出来損ないの支配者

 

 ときどき、フェイトは思うことがある。

 自分は一体、何なのだろう。

 魔族として生まれたわけではなく。

 人間として育てられたわけでもなく。

 魔族からは特別に扱われ、人間からは忌み嫌われ、そして両方から恐れられる存在。

 物心ついたときから魔王だったフェイトにとって、仲間や友達というものは何よりも憧れるものだった。人間が親しい人と一緒にいるのを見て。周囲の魔族が誰かと笑いあっているのを見て。フェイトはいつも思っていた。

 自分には、どうしてあんな相手がいないのだろう、と。

 そう思っていたうちに目の前に現れたのが、リヴだった。

 どこからか連れてこられた、フェイトよりもずっと年下の、ちっぽけな少女。

 彼女の存在はフェイトにとって救いだった。それは間違いない。

 だが。

 彼女は、フェイトが欲する“仲間”にはなりえなかった。

 彼女はフェイトにとって妹であり、また彼女にとってフェイトは兄だった。兄妹の関係は、対等ではないのだ。

 フェイトが欲するのは、仲間。

 好きなように好きなことを言い合える、対等の存在。

 東、西、南の魔王のような、敵としての存在ではなく。

 リヴやゴンザレスやグレンのような、部下としての存在ではなく。

 一緒にいて笑い合えるような。ときには怒鳴り合えるような。そんな対等の存在が、フェイトは欲しくてたまらなかった。

 

 長い長い魔王の歴史の中でも、こんなことを考える奴は自分一人しかいないだろうと思う。仲間が欲しいなどというのは、頭に思い浮かべた時点で支配者として失格だ。

 自分が一体何なのか。魔王を辞めてようやく、フェイトはそれが分かりかけている。

 魔族でも人間でもなく。

 そのどちらにも属さない魔王にすら、なれなかった自分。

 そんな奴を、人は“出来損ない”と呼ぶ。

 

 イベリアから少し南に進んだところに、トロイという名の山脈がある。

 人間から見ればほんの少し標高の高いだけの、決して前人未到というわけではない場所だ。百年も前からこの山脈は道として使用されてきたし、猟師が住んでいる山小屋もところどころに点在している。

 人間にとっては、そう、何の変哲もないただの山だ。

 だが、魔族にとってトロイ山脈というのは、鬼門にも似た意味がある。

 トロイ山脈を挟んで北側は、元はフェイトの支配していた北の領域だった。

 対して東側。

 そこは、チャイルドの支配する東の領域。

 トロイ山脈というのは、魔族にとって北と東の領域を分ける線でもある。

 当然それは国境線も同然だから、見張りや監視といったものは常に存在している。フェイトはそういったものはほとんど置いていなかったが、東側はそんなことお構いなしだ。防衛線となりうる戦力は、常にトロイ山脈の付近に待機させられている。

 フェイトは、それに気づくべきだった。

 シルフィの判断を待つなどと、悠長なことを言っている場合ではなかったのだ。

 自分たちのいるイベリア。その近くに存在する境界線、トロイ山脈。

 そこは言わば、東の領域に最も近い国。

 魔王を本当に辞めてしまったフェイトを、チャイルドは、グレンはどう見るのか。

 そして。

 巫女――つまりシルフィがイベリアに戻ったということは、そう遠くないうちにフェイトたちも彼女を追いかけてイベリアに来る。

 それがチャイルドに予想されるであろうことを、フェイトは気づかなければいけなかったのだ。

 

