第1章 まだ、争いが頻繁にあった。 それは神軍と魔軍と呼ばれている天使と悪魔の戦争である。 その戦いは二千年間続き、いまも尚その戦いは止むことはなかった。 天使は神を購いながら生き、悪魔は魔王を購いながら生きている。 そして、天使が住む星を天界、悪魔が住む星を魔界と区別していた。 その、両者の世界の狭間に在るのが、青く輝く惑星、地球である。 ザッ、ザッ、・・・。 何者かが草木を踏みながら歩き回る音がした。それも複数だ。 人間ではないと、誰もが思うそのまがまがしい姿。 背には二枚の黒く光る翼。 ガッシリとした体。 牙をむき出しにした、耳まで裂けている口。 赤く、不気味に宿す眼。 人はこの者たちをこう言うだろう。 ・・・悪魔、と・・・。 その悪魔は、昼過ぎのとある森の中に出没した。 太陽は厚く黒い雲に覆われていて、その日は何かよどんでいた。 木々がざわめき、風も荒々しく吹き荒れるこんな日には、人はみなよくないことが起こると誰もが直感していた。 この一人の男を除いては・・・。 「ここまでだ、お前ら」 男は手に持っている、自分よりも数センチ長い銀色に縁取られた大剣を、重さを感じさせない一振りで軽々と一体の悪魔を 屠った。 切り裂かれた悪魔は悲鳴を迸らせながら、息だえてく。 それに反応したかのように、数十体はいる悪魔が男に向き直る。 と、ちょうど雲から太陽が姿を現した。 男、と言えるほどそんなに上達しきっていない身長と輪郭は、まだ幼さを残した青年に見える。 黒い髪、ベルトループのない青のジーンズ、黒のレザージャケットを着込んでいるセンスのない格好だ。 青年の名はマルクラル・ボルバーといい、まだ十九歳でフリーの傭兵をしている。 この森の近くにあるキリロという小さな町に移住してきたのだ。 町の者達は彼の名を、縮めてマルコと呼んでいる。 しかし決して嫌みではない。 マルコはこの町に来る前までは、傭兵組織のパーソナルバウンサーにいたのだ。 このパーソナルバウンサーは、ある一定の階級があり一番下のE−5から始まり、そこから階級が上がるに連れてにE−4、 3、2、1となり次がD−5、4、3、2、1。 C−5、4、3、2、1。 B−5、4、3、2、1。 A−5、4、3、2、1。 とここまでは努力次第では一般人でものし上がれるほどだが、ここからが傭兵ならば憧れる階級に入る。 AA(ダブルA)とAAA(トリプルA)の階級だ。 ここまでくればかなりの人間離れした力、スピード、耐久性が得られるがAAAまで辿り着いた者は数少ない。 マルコはAAまで自分の力だけで登り詰めた兵なのだ。AAA間違いなしとまで言われた程だった。 しかし、突如としてパーソナルバウンサーを除隊したのだ。 そのおかげでマルコの名は広く伝わっていった。 悪魔達はマルコを囲むように移動していく。 マルコは手に持っている剣を牽制のつもりか、ブンッと音をたてて左から右に横凪に払う。 その持っている剣も何か普通とは違っていた。 剣先から取っ手の部分まで文字が大量に羅列されているのだ。 地球の文字ではないところからして、まさしく天界か魔界で天使あるいわ悪魔の手によって作られた武器だ。 悪魔達は文字通りマルコを囲むと、背にある二枚の翼をバサバサッとうるさく羽ばたかせる。 「いいぜ、来いよ。殺されたいやつからな」 その言葉が合図だったかのように、マルコの目の前にいた悪魔が翼を羽ばたかせて襲いかかってきた。 「まずはてめえからだ」 マルコは余裕の表情をみせると、剣を両手で構え直し自ら悪魔に突っ込んで行く。 他人から見れば自殺行為にしか受けれないがマルコは違う。 無造作にくりだされた悪魔の拳をひらりと横に避けると、マルコは剣を一閃させる。 悪魔の腕が血を流しながら肩から切断された。 マルコは構わず剣を振るい、悪魔の体を真っ二つに断ち切った。 ドサリッと重々しい音と共に悪魔が倒れ伏す。 「へっ、行くぜ化物!」 マルコはそう叫ぶと、二体目にかかる。 