第2章
前回のあらすじ:凄腕の傭兵マルクラル・ボルバーは、キリロの町を襲う神の僕、『ワーウルフ』に立ち向かうが…   背水の陣とはまさにこのことを言うのだろうか?   元パーソナルバウンサーの傭兵にしてAAA級間違いなしとされたマルクラル・ボルバー、愛称はマルコ。   彼の目の前には都合十六匹の神の僕の低級天使『ワーウルフ』が、鋭いうなり声を上げながら、こちらを睨んでいる。   負けじと、こちらは悪魔のような不気味な笑みを作りながら、睨みをきかせるマルコ。   黒の髪が揺れ、ブルーの瞳がすっと細まる。   黒のレザージャケットもたなびき、青のジーンズに包まれた足にグッと力が込められる。   服と同色のブーツにもだ。   そして――  「お前らはここで寝てな」   言うなり、マルコは『ワーウルフ』に襲い掛かった。   十六対一。   どうみても勝ち目などない。   しかし、マルコの笑みは消えることはなかった。   マルコが動いたのを認識した『ワーウルフ』も、獲物を食いちぎらんとして、躍り出る。   剣を一匹の『ワーウルフ』に振り下ろす。   わかっていたかのように、銀狼は翼を羽ばたかせてマルコの視界横へと消える。   完全に死角を取った銀狼は、マルコの斜め後ろからその首筋に食らいついた。   しかし、『ワーウルフ』は無残にも横から銀の光によって真っ二つにされる。   マルコは振り下ろした剣の切っ先が地に付くより早く、横合いに逃げ込んだ『ワーウルフ』を斬りつけたのだ。   大量の血をぶちまけながら、一匹の天使が絶滅する。   その模様を見ていた仲間たちは、少しも臆することなく襲い掛かってくる。   びゅんと言う音は後ろからだ。   マルコは俊敏な動きでしゃがみこむ。   空を覆った影の正体は『ワーウルフ』だ。   だがマルコにとってそれは好機でしかない。   まだ空中にいる『ワーウルフ』の腹に、右のアッパーカットを叩き込む。   強烈なそれは『ワーウルフ』の内臓に的確にダメージを与え、尖った口から血を吐き出させた。   さらにマルコは、下から円を描くようにして剣を振るう。   敵の死を認識する前に、マルコは前へと走った。   いきなりの急接近に『ワーウルフ』は反応しきれなかっただろう。   無残にも剣で串刺しにされ、身動きできないままのた打ち回る『ワーウルフ』をしり目に、マルコはだいたんにも剣の柄から手を離したのだ。   横合いから猛突進してきた銀狼を、回し蹴りで吹き飛ばし、足元を食らい突こうとして後ろから来る『ワーウルフ』を、軽い跳躍でやりすごす。   無論、ただで飛んだわけではない。   足元を通過する『ワーウルフ』の頭に、不安定な体勢からの踵落とし。   もしもここに人がいたら、拍手の一つは起きていただろう。   脳をやられた銀狼は、そのまま沈黙する。   負けじと反撃をしてくる『ワーウルフ』の群れ。   今度は左右からの挟み撃ちに転じる。翼をも使用して、一気に加速をかける。もはや普通の人間では反応しきれない速さだ。   しかしマルコは軽いバックステップで後ろに動く。   なぜここまで余裕なのか。   二匹の銀狼が飛び上がり、前足の爪を血を求めているかのように突き出してきた。   『ワーウルフ』の目の前からマルコの姿が霞んだ。   マルコはまたも軽く跳躍し両足のつま先を、タイミングよく二匹の『ワーウルフ』の下顎へと跳ね上がらせたのだ。   なすすべもなく、縦に二、三転回って、二匹の『ワーウルフ』が勢い欲地面にぶつかる。   たぶん即死だろう。   着地と同時に、マルコは右手の甲を思いっきり後ろに向ける。   捕らえたのは『ワーウルフ』の右頬だ。   俊敏な裏拳は『ワーウルフ』をふっ飛ばさせ、襲いかかろうとした一匹の銀狼にぶつかり、共倒れを誘った。   そしてようやく突き刺していた剣を引き抜く。   串刺し状態にされていた『ワーウルフ』は、剣を引き抜かれた拍子にせき止められていた血を一気に吐き出した。   その血を浴びながら、マルコは剣を構えなおす。   後方から破砕音がとめどなく流れてくる。   苛立ちを隠せないのか、マルコは雄たけびをあげながら、残り十匹程度の『ワーウルフ』の群れに突っ込んでいく。   しかし、『ワーウルフ』はそうはさせまいと、四本の足を地に突きつけ、尻尾をビンッと天に向ける。全身の体毛が逆立ち茶色の眼をカッと見開かれる。   一瞬で加速したマルコもそれを見てはっと我に返るが、一歩遅かった。   