 トロイ山脈。猟師が使う山小屋の中。

 つい一時間前までは、そこは二人の猟師が酒を交わしながら談笑していたところだ。

 だが、一時間後の今。

 小屋の中は、血の一色に染め上げられている。

「……あーあ、ったく。ここに住み着くならちったぁ鍛えろっての。準備運動にもなりゃしねえ」

 猟師二人が自分たちのために作ったはずの鳥料理。

 テーブルに腰かけつつそれを頬張っているのは、猟師ではない。

 彼らを手にかけた二本の剣の使い手――チャイルド。

 少しは歯ごたえがあるかと思ったら全然ありもしなかったので、当てが外れてヤケ食いをしているところだ。

「チャイルド様」

「グレンか? どうした?」

 扉の向こうからの声に、チャイルドは間延びした声を出す。

 グレンは、少なくとも声は、それに嫌気がさしたような素振りも見せない。

「今確認しました。フェイトたちは確かにイベリアにいます」

「……分かった」

 どっこらせ、とチャイルドはテーブルから腰を上げる。骨だけになった鳥料理を首だけの猟師の片方に投げ、「料理は美味かったぞ」などと言い残して扉を開ける。

 外に待機していたのは、グレンと――

「全員注目! 魔王様がお見えだ!」

「……お前、だからそのお堅い掛け声やめろって」

 グレンの号令に一斉にこちらを見、チャイルドのぼやきにわずかに失笑した、総勢二万は下らない魔族の兵士たち。

 全員が、小屋から出てきたチャイルドの方を注視している。ご馳走を前におあずけを食らっているような顔をしながら、命令が出るときを今か今かと待ち構えている。

「よし、お前ら」

 チャイルドは彼らを一通り見渡して、あっけらかんとこう言った。

「とりあえず、イベリア潰すぞ」

『――――!!』

 雄叫びが上がる。

 月夜の晩に、あまりにも一方的な戦争が始まる。

 

「――!」

 胸騒ぎがした、とでも言うのだろうか。

 ハッと目を覚ましたシルフィの意識は、今まで熟睡していたのが嘘のようにはっきりしていた。ほんの一瞬自分がどこにいるのか分からず、またフェイトが何かやらかしたのだろうかと、そんなことを考える。

 自分が国に帰ってきてここが自室だということに気がついたのは、それから数秒ほど経った後。

 毎日毎日謁見やら快気祝いやらで逆に疲れさせられて、部屋に戻るなり熟睡する日々が続いているのだ。

 そのへんの事情をラトは心得ていてくれているらしく、部屋に戻った後に来た非公式の客はできるだけ追い返してくれている。が、そもそもそういう客には会う必要などどこにもないわけで、シルフィを疲れさせているのは公式に会いに来る輩であって、ラトの行動は残念ながら焼け石に水にもなっていない。

 フェイトたちからの接触は、未だにない。

 一度国民の前に姿を見せたとき、シルフィは彼らの姿がないかどうか探してみた。

 あるはずもない。それ以前に、国内にいるかどうかも分からないのだ。

 たとえいたとしても、ああいった第三者の目がある場所でシルフィの前へ顔を出すことはないと見ていいだろう。

 フェイトとリヴはもとより、アレスたちも顔が割れているわけではない。だが、シルフィの傍にはラトがいる。シルフィがアレスたちの姿を認めてほんの少しでも顔色を変えれば、ラトはそれだけで気づくだろう。視線の先を追われたら、今度こそ望みがなくなる。

 ラトや両親には悪いが、シルフィは旅を続けることを諦めたわけではなかった。

 自分一人で行動しても、ラトからは逃げられない――そう思って大人しくしてはいるが、逃亡のチャンスは常にうかがっていた。

 リヴから言われた一言。帰る場所を捨ててきなさいという言葉。あれも気にはなっているが、そもそも自分は捨てたつもりだったのだ。戻る気など欠片もなかった。今回のことは、シルフィの意志など微塵も含まれてはいない。

