げる。 「監視だけ続けて、更に近づいてくるようなら、また連絡するんだ」 『解りました』 「もういいよ」 『――っ ……ではお嬢様。失礼します』 ウィルは急に感情のある声に戻り、そう言った。離れて行く音が聞こえる。 「……クックックックック……弟子、か」 男は押し殺した笑い声を発しながら、ニヤリと笑った。笑顔のはずなのに、それは人をゾッとさせる笑い方だった。 「ちょうどいい。これを利用させてもらわない手はないな……」 恐ろしげな笑みを浮かべたまま、男は再び少女に覆い被さった。左手で服を脱がせ、右手で体を撫で回していく。 その途中で、男はまた呟いた。 「もうすぐだ、クロ……もうすぐ君と――」 そこから先は言葉にならず、男は再び不気味な笑い声を続ける。その間にも手は止めることなく、ゆっくりと少女の服を剥ぎ取って行く。 「……」 物言わぬ少女の瞳から、涙が一粒流れ落ちた。 |
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