尋常ならざるスピードで一瞬にして悪魔との間合いを縮めると、剣先を悪魔の心臓に突き出した。 悪魔の絶叫が響く。 マルコは剣を引き抜くと、すぐ後ろにいた悪魔に一閃させる。 バッサリと切ったのは悪魔の首だった。 首のなくなった悪魔をマルコは容赦なく前蹴りを入れて吹っ飛ばした。 吹っ飛んだ悪魔は二体の悪魔を巻き添えににし樹木に叩きつく。 それがどれほど強力だったかは、蹴りの入った部分が凹んでいることでわかる。 巻き添えになった悪魔もその勢いには耐え切れなかったらしく、絶滅している。 マルコは前方に跳んだ。 すぐ後ろから悪魔の拳が迫ってきていたからだ。 マルコのいた場所は悪魔の手によって粉々に打ち砕かれていた。 一般の者なら簡単に抹殺される威力だ。 しかしそんなことは構わず、マルコは跳躍したまま翼を羽ばたかせて飛び立とうとしている悪魔に上から下にと剣を一閃さ せる。 剣は頭から股まで潜り込み、完全に悪魔を二つに切り落とした。 返り血を浴びながらもマルコは目の前に迫ってきた樹木にぶつかる寸前に、体制を直して、木を思いっきり蹴り飛ばし、戦 場に戻って行く。 それを待っていたかのように、悪魔達が指先から鋭く光る爪を現した。 このまま行けばマルコはミンチにされることは明白だ。 だがマルコもそれを予想していたかのようににっと笑う。 「ただ攻めるだけじゃないんだよ!」 マルコは一直線に悪魔達が集まった所へと突っ込んで行く。 悪魔達との距離はもうない。 正直すぎるその行動に、悪魔達は一斉に爪でマルコを引っ掻く。 ・・・が、空中にはマルコがいなかった。 突然、群れの一番前にいた悪魔が倒れ伏す。 そこにはマルコが剣を横に払った構えで悪魔達を睨みつけていた。 なんとマルコは悪魔達に殺られる寸前に、軌道を真下に変えて、悪魔の懐に潜り込んでいたのだ。 人間業とは到底思えないその行動に、感情がない悪魔達も恐れおののいている。 そんなことはおかまいなしに、マルコは残り数体の悪魔に切りかかる。 悪魔達は一斉に翼を大きく広げると空中へと昇って行く。 マルコは自分達では倒せないとさとったのだろうか。 しかしマルコはそうそう悪魔達を逃がすことはしなかった。 飛びたとうとした一匹の悪魔の足を掴むと、いきなり何十キロとある悪魔の体を地面に叩きつけた。 だがそれだけでは悪魔は死なない。それはマルコもよく知っていた。 マルコは剣の切っ先を地面に突っ伏している悪魔に突きつけた。 悪魔は悲鳴を響かせながら、体をぴくぴくと痙攣させながら息だえていく。 それを確認もせずに、マルコはもう木のてっぺんまで昇っていた悪魔達を見やるや否や、レザージャケットの懐から黒光り する鉄の塊を取り出した。 それは銃である。 この国、アースライトではもっとも貴重な武器である。一丁買うのに金貨一千枚はいる。 一般の者の給料金は金貨五十枚分である。 この男がなぜそんな高価な物を持っているかはわからない。 マルコはマガジンに込められている十五発の弾丸を天空にいる悪魔達に撃ちつける。 ある者は脳を撃たれ、ある者は心臓を撃たれとロックオンしにくい位置にもかかわらず、マルコは正確にピンポイントを撃 ち続けた。 やがて、全弾撃ち終えるころには空に飛んでいた悪魔達は冷たい土の上にいた。 どれもが絶滅している。 たった十分程度で数十体はいた悪魔を屠る人間など、この国にはマルコぐらいしかいないだろう。 まだ突き立てていた剣を、悪魔からぬき取ると、ヒュンと剣を振り血を取る。 「・・・これぐらいでいいだろう」 マルコはぼそりと呟くと、踵を返し、村の方向へと足を進ませた。 「よ、マルコ。また悪魔が出たんだってな?」 「ん? ああ」 「何匹ぐらいだ、今日は?」 「数えてる暇がなかったからな。たしか・・・十三匹ぐらいだったかな」 「十三匹かあ。昨日よりも五匹増えやがって・・・」 「ま、いいさ。