 それを伝えれば、リヴも分かってくれるはず。そう考えている。

 ところで、急に目が覚めたのはなぜだろう。シルフィは首を傾げる。身体は疲れきっているはずなのに。どうにも眠いという気がしない。

 疲れているのに眠れないというのは、身体が発する危険信号なのだという。

 まさか、それなのだろうか。長いこと続けていた旅に慣れてしまって、巫女としての生活に精神が耐え切れなくなってきているのだろうか。

 実際、心の中は今すぐにでもここを飛び出したい気持ちで一杯ではある。

 だが、そういうのとは何となく違うという気もした。

「……何なんだろ、これ」

 自分の心を把握できず、シルフィは首を傾げる。

 わけの分からない倦怠感。

 漠然として影の薄い、それでも確かにある胸騒ぎ。

「……?」

 夜風にでも当たれば少しはマシになるだろう。ひょっとしたらフェイトが来ているかもしれないし。そう思って、上着を羽織ってテラスに出た。

 大陸北部に位置するイベリア。上着を羽織っていても、夜の風は肌寒く感じる。

「フェイト? いる?」

 微かな期待を込めて、密かに室内をうかがっていたかもしれない少年の名を呼んでみた。

 しばらく待ってみる。彼のことだから、シルフィが諦めた直後に姿を現すなんてことくらいはやりそうだ。

 だが、どれだけ待ってもフェイトは姿を現さなかった。

「いないの……かな?」

 わざとがっかりしたような声を出し、室内に戻ろうと踵を返――すと見せかけて、バッと振り返る。フェイトがいるなら、今まさに姿を現そうとしているはず。

「……」

 そこには、誰もいなかった。

 自分のやっていることが何だか無性にバカっぽく感じて、シルフィは今度こそ中に戻ろうとする。外に出て数秒しか経っていないが、それだけで寒くなってしまった。上着があるとは言え、基本的には薄着なのである。

 それが目に入ったのは、そのときだ。

 イベリアから南に少し行ったところにある、トロイ山脈。

 普段から何の気もなしに見つめていた、シルフィにとってお馴染みの山。

 だが。

 今日に限っては、何か嫌な感じがした。

 得体の知れない嫌悪感。見慣れたはずの山が、妙に禍々しく見える。

 シルフィはしばしそちらを見つめていたが、すぐにそそくさと室内に戻った。

 まるで、見ていたくないものから目を逸らすように。

 

 自分を呼ぶ声で、フェイトは目を覚ました。

「……ん?」

 眠い目を擦りながら薄っすらと見開いてみれば、部屋の中はまだ暗い。ゲッソーとアレスの寝息が微かに聞こえる。同部屋の二人でないとすれば一体誰なのかは――すぐに分かった。

「どうしたの? リヴ」

 リヴ。

 エヴリスの影響か、比較的夜に強いこの少女。不安そうな顔をしながら、フェイトの顔を覗き込んできている。

 真夜中に遊んでくれとせがむのは、一回怒ったらそれ以降なくなったはずである。

 それにこの顔は遊んでもらいたがっているような顔ではない。何かに怯えているような、不安に揺れる瞳。

「フェイト様ぁ」

 呼ぶ声も、どことなく心細い。

「何か嫌な感じがするって、エヴリスが言ってるんですぅ。何か良くないことが起こるって、早く逃げた方がいいって」

「逃げた方が……エヴリスが?」

 コクリと頷くリヴ。

 フェイトは眉をひそめた。

 リヴ本人の勘は大したアテにはならないが、それがエヴリスのものとなると話は違ってくる。元野生動物の直感とでも言うべきか。彼の危険を察知する能力は、フェイトも何度か目の当たりにしていた。

 だが、逃げた方がいい、とは?

 ラトが自分たちの存在に気づいて、刺客でも放ってきたのだろうか。しかし、それにしては静かすぎるし、リヴが自分を起こすまで何の行動も取らないというのはおかしかった。

 普通に考えれば、目を覚ましたリヴなどは真っ先に片付けられてしまうはず。

 女子供には手を出さないと言うほど紳士的な連中でもあるまい。

 となれば、一体何か。

「何から?」

「よく分からないんですけど、トロイ山脈の方から、何か嫌な感じがするって……」

 トロイ山脈。

 聞き覚えのある単語に一瞬首をかしげ、フェイトは次の瞬間飛び起きた。

 気がついたのだ。もっと早く気づくべきだったことに。

「急いで皆を叩き起こして! 今すぐ、早く!」

「え? あ、は、はい! フェイト様は――」

「シルフィを連れに行く」

 そう言い置いて身体を変化させようとして……裾を掴むリヴを、わずかにいらだちながら振り返った。

「何?」

「約束が違いますぅ。あの子には、自分で判断させるって――」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだ!」

 つい怒鳴ってしまった。

 ビクリと身をすくませるリヴを見て、「しまった」と我に返る。フェイトはしゃがんでリヴに視線を合わせ、ゆっくりとした口調で諭した。

「リヴ、今すぐ、皆を連れてトロイ山脈と逆の方向へ逃げて。振り返らないで、立ち止まらないで。トロイ山脈は東と北の境界線。エヴリスがそこから嫌な感じがするって言うなら、それは多分……」

