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「第120日」

         〜〜〜〜〜〜 A Japan Travel Journal  〜〜〜〜〜〜〜〜〜          

             ◆ はじめてだった、日本一周(西日本編)ひとり旅

         19xx年4月7日(土) 晴れ

      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 綾瀬(神奈川県)→箱根、芦ノ湖

 



 ■暖かい春がやってきていた

去年の12月はじめ、「北海道、東北一周の旅」を終えた。ほぼ4ヶ月間の旅であった。

それから更に約4ヶ月間、家でじっと待っていた。


冬の季節が終わった。これからは野宿をしても寒さに震えることもないだろう。
 戸外は夜でも温かい筈だ。


待ちに待った「西日本の旅」、
 時は熟した。


 さあ、出発しよう。

朝、荷台にリュックサックをくくりつけ、サドルに跨った。80キログラム近い重量に耐える両タイヤ。 ペダルに足を掛けた。弾みを付けてちょっと前進。重い。ゆっくりとしかし確実に動き出した。段々と加速が付き始める。 10時15分、家を後にしたのだった。

いつまた戻って来るか、それは未定。気が済むまで日本を旅したい。こんなことは、二度と体験できないのだから。 自分に対する信頼。

藤沢、江ノ島方面へと向って行った。久しぶりに自転車に乗って走って行く自分の心は喜んでいる。

―― 江ノ島。休日にはよく日帰りで自分ひとりだけの観光と気分転換、 そして海を見たいがために自転車を漕いで何度か通った。 今走ってゆく道路は見慣れた通い慣れた道だ。そういえば三浦半島へも自転車で一、二回行った。

―― 城ヶ島。雨が降〜る降〜る城ヶ島。ついその歌詞だけを口ずさんでしまう。

今にして思えば、こうした遠出は 日本一周のための予行練習、準備運動をやっていたとも言えようか。その当時、 日常生活の流れの中に埋もれていた自分、そんな自分に日本一周などという大それたことをする程の勇気も発想もなかったが、 何度か通っているうちに、自分だけの努力でこのように移動出来てしまっている自分を発見、 住み慣れた家からちょっと離れた知らない土地に自分がやってきていることになぜか稀なる言い知れぬ解放感を抱いているのであった。


  ―― 江ノ島。長い橋を渡って江ノ島の入口にやって来ては青銅の鳥居を潜り、狭い道<、参道そして石段と登って行く。 両端がお土産屋さんやら商店などで軒を並べた所を通って登り尽くした先、眼下に海の広がりを見ながら、 更に波の飛沫を浴びている岩石の舞台(稚児ヶ淵の魚板岩と言うらしい)へ降りて行く。

力強く打ち寄せる海水の塊が岩に対して諸に体当たりをするかのようだ。 飛沫が舞い上がっている近くまで寄ってみる。海はまるで生きているかのようだ。 その打ち寄せては退く荒々しい海水のエネルギッシュな調べを耳と目で楽しみながらも自分ひとりを感じていた。

海の遥か向こうには何があるか。まだ見ぬ外国(アメリカか)が横たわっていることだろう。 今の自分がそこへと行くことは多分ありえないだろう。非現実的に”実感”しているのであった。

見慣れた江ノ島を久しぶりに眺めながら、海岸線道路に沿って小田原へと下って行った。 左側は海、相模湾。 大磯からは国道1号線に入る。

今日の目的地、宿泊地は小田原と決めてはいたが、 余りにも早く小田原に着いてしまった。 急遽、予定を変更。先へと進んで行くことにした。小田原市内を通過し長柄、小田原城はどこにあるのだろう、 などと思いながらもそのまま小田原城に立ち寄ることもなく、目の前に聳え立つ箱根に向って国道1号線をそのまま走って行った。

同じ道路、反対方向からはサイクリングの人々がやって来て立て続けに会う。皆さんは北海道の方へと走って行くのだろうとついつい 自分の体験から思ってしまったが、そうではないらしい。春休みを利用しての伊豆半島辺りのサイクリングから帰って来たのであろう。 みんな派手にやっている。ぼくも負けられない。

 

これからは上り坂になるという地点、腹が減ったと感じたのでパンを買って食べる。エネルギーの補給だ。日が少々強く、喉が渇く。 疲れも次第に出て来た。第一日目、やはり小田原までにしておけば良かったかもしれない。



  ―― 箱根。 いままで殆ど休み無く走ってきたので全身に渡って疲れが一気に溜まり、自転車に跨ったまま登って行くのは無理とわかった。 若さだけでは何だこの坂どんな坂こんな坂、何だこんな坂そんな坂こんな坂、と快調に頑張って走って行きたくても出来ない。

降りてハンドルを両腕だけで押しながらと言うよりも寧ろ全身で以って後ろへと転げ落ちないように押しながら坂道を重い足取りで登ってゆく。 休憩を取らずに行けるところまで行こう。出来ることならば箱根の山を越えてしまおう 。そう思いながら先を急ごうとする。

そんな思いとは裏腹に、体の方はへとへと、益々疲れて力が入らない。今はもう自転車に縋るようにして押して行く。余りにも急坂。 下手をすると自転車は重力に助けられてそのまま後へと戻りそう。その戻ろうとする力に抵抗、対抗して前へ前へと 押し進もうとする。

結構高い所まで登って来て、立ち止まり、一息入れ、ちょっと後ろを振り返って見ると、何とパノラマ、展望が広がっていた。 が、そんな景色を堪能する余裕はなかった。全く疲れ切ってしまっていた。何とかならんだろうか。

どこまで行っても上り坂。腹が減っていたことも疲れをひどいものにしていたと言えるかもしれない。 元箱根まで行けばあとは下り坂だろうとちょっと楽観したが、どこまでも上りが続く。途中、もうどうしようもなく、 自転車をほっぽりだし、自分は地面に上体を横たえた。山の上、と言うか中でのこと、直ぐに悪寒を感じ、汗もたくさん掻いていたことで体が冷えてきた。

飯場があった。そこで一泊しようかと思ったが、中には入れなかった。そのまま自転車を押して行く。 ずっと上り坂。もう疲れたよ。動きたくない。

 

 

 

正に 「♪♪箱根の山は天下の険」と言える。

      http://www.hakone.or.jp/hakone8ri/  「箱根八里」オリジナルカラオケ MP3ダウンロード 1.23MB /3Min.                                  この歌を歌うと元気がでるそうですよ。やってみました。その通り!