こっちはこっちでフラストレーションが晴らせるってもんだからな」 マルコは目の前に置いてある果実酒をのどに流し込んでいく。 今マルコがいるのはキリコで唯一の酒場だ。 カウンターテーブルで息抜きをしていたら、知り合いで武器屋を営むアランが話しかけてきたのだ。 「でもアラン。お前こんなところにいていいのか? 店は大丈夫なのかよ?」 「な〜に心配はいらないさ。娘がちゃんとやってるよ」 「イリカがか? 大丈夫なのかよ?」 「大丈夫さ。あれでもちゃんとしてくれる」 「そうか・・・」 マルコはそれだけ言うと、席を立った。 「もういいのか?」 「ああ。そのイリカがちゃんとしてるか見にいくよ」 「ったく、信用性のないやつだな」 「お互いにな」 マルコとアランは同時に苦笑いすると、マルコは酒場を出、アランが営む武器屋へと歩いていった。 このキリコという町はアースライト大陸の一番隅にある町で、物資も食料も、生活になくてはならない物はすべて自分達で 用意しなければならないという厳しい環境にある。 それでも人々はこの町で生き延びているのだ。 これも人間の執念深さ、あるいは人々との信頼があってこそだ。 キリコにある家はすべて石で作られていて、町の小さな大道理には真中に噴水がありその噴水のてっぺんには剣が突き刺さっ ている。 その剣は、マルコの帯剣しているものとよく似ていたが、当の本人はまったく気づいていない様子だ。 歩くこと数分、マルコは武器屋に辿り着いた。 マルコは銃の弾丸を補給するのによくここを訪れていた。というのも、武器屋はここだけしかなく、隣町まで行くのには3時 間もかかるのだ。 そういうこともあってか、マルコはここがお気に入りだった。 「おーい、イリカ」 マルコは両開きの木製の扉を開けて奥まで響くように言うと、一人の少女が姿を現した。 「あ、ボルバーさん。いらっしゃいませ!」 その少女は、長髪を大きな赤いリボンで一つにまとめてポニーテールにし、サイズの合わないダブダブのエプロンを着ている。 とても武器屋の娘とは思えない少女だ。 アランの一人娘のイリカは、まんべんの笑みをたたえてマルコを迎えた。 「今日はどういったご用件でしょうか?」 「いつもどうりのやつを」 「かしこまりました」 うやうやしく一礼するとイリカはカウンターの後ろにある刀やら剣やら銃やらでうもれた棚の中から、古びた箱を取り出す。 重そうにふらふらと不安定に歩きつつも、なんとかカウンターにおろす。 「はい、銃弾一パック金貨五百枚になります」 「相変わらず高いんだよなあ」 マルコはそうぼやきつつも、レザージャケットの懐から革袋を取り出すと、金貨五百枚ちょうどをイリカに渡した。 「ありがとうございました」 イリカは微笑みながらまたもぺこりとお辞儀をする。 「イリカ。お前いい加減そのダブダブのエプロン取ったらどうだ?」 マルコは箱を開けて、銃弾をチェックしながらそう言った。 「そうはいきません。これは母の形見ですから」 「・・・。そうか・・・。そうだったよな・・・」 マルコはうつむきかげんにぼそりと言う。 自分の能天気さを、三度恨ましく思った。 「ボルバーさん。あなたこそ、服装を変えたらどうですか?」 「あ?」 「この町に来たときからずっとその格好ですよ。たまには衣更えもいいんじゃないですか?」 「ほっとけ。これは俺のファッションセンスなんだよ」 そういうものの、イリカの質問はもっともだ。 マルコはキリロに来てからずっとあの黒と青の格好なのだ。 変人あつかいされても文句は言えないだろう。 「それにボルバーさん。フリーの傭兵なんですよね?」 「ああ。なんだよ、きゅうに改まって?」 「え、だって・・・。あの・・・、その・・・」 「? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」 「だって・・・だって・・・。も、もしも、もしもボルバーさんが、その・・・。怪我でもしたら・・・」 「??」 