自分の心の中に巣食っている悪魔を、消したくて、毎晩のように毎晩のように、考える。滅び行く人の顔はとても美しい。その人自身が自分が滅びてしまうということを確かに感じている時、人はこの上なく美しい顔になる。今私はどんな顔をしているだろうか。私は美しいであろうか。
私は常に一人であると言い聞かせてきた。不幸であるなら、不幸のままでつかの間の幸せや、連帯感なんて知らないでいるほうが、よっぽど楽だったのに。それでも、やっぱり気付かされる。この世に自分は一人であると。とても一人で、とても孤独であると。
夜になるのがこわい。毎晩孤独は間違いなく、迷いもせず、私の元へやってくる。一歩一歩確実に。私には魔法のお茶がある。その逃れられない悪魔がやってくると飲む、魔法のお茶がある。実際には、ハーブティの一種であるが、私には本当にセイント(聖)な気がするのだ。神様がこんな私に落としてくれた、セイントジョーンズワート。確かな魔法を私に施してくれるお茶である。
どうして自分はこんなに醜く、こんなに小さく、こんなに劣等な人間なんだろうと思う。誰か私を、こんな地獄のそこから、救いだして欲しい。助けて、こんな汚く卑怯ものの私を。
夜になり、魔法のお茶を飲んで少し、悪魔の影を薄らげると私は、いつも近くの公園に散歩に行く。大通り沿いに突然にある小さな公園である。わたしはここから、人や、行き交う車を見るのが好きだ。大都会の中で、一人、上から眺めているような気分になる。私には生活がなく、まるでそこに突然現れた神のような気分である。そして、実際は、そこかしこに人がいて、呼吸しているという実感を感じ、孤独を安らげているのだということもわかっている。
ここの常連は、私以外に何人かいる。いつも夜の間ずっと寝ているホームレスのミヒャエル(この名前は私が勝手につけた名前だ。ひげをたっぷりとたくわえていて、まるで地上に修行に来ている天使のようであるからだ。つまり彼は、おかしなことに私の使いのものということになる。)終電が終わるころに現れるスーツ姿の20代前半と思われるアルテミス(彼は、非常に整った顔をしていて、なおかつすこぶる美しい。なのにいつも同じくたびれたスーツを着ていて、パッとしない。ほとんどの場合眼鏡をかけているのだが、ほんの極たまに眼鏡をかけていない。その時に見せる表情は思いもよらないくらい、美しい。彼はたまにここでご飯を食べ、またたまにはここでしばらく漫画や小説を読んだりする。こんなに若く美しい青年になぜいつも彼女がいないのか、私は不思議でたまらない。)いつも生傷の耐えない黒猫のジョウオウ(その気品と卑しさや、やらしさのある歩きっぷりはまさに、女王といった感じだ。彼女が実際女であるかどうかは定かではないが、昔から女は女のにおいに至極敏感な生き物である。)そして最近常連の仲間いりしたのが、ピカソである(彼の人種は不明であるが、多分外国人だと思う。目は薄い深緑に輝いていて、髪は透き通るような茶色で、肌はやはりほとんど色素を持っていないかのように色白である。彼を色で表すなら、薄い灰色。そして素材で表すなら、モヘア。だいたい大きめのセーターをざっくり着ていて、外見から想像するには、昔の画家のような雰囲気を持っている。とくに一定のことをするでもなくただじっと大通りを眺めている。フレーバータバコをよく吸っている。)