鼓膜を突き破るほどの音響があたりを響かせる。   とっさに顔を守ろうと両手をクロスさせたマルコが、吹っ飛ぶ。   『ワーウルフ』の最も強力な武器、『咆哮』だ。   一匹だけでも鉄板をひしゃげる威力がある。無論、頑丈がうりのマルコでも、いっせいに十の『咆哮』をくらえばただではすまない。   後ろに飛ばされたマルコは、風車小屋にぶつかり、沈黙する。   今ので骨の二、三本はやられただろう。   『ワーウルフ』は、確実に勝利を確信する前にマルコのもとへと失踪する。   低級の天使は低級の悪魔よりは知能を備えているが、人間ほどではない。しいて言えば、本物の狼ぐらいだろう。   それゆえ、『ワーウルフ』は自分の牙と爪で確実に相手を八つ裂きにしなければ気にすまないのだ。   風車小屋につっこんでいったマルコは、ほこりまみれになりながらもむっくりと起き上がる。   カードした手首から腕にかけて、レザージャケットは無残にもずたずたに引きちぎられ、皮膚も腫れあがっている。   幸いにも骨には異常はなかった。   マルコがぶち当たった拍子に、落ちかかっていた風車が、とうとう衝撃に耐えかねて、マルコの目の前に落ちてきた。   またもマルコの周辺にほこりが立ち込め、マルコはしかめっ面で咳き込む。   なみだ目になりながらも、視界には『ワーウルフ』を捕らえている。敵がこちらに完全に接近するのに、数秒はかかるまい。   しかしマルコは、かいしんの笑みを浮かべた。   目の前にある、木製の風車をむんずと掴むと、それを勢いよく投てきしたのだ。  「こいつで遊んでな!」   マルコの膂力をもってすれば、大人を縦に二人並べたくらいの大きさの風車など凶器どうぜんだ。   『ワーウルフ』はミンチにされるのを待つ家畜のように、ただただ自分たちの四肢がバラバラになり、血を噴出するのを遠のいていく意識の中で、   呆然と見ていくだけだ。   マルコはにっと笑い、今もなお続く破砕音に向かって駆け出した。   人々の悲鳴はいつの間にかやんでいる。   嫌な予感がした。何をかもを失ったような失望感がよぎる。   通り過ぎていく街路樹は、建っていた家も、店も、すべてがなぎ払われ、ぼろぼろになっていた。   原型も、ない。   ただ、悲鳴の変わりにうめき声がキリロの町全体を覆いかぶせているかのように、あたりいったいに響いていた。   はたっと、マルコの視線が、破壊された町並みからもとは何かの店だった建物に止まる。   看板が裂けていてよくは読めないが、どうやら先程マルコが一腹していた酒場らしい。  「くそっ」   マルコは誰にでも言うことなく毒付く。   周りを再確認しても、住み慣れた町はもはや廃墟に近かった。   この町の象徴でもある噴水も、原型をとどめることなく、ただ狂ったように水をあたり一面にまき散らしているだけだ。   変わりがないのは、噴水のてっぺんだった部分に突き刺さった銀色に光る剣だけは健在だった。  「うっ・・・く・・・」   マルコの耳に聞きなれた声が届いた。   声が漏れてきたのは酒場の近くだ。   マルコはばっと振り向き声のしたほう方――酒場と家の間の隙間――に駆け寄った。  「お、おい、アラン・・・」  「マルコ・・・か・・・?」   ひどい状態で、武器屋のオーナーが横たわっていた。   天使が襲撃したとき、とっさにここに隠れたのだろう。   しかし、それも不運なことに体の半分以上が瓦礫の下になっていた。  「うぅ、マルコ。俺に構わず、イリカの所に行ってくれ」  「・・・もう、ダメなのか?」  「ああ。視界も・・・ぼやけてきた・・・」  「そうか・・・。すまん」  「気にするこたぁねぇよ。人間・・・いつかは・・・死ぬんだからな・・・」  「そうか・・・できるだけ、楽に死ねよ」  「あんたの減らず口も・・・最後・・・だな・・・」   そして、こときれる。   また一つ、守れなかった者がその生命を失っていく。  「悠長に浸ってる場合じゃないな・・・」   マルコはきびすを返して、武器屋に向かった。   町中は死体とうめき声、そして腐敗臭に包まれている。   もはや生きている人間を探すほうが困難だろう。   だがマルコの頭の中にはそういった思考能力は備わっていない。良く言えば、イリカがまだ生きている。そういった短絡思考しかない。   人よりも遥かに優れた速度で、マルコは死体置き場と化したキリロの町を走り抜ける。   期待を裏切るかのように、武器屋もあたり一面同様に、瓦礫の下に埋もれている状況だった。   