「……チャイルド、ですか?」

 怯えの中に緊張の混じった声に、フェイトは頷いた。

 一、二回会っただけだが、リヴはチャイルドの恐ろしさをよく分かっている。たとえフェイトと一緒であっても二度と会いたくないと常から口にしていたくらいだ。別にチャイルドの戦っている姿を見たわけではないが、本能的に感じたのだろう。こいつは危ない、と。

 その方がいい。勇み足で無謀な真似をする心配はない。

 チャイルドとやり合えるのは、同じ魔王だった自分くらいのものだ。

「分かったね? 早く行って。そんなに時間があるとは思えない」

「は、はい!」

 この部屋にいるアレスとゲッソーから起こせばいいものなのだが、気が焦っていたのだろうか。リヴは慌てて部屋を飛び出して行った。ノエルを先に起こしに行ったらしい。

 その姿に一つ苦笑。足音が聞こえなくなった後、フェイトは全身を緊張させながら窓の外を見る。

「……チャイルド」

 窓を開け、まだ遠い山脈にいるであろうチャイルドに問いかける。

 魔王を辞めた今になっても尚、お前は僕に付きまとうのか?

 魔王としてなら、自分一人なら、何度挑まれようと大した気にもならなかった。

 だけど――

「ここにはシルフィがいる」

 シルフィだけではない。リヴが、アレスが、ゲッソーが、ノエルがいる。

 ここはシルフィの故郷で、数万の人が住む国だ。

 もしそれを壊そうと言うのなら――

「お前を殺してでも、そんなことは止めてやる」

 壊させてたまるか。

 自分がいて、自分が守るこの場所で、好き勝手ができると思うな。

 

 窓ガラスが砕け散る音。

 ベッドで意識を沈めていたシルフィは、その轟音によって叩き起こされた。

「な、なに? なに!?」

 跳ね起きて思わず周囲を見渡せば、最初に目に入ったのは部屋に飛び込んできたラトの姿。

「どうした!?」

 そんなことは自分が聞きたい。

 口には出さなかったシルフィの言葉など知る由もなく、ラトは傍に駆け寄ってくる。

「無事か? 怪我は?」

「あ、な、ない、ない。大丈夫」

「よし。下がってろ」

 さすがは聖騎士とでも言うべきだろうか。予想外にもほどがあるこの状況でも全く取り乱さず、真っ先にシルフィを庇うような立ち位置につく。自分より頭一つ分は大きい背中の後ろから、シルフィは問題の箇所を覗き見た。ラトと一緒に見据える先には、ガラスどころか壁ごと吹き飛ばされた無惨な破壊の痕跡。そして――

「……雷?」

 訝しげなラトの呟き。

 それはまあ、雷の塊みたいな白い発光体が室内でバチバチ言ってたりしたら、その正体に心当たりがない人間は訝るだろう。

 正体に心当たりがあるシルフィとしては、驚くことはなかったものの、内心かなり焦っていた。

 フェイト。

 一体、どうして、こんな最悪の方がいくらかマシだと言いたくなるような極悪な登場の仕方をするのか。これでは不審者扱いされても文句は言えない。されたところで大人しく捕まったりはしないだろうが、問題はそんなところではなくラトに思いっきり睨まれてしまうであろうところにあるわけで、要約すると何を――

「――何を考えてんのよこの激バカぁ!」

「し、シルフィ?」

 怒鳴らずにはいられなかったシルフィに、ラトがビビったように振り向いてきた。兄のような存在の彼のそんな表情は実は非常に珍しいのだが、そんなものに感心している場合ではない。発光体が徐々に人の姿をとりつつあるのだ。

「あー! こら、姿なんか現すんじゃないの! コレ! コレが見えないのあんたは!」

 ラトを指差しながらわめくが、実体化が止まる気配はない。

「……コレ?」

 衝撃を受けたようなラトに、反応したのはシルフィではなかった。

「いくらなんでも『コレ』はないよねえ。て言うか激バカとか、シルフィってキレると口が悪くなるよね」

 のんびりとした口調で物を言いながら、フェイトがとうとう完全に姿を現した。

 そしてその胸倉を、シルフィは思いっきり引っ掴んだ。

「何考えてんのよ、アンタは!」

「歩み寄らなきゃいけないほどにはあった距離が一瞬で詰まったのはどうしてだろうね。ところでシルフィ、苦しい苦しい。久しぶりに会ったのにずいぶん歓迎してくれるね」

「これが歓迎しているように感じるなら、アンタの頭は相当おめでたい構造してるのね!」

「皮肉も通じてないよこのヒト。ちょっと待って本気で苦しいって。えっと、そこの人、誰だか知らないけどヘルプミー」

 あろうことかラトに助けを求めるフェイト。

 求められたラトはラトで、シルフィの剣幕にビビっているのか、あるいはフェイトのマイペースぶりについ我を忘れたのか。「あ、ああ」とか呟きながら、二人の間に割って入ってきた。

