噂屋
なんか最近やっぱしついてない。
今日、バイトをクビになった。別にあたしが何かしたとは思ってない。
インテリアコーディネーターに憧れてインテリアショップで働いてたけど、インテリアを売るのとコーディネートするのはやっぱ全然違うと思った。だってあの客の話聞いたら和風のちゃぶ台に和風の部屋に突然イタリアのヴェネチアングラスの花瓶置こうとしてるんだもん。そんなん聞いたら誰だって合わないって言うでしょ。しかも、あんなに丁寧に「お客さまの部屋のスタイルとは少し感じが異なるものだと思いますよ。」って言ったのに。
チーフなら分かってくれると思ったけど、
「彩桐さんって仕事熱心なのは分かるけど、商品を選ぶのは私達じゃなくてお客さまなんだから、ちょっとクレーム沙汰が多すぎるよ。もうかばいきれないよ。」
チーフが言ってる事はもっともだけど、じゃあ何であんなに一つのお店に店員がいっぱいいるかっていうと、客の相談受けてアドバイスするためじゃないの?って感じだけどな、あたしから言わせると。やっぱあたしパパに似たのかなぁ。人の下では働けない人間かも。
あたしのパパは複雑なことはわかんないけど、海外からいろんなものを持ってくるいわゆる外資系商社の代表取締役なんだけど。小さい時から何やってるのかわかんなかったけど、今でもわかんないんだよねえ。あんまり興味もないし。人の下で働くのが性にあわないとかよく言ってるのは、あたしも同感だな。どっちかって言うとあたしも我が道を行く感じだしね。
「ただいまー。」
「お帰りなさい。理都さん。今日は早いんですね。」
「南、またお留守番なの?」南はあたしのパパの第一秘書。
「理都、またそんな口聞いてはしたないわね。」このお嬢様を絵に描いたような人があたしのママ。
「だって、昔から南は南だもん。『理都さん』の方がおかしいでしょ。」
これ以上言うとママの手前、南がばつが悪そうだな。
「ママ、理都今日バイト、クビになっちゃった。」出来れば言いたくないけどどうせばれるしね、ばれる嘘はつかない方が面倒がない。
「え?」
「だから、クビになっちゃったんだって。」この静かな間っていやなんだよね。
「奥様、もうすぐ社長帰ってくる時間じゃないですか?」
「あ、そうね。じゃあとは南さんよろしくお願いしますね。」あー。ママの後ろ姿が痛い。
「理都さん、どうしてクビになったの?」南って親切なんだかおせっかいなんだか。
一通り話終わるまで、南はじっとあたしの話を聞いてくれた。てっきり、お説教かと思ったけど、彼は何にも言わなかった。南はだいたいにして無口で無表情だけど、たまに優しい顔をする。
「奥様には、自分からなんとかうまく言っときますよ。お部屋に上がって下さい。」南って27歳よりは老けてみえる。縁無し眼鏡に濃紺のスーツが南の制服。パパの手前かあたしにはめっきり甘い。目は切れ長だけど、たまに作る笑顔になると以外に垂れ目だったりする。こんなに綺麗な顔をしてて仕事も出来るのに、彼女がいたためしがない。かなり
彩桐家では謎の人物である。
部屋に戻るとあたしはさっそくお気に入りのiMacの電源をいれた。あたしは暇だともっぱらインターネットのオークションに入札する。もともと買い物好きと、インテリア好きなあたしは、バイトがない時はほぼこうやって毎日の暇潰しをする。友達はまだ高校生の子ばっかりだから、あたしみたいな中退者は昼間は遊んでくれる人もいなくて、すんごおく暇なのです。
「cherish momentどうなったかなぁ。」