「きゃ―――! もうボルバーさんたら何を言わせるんですかあ!」 頬を真っ赤に染めながら、イリカは近くにあった大き目の袋をマルコにむかってぶん投げた。 「うわがぁ!」 見事マルコの顔面に命中した袋は、マルコともども床にドスンと重々しい地響きをたてながら床に落ちた。 袋からでてきたのは大量の銃だった。 「い、いってーなー! なにすんだよ!!」 「え、あ、あら? 私ったらつい・・・」 「ったく。その癖治せっていったろ?」 「ご、ごめんなさい」 「まいいさ。それがお前の取り柄だからな。んじゃな」 「あ、ボルバーさん」 「ん?」 「ファラさんがボルバーさんに伝えて欲しいって」 「ファラさんがか?」 「はい。なんでも仕事が入ったから後は頼みますって」 「そうか・・・」 マルコはそれだけ言うと、軽く手を振って武器屋から出た。 突如として、その者達は現れた。 町の者達の悲鳴が町全体に響き渡る。 ついで、ものすごい破壊音。 マルコから見て南の方角からだ。 条件反射で剣を腰に吊るしてある鞘から抜き取ると、マルコは走り抜けた。 逃げ惑う人々の波を器用に避けながら、黒と青の疾風と化したマルコが辿り着いたのは風車が目立つ畑だ。 だがその風車も粉みじんに粉砕され原形がほとんどないものばかりだ。 マルコはちっと舌打ちする。 マルコの前方。煙が立ち込めていたが、突然吹き荒れた強風で右にそれは移動していき、その者達の姿が明らかになった。 白羽をはやした翼を持った人間。 いや、今いるのは大型の狼に翼をはやした格好だ。けっして人型ではない。 これは・・・・天使の使いであるその下僕『ワーウルフ』だ。 「こんな町にまで」 マルコは剣を構えると、一気に地面を蹴りつけて『ワーウルフ』に立ち向かう。 『ワーウルフ』も黒と青の接近に気づき、全身の体毛を逆立て天空に一鳴きすると、計十六匹の銀狼が立ちはだかる。 マルコもそれを望んでいたかのように走るスピードを上げ、疾風と化す。 しかしこれが普通の狼ならマルコも苦戦せずにするだろう。 相手は低級天使だとしても天使は天使だ。 天使と悪魔も、パーソナルバウンサーのように階級別に区別されている。 と言っても、当然人間が天界の内で天使がどう区別されているのかは知らないが、一つだけ見分ける術はあった。 それは翼の枚数だ。 今いる『ワーウルフ』は二枚の翼をはやしているが、中級は四枚、高級は八枚にもなるのだ。 悪魔は、翼の大きさで見分けられる。 先程マルコが森で闘った、悪魔は翼が直径二メートルの低級だろう。 中級は四メートル、高級は八メートルになる。 マルコは一匹の『ワーウルフ』に切りかかろうとした途端、またもや爆発音。 今度は北の河原沿いだ。 「挟みうちかよ」 マルコは嘆きながら切っ先を『ワーウルフ』に振り下ろすが、低級と言えど、同レベルの悪魔よりも知能はある。 『ワーウルフ』はバサッと白い羽を数枚散らせながら後ろに大きく飛びのいた。 マルコは焦った。 今ここで『ワーウルフ』の相手をしていれば、北側に逃げた人達に被害がでるのは明白だからだ。 だが、迷いは一瞬だった。 マルコは剣を構え直すと、疾風と化し、『ワーウルフ』目掛けて走る。 こいつらを早く倒して北に向かう、というなんとも簡単な答えを導き出したのだ。 だが『ワーウルフ』は十六匹。対してマルコ一人で装備しているのは変わった剣と銃だけだ。 マルコは、北に向かうことができるのか? to be continued・・・ next story 『ワーウルフ』十六匹に立ち向かう傭兵で元AA級のマルクラル・ボルバー。 なぜ天使がキリロを襲うのか? はたしてその目的とは? そしてマルコはインフィニティと言う意志のある剣と運命的な出会いをする・・・。 「安心しろ。痛みは一瞬だ」 作者コメント お初の完全オリジナルのSSはどうだったでしょうか? 気に入ってくれれば嬉しいです。 でも、やっぱりヘタレだなあ・・・。 感想等はBBSorMAILでお願いします。 戻る