マルコはあたりを警戒しつつ、瓦礫をどける。   いささか乱暴なのは、イリカの事を考えつつ、なのだろう。   最悪の場合を考えれば、急ぐのも無理はない。   死んでいないという可能性は、ないのだから。  「そんときは、顔を百回ひっぱたくまでだな」   悠長にそんなことを言っているが、マルコもこの事態にはさすがに汗を一つ垂らす。   ようやく瓦礫を排除したマルコは、ありとあらゆる武器が散乱した場へとその体を入れる。   イリカは―――  「おい! 大丈夫か!」   マルコはカウンターの手前にイリカが倒れているのを発見した。   あのお気に入りのエプロンはずたずただが、マルコの声に反応したのだから意識はあるようだ。   ひとまず、マルコは安堵した。  「ま…マルコさん…?」  「どうやらひっぱたかなくてもいいみたいだな」  「…?」  「なんでもない。それより、ここは危険だ。さっさとこの町を出るぞ」  「え? で、でも、お父さんも――」  「アランは死んだ」  「!!」   マルコは即急にそう言い、イリカが口を挟む前に、ボロボロの服を着込んだイリカをひょいっと抱き上げ、武器屋から出ようとした   その時だった。   けたまましい破砕音をともなって、上から何者かが侵入してきたのだ。   石で作られた天井を破壊してくる者といえば、この町を襲っている天使だけだろう。   しかし、マルコの聴覚には、もう破砕音は響いてこない。   変わりに響いてきたのは男の声だった。  「ほう。まだ生きた人間がいたか」   マルコはイリカを抱きかかえたまま、後ろを振り向いた。   そこには白き翼を六枚はやした者がいた。   真っ白の服を着、髪はグレー、瞳は黒色をした天使。   しかも、高級の。  「我が一族の僕を屠ったのは貴様だな…?」  「それがどうした?」   マルコは気づかれないように、徐々に後ろへと移動していく。   武器屋でやりあうのは部が悪いからだ。  「ふん。たかが人間が我々天使を抹殺できようとはな」  「そのたかが人間に、お前も殺られるか?」   嘲りたっぷりに言い放ったマルコを、高級天使はギロっと睨む。   もう気づいているだろうが、高級の天使や悪魔は人間と同等の知能を持つ。あるいはそれ以上の者もいる。   そして未だ知れない、超能力、技能、パワー、スピードをかねそろえているのだ。  「我が名はオーブル。貴様も魔界の者同様に始末してくれる」  「俺に言わせりゃ、あんたも悪魔もおんなじだ!」   言いざま、マルコは一気に後方へ飛んだ。   数秒遅れて空中にいるマルコの足下に、強烈な烈風が通り過ぎた。   言うまでもなく、オーブルが放った衝撃波だ。   それはまだ辛うじて原型をとどめている噴水に衝突し、こなごなに砕く。町の象徴である剣は、縦に回転しながら、   広場を囲むようにはえ出ている樹木に突き刺さった。   そしてこんどこそ瓦礫に変わった噴水は、狂ったようにあたり一面に水を撒き散らし始めた。   マルコは、水につかった石畳に着地すると、再び跳躍する。   武器屋から出てきたオーブルの衝撃波が、今いたマルコの地面をえぐる。   いかにそれが強力だったかは、地面がへこんでいることでわかる。   再度かれいに着地したマルコは、イリカを近くの物陰に隠す。  「いいか、何があってもここから出るな」  「は、はい」  「よし」   マルコは一人うなずくと、腰に吊るした鞘から剣を抜き放つ。   振り向く先は、無論オーブルである。  「たいした瞬発力だ。だが、それもここまでだな」  「ほざけ。てめぇを真っ二つにするまで俺は死ぬ気はない」  「黙れ、人間風情が!」   オーブルは何の躊躇もなく、いきなり右手をマルコに向かって突き出した。   そこからあの衝撃波が応じ、あふれだした水を割りながら、物凄い勢いで、黒と青を着込んだ男へと疾駆する。   マルコは冷静に行動に移った。   正面から向かってくる衝撃波を、横に移動して避け、そのまま走り出す。   オーブルもマルコを追うように、両手を突き出しながら衝撃波を連続で打ち据える。   一気に高速移動するマルコに、衝撃波はただむなしく建物を目茶苦茶に破壊していくだけだ。   オーブルを中心に、円を描くように移動していたマルコは、慣性の法則を無視して直角になって走りこむ。   疾風となった黒と青は、もはや並みの動体視力では追いつけはしないほどのスピードで、オーブルに突っ込んでいく。   