cherish momentというのは、食器ブランドで有名なウェッジウッド社のグラス専門のネームが2001年のミレニアム記念に出した限定ペアシャンパングラス。グラスの3面には過去、現在、未来の3つの時空の象徴の炎、薔薇、蝶々が描かれている。あたしがその存在を知ったのは最近古い雑誌の整理をしてて、その雑誌のほんの片隅に載っていた記事だった。どうして、こんなに美しいものを見逃してしまったのか、本当に後悔した。それからありとあらゆるオークションを見て回ってようやく、見つけたけど、限定物の31,500円の物が1,000円からだなんて!でも人気ありそうだからなぁ、そう簡単には落とせないものなんだよねぇ。落札締め切りの時間内に最高額を入札した人が、もちろん落札できるわけなんだけど、最近はいろいろ入札者も出品者も設定できるから、その頃合いが難しい。もはや最後は運だけどね。そして今日がそのオークションの最終締め切り日。あたしのモットーは落札者が決まる瞬間はネットでライブに見ないこと。だって欲が出ていい買い物が出来ないでしょ?自分の予算より多くだしちゃうし、なによりオークションはあたしにとってある意味ギャンブルみたいなものだから、落札できなければ、それはあたしと縁がなかったんだと、きっぱり諦める。それがあたし流。
やっぱりこの瞬間がどきどきする。落札できているのかいないのか。
あたしは目的のcherish momemtの落札結果のページへのリンクをクリックする。
「イエッッス! やったぁ!すごい!1,500円??すごい、あり得ないよ!」
まじですごい!あたしってやっぱ今日はついてるかも。なんと1500円で、1500円でcherish momentを落札してしまいましたぁ!信じられない、超うれしい。やっぱり運命ってこういうことを言うんだよねー。さっそく出品者に連絡をとる。メールだから、いつ返事が帰ってくるかわかんないけど、こんなに安い値段でごめんね、onesouthernさん。
はじめまして。今回cherish momentを落札しました、briliantcityです。
本当に前から欲しくて欲しくて限定品だったので、すごくさがしていました!cherish momentはどこで知られたのですか?食器コレクトとかしてらっしゃるのでしょうか?あたしもインテリアコーディネーターなので、趣味で雑貨や食器等を集めています。これからも、よろしくお願いします。
支払い方法等詳しく教えてください。待ってます。
まだコーディネーターではないけど、これくらいは愛嬌。だってそのくらい言いたいくらいハッピーなんだもん!それでこの人が食器コレクターなら顔もいろいろ効くだろうし、どこか新しい就職先なんかも紹介して貰えるかも!なんてのは、ちょっと都合よすぎるか。いずれにせよ、成り金のおばさまのお客さまを捕まえておくのは、のちのち役にたつってものだし、こういう出会いを大切にするタイプなの、あたしって。
「理都さん。お父様が帰ってこられましたよー。」
お母さんだ。あんであたしが18にもなってお父さんのお出迎えしなきゃならないのよ。まったくこのお母さんのお嬢様ぶりって本当にやだ。
トントトントントトン
お母さんかな。やだなぁ〜。
「理都さん?お出迎えしないんですか?」
「南かぁ。」
「行かないんですか?」
「行くわけないでしょ。すぐ玄関の前までなんだから。お父さんだって窮屈だよ、こんな大勢で出迎えられちゃ。総理大臣じゃあるまいし。」
「ははっ、それはそうですけど、私はともかく、理都さんが向かえにくると社長本当にうれしそうにしてますよ。」
「パパの奥さんはママだし、南もいるし十分じゃん。」あたしは何気なく爪を磨きはじめる。
「理都さんは最近ずいぶん遅い反抗期ですね。」
「そんな困った顔しないでよ。どうせママに頼まれたんでしょ?ママって本当に世話が焼ける人だよね。自分でくればいいのに。」しぶしぶ爪ヤスリを置いて重たい腰をあげる。
「理都さんは頭のいい人ですねぇ。昔っから。」
「南は昔っから、何を考えてるんだかわけわからないけど。」あたしが少し睨むと、南はにっこり笑った。この人ってなんでこんなわがまま家族の世話をしてるんだろ。いくら仕事の一部でもあたしなら耐えられないけど。