「し、シルフィ。それ以上は本当にまずいぞ」

「ラト兄ちゃん! 何コイツの味方してるの! 侵入者だよ!?」

「酷いなあ。僕のどこが侵入者だと……」

「背後の状況を見てからもう一回同じことを言ってみろ!」

 シルフィに怒鳴られて、フェイトは己が背後を見やる。ぶち抜かれた壁と砕け散った窓ガラス。黒焦げになっていたり、溶けてしまっていたり、はたまた炭になってしまっていたり。状態こそ様々だが一言にまとめるなら、大惨事というやつだ。

 それを三秒見つめた後、フェイトはくるりとこちらを向いて、

「で、僕のどこが侵入者?」

「わざと言ってる? わざと言ってるのよねそうよねわたしを困らせたくてわざと言ってるのよね? じゃなきゃ今すぐ殴り飛ばしてやる」

「握り固めた拳がとっても痛そうで素敵だけど、あんまりじゃれあってばかりもいられないんだ。えーと……誰だっけ?」

 ラトを指差しながら、フェイトは尋ねてきた。

「ああ、それ? ラト兄ちゃん。これでも一応聖騎士で――」

「ラトニーチャン……変わった名前だね」

「いや、本名はラトだけだ。……って! そうだ、お前こそ一体何者だ!」

 我に返ったラトは、再びシルフィの前に立ち、フェイトを牽制するかのように剣を向けた。フェイトがちょっとその気になれば、剣など何の役にも立たないのだが……まあ、ラトがそれを知るはずもない。

「僕?」

 間抜けな仕草で自らを指差すフェイト。

「他に誰がいる?」

「僕はシルフィの友達。ちょっと用事があって会いに来たんだけど」

「窓からか?」

「うん」

「……ここは六階だぞ?」

 そうだった。

 突撃の事実にばかり気を取られていたが、突撃した場所もまた問題だ。シルフィの部屋は六階にある。何をどう言い繕っても、フェイトが人外の行動を経てこの部屋に飛び込んできたことは明白となってしまう。窓を溶かしたり壁を黒焦げにしたりという部分は、まだ爆発物というもので言い逃れることもできようが……。

 魔王であった頃の、口の上手さに頼るしかない。

 何とかして誤魔化しなさい――そんなジェスチャーを送るシルフィに、フェイトはふっと笑ってこう言った。

「細かいことだよ」

「どこがだ!」

 ツッコミが他にいると楽だ。

 自分で「どこがよ!」と言いそうになったところをラトに先を越されて、シルフィは少しだけ寂しさを味わいつつ、他人のツッコミを横で見るという新鮮な行為を堪能した。

「……もういい。後でじっくり取り調べてやる。とりあえず大人しく縄につけ。抵抗は認めん」

 いい加減にキレたのか呆れたのか。フェイトに切っ先を向けて、ラトは底冷えのする声でそう宣言した。氷のような瞳。戦士としてのラトの一面に、シルフィは見知った人物と分かっていながらゾッとする。

 フェイトは――

「別に僕をふんじばるのは構わないけど」

 いつも通りと言うか、淡々とした声だった。

「僕以上にヤバい奴が、ちょうど今ここに向かってるよ。僕はそれを教えに来たんだけど」

「お前以上にヤバい奴などこの世にいてたまるか」

 一蹴するラト。半分はお前の言うことになど聞く耳持たないという態度なのだろうが、もう半分はきっと本気だ。

「さりげに酷いこと言うね。でも、本当だよ。信じたくないなら信じなければいいさ。この国が滅ぶだけだ」

 ――この国が滅ぶだけだ。

 ラトはおそらく聞き流しただろう、その言葉。

 だが、フェイトのことを知っているシルフィとしては、その言葉を聞き流すことはできなかった。

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