真正面から迫り来るマルコに、オーブルは不適な笑みを見せ付けた。   まるで、すべて計算上での出来事を嘲笑うかのように……。   連続で放たれる衝撃波を、マルコは左右に移動して避ける。   そしておもむろに跳躍して、横を向いているオーブルに、掲げた剣を、振り下ろした。   普通なら、オーブルは縦に真っ二つなるのだが、高級の天使には切っ先が届かなかった。   届く前に、マルコが後方に吹き飛んだからだ。   オーブルの放つ衝撃波は、距離は十分にある。しかしその分範囲が狭い。   強いて言えば、真正面の敵には有効だが横にいる敵には衝撃波が当たらないと言えばいいだろう。   マルコも円を描くように走っていたとき、それを悟っただろう。   しかし、それが浅はかに終わったのだ。   オーブルの衝撃波は、距離も範囲も関係なかったのだ。   つまり、360度敵に囲まれても、真正面だろうが真横だろうが後ろだろうが、自由自在に衝撃波を浴びせられるのだ。   驚愕の表情で、マルコは背中から瓦礫に突っ込んだ。   衝撃で、上から土煙と瓦礫が降ってくる。  「無駄だ」   オーブルはばさりと、背中の翼を鳴らす。  「例え貴様が後ろから攻撃しようが、我に傷を負わすことはできぬ」   ふわりと音もなく、オーブルは空中に浮き上がった。  「茶番劇は終わりだ。苦しまずに逝かせてやろう」  「へっ、逝くのは俺じゃないだろ?」  「天使に傷を負わすことは、重大な罪だと教わらなかったのか?」  「俺は宗教が嫌いでな。でも安心しろよ。痛みは一瞬だ」   マルコは立ち上がると、負けじと減らず口をたたく。   油断していたのか、『ワーウルフ』からくらった『咆哮』のダメージがまだ残っていたのか、マルコにはいつもの張りがなかった。   しかし、その戦闘本能はまだ健在だ。   そして、高速移動。   だがオーブルにはわかりきった行動だったのか、冷静に、衝撃波を放つ。   今度の衝撃波は今までのよりも格段に攻撃範囲が広まっていた。   オーブルの視界180度全域に強烈な衝撃波がうまれる。   いかに尋常ならざる脚力を持って襲い掛かろうが、目の前の空間が丸ごと襲い掛かってきては、逃げ場などない。   しかしマルコは関係ないというふうに、空中にいるオーブルに向かって跳ぶ。   ついで、恐ろしいほどの衝撃。   マルコは、風に飛ばされた葉っぱのようにきりもみしながら、吹っ飛ぶ。   攻撃力は十分にある衝撃波は、いともたやすくマルコを後方へと飛ばし、瓦礫を、背中を中心に破壊しながら突っ込んでいく。   粉塵があたりを支配し、視界を覆い隠す。  「ああ、マルコさん…」   イリカはなすすべなく、煙に包まれながら、その場にうずくまり小さく嗚咽を漏らし始めた。   対してオーブルは不適な笑みをかたどり、勝利に酔いしれていた。   衝撃波をくらった家々は台風でも直撃したかのように粉々になっている。   マルコは死んだ。   そう確信してもおかしくはない。   だが、瓦礫を払いのける黒い影は、口から吐血をしてるもののなんとか立ち上がって見せた。   一丁蘭も、もはや服とはいえない代物になっている。   マルコは少しふらつく脚を叱咤して、立ち上がる。   小さく毒付いたのは、オーブルの攻撃で剣をどこかに手放してしまったのだ。   マルコは剣がなくても十分天使や悪魔とやりあえるが、それが高級では限界がある。   もはやなすすべはないのか。   マルコが諦めかけた、その時だった――。       「僕を使え」   それは、少年の幼さを残した青年の声だった。   しかしこの町の生存者はイリカと自分だけだ。   マルコは聞こえてきた方向に視線を向けると、そこには噴水に突き刺されていた、あの剣があった。   銀に光る剣芯は、どこか希望という名を思い出させてくれる感じがする。  「お前…誰だよ…」   マルコは唖然としながら、剣に向かって問う。  「僕は――」    「天界より作られし天器、インフィニティだ」 to be continued・・・ next story   インフィニティを手に取ったマルコは、再度高級天使オーブルに挑む。そしてインフィニティの力と、自らに秘めた力を解放する。  『THE EARTH』完結編へ。  「僕は君についていこう」 作者コメント 今回は大幅に格闘シーンを導入してみますた。 どうでしょうか? なかなか難しいですね格闘系のSSは…w 感想等はBBSorMAILでお願いします。 戻る