          さあ、コンピュータ画面に食いつくように して」これを読んでいるかもしれないあなた、背筋を真まっすぐにして、さあ、それでは伴奏に合わせて大きな声で歌ってみましょう! その 歌詞、その意味、その面白い解説をちょっとお読みになりたい方は、

こちら→ http://www.shonan-inet.or.jp/cobble/jouhou/hatiri.html

歌を歌いながら登って行くなどという思いつきはこれっぽっちもなかった。

午後4時、小湧園バス停小屋が目に入ってきた。ほっとする。早く休みたい。募る思いと共にそのままベンチに雪崩れ込むようにして寝転んでしまった。人が見ていようと、どうなろうともう構わん。人がやって来ても退かん。へとへとに疲れていた。今日は旅の第一日、体がまだ旅に馴染んでいないのだ。

そのままこの小屋で一泊としようかと思ったが、まだ明るいし、結局は少しだけの休憩だった。何しろ留まっていると寒くなってくる。動き出すしかない。 バスとか乗用車がそばを通過して行く。耳障りだ。

仰向けに寝転がったまま、もう、へとへとに疲れ切ってしまった。 起き上がるのが何となく億劫だ。でも冷えてきたので自分を急き立てた。自転車と共にまた歩き始めた。毎年箱根越えの学生マラソンが行われるが、選手達も疲れることだろうな。 分かるよ、その気持ち。ぼくは走らず、自転車 と一緒に歩き続けていた。

午後5時10分、立ち止まった。更に寒くなってきたのでヤッケを着込む。

国道1号線最高地点874メートルだ。 まだ登りは続くのか、まだ続くのか、と足取りも腰も重く、ゆっくり一歩一歩と登ってきたが、ここに至ってようやく極みに到達したようだ。これからは下りだ。

下りはどうしてこうも簡単なのだろう。苦あれば楽有り、か。ペダルを漕ぐことも無く一気に下って行く。ハンドルを操作するだけの下りだ。

 

 

おお、芦ノ湖が見えてきた。

数年前、私大入学のためのオリエンテーションが行われた芦ノ湖園があった。

下り切った。湖畔沿いの道路を走って行く。寒い。構わず先へと進んで行こうとする。と、 またも上り坂が始まるようだ。またまた自転車から降り押して行かなければならない。もう嫌だ。登りはもういい。こりごりだ。

引き返した。今晩は湖畔で一泊としよう。

■湖畔での第一夜、野宿

駐車場にやって来た。疲れを癒したいとしばらく腰を降ろしたまま休憩を取る。周囲は人っ子一人通らない。目の前の湖水をぼんやりと眺めている。

山の中、寒々とした夕方が背後から迫ってくるかのように感じる。途端に暗くなったかのように思えた。 でもどこかへと急いで行かなければならないというわけでもない。 今晩はここに留まるしかない。寒そうな薄暗さを周囲に感じながらも、生食パンを一枚、そして一枚、ゆっくり口に運んではいるが味気ない。寂しい所だ。

これから通って行かなければならない坂道が左手側に見える。明日のことだ。遊覧船が停泊している。観光客達の歓声はない。 そんな昼間の観光客達も今の時間、旅館やらホテルに落ち着いているのだろうか。自動車運転の練習をやっているか、 目の前を行ったり来たりする一台の車。目障りだよ。

さてと、そろそろ適当な寝場所でも探そうかと、野宿には相当慣れ親しんできたので野宿は当たり前といった風に腰を上げ、行動に移る。その辺を見回る。右手側にあるレストランの方へと向って行った。アーケードのようになった所に休憩所があり、ここで寝ようかと一旦は決めたが、人に一応断ってからにしようと思い、人を探す。既に閉店ではあったが、中は電気が点いている。人もいる。

カーテンで中が隠されたかのような店のガラス戸を重く開け、白衣の男の人に申し出る。

「ここ、外で一泊したいのですが、、、」

「いいよ。でも夜は寒いぞ。昨日はみぞれだった」

風が吹き抜ける所ではやはり寒さも一段と増すに違いない。身が寄せられる場所、風が当らない裏玄関の所を寝場所と決めた。ベンチを玄関裏に移動させ、長ズボン、ヤッケを着込み、着のみ着のままといった風にして寝袋の中に潜る。

外は少々寒かった。 しかし、寝袋の中に入ってしまうと体が火照ってきた。ベンチの横幅が少し狭く、心しないとベンチから転げ落ちそうだ。

いつの間にか風が強くなってきた。寝袋の中にも冷たい風が進入してくる。まだ寝入れない。寝心地の良いベンチなどこの世にあるのかどうなのか、そんなことはまだ知らないが、寝心地の悪いベンチであった。寝ていたのだろうか。夢を見ていたのだろうか。

風がびゅうびゅうと音を立てながら吹いている。立て掛けてあった看板などは強風の所為で倒れた。

やはりこの寒さが身に沁みてか、眠れなかった。

頭が冴え渡っていて、色々な想念が去来していた。


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