露切橋



この街では

道はすべて闇へと向かっていて

歩みを進めてゆくほどに影を失ってしまう

だからもう何年ものあいだ

わたしは人に本当の姿を見せたことがない



平気で嘘をつく人を前にして

わたしは愛について語ったし

敵意をもつ人の横でも

笑顔を絶やすことはしなかった



言葉によって

いままでみたされていたはずの空洞が

知らぬ間に大きくなり

しだいにあたりを覆いつくすから

密度を増してゆく闇を

さらにきつく抱き寄せて

わたしは眠りにつくしかなかった

すべてを知ってはいけない

不明のものはそのままに

木陰に隠しておくべきなのだ

得体の知れぬ何かを

わたしは決して

知ろうとは思わない

自らを偽るとは

現実から目を背けること

死んでしまったことさえ忘れ去ること



降り注ぐひかりに溺れて

風の行方をかぎわける

たくさんの父と母が残してくれた

陰鬱なこまぎれの記憶から

解き放たれるために

心を軽くするために橋をわたる

見知らぬ亡霊の

悲しげな視線にとまどいながら

それらを振り切って

逃げるように橋をわたる






露切橋のたもとにあるたばこ屋で

鷹揚に道を尋ねている紳士も

じつは ちょっとした事に怯え

母の面影をいつも求めている人だ

その証拠に見たまえ

足の方の影が

既に淡くなっている






どこにでもある

闇のなかの

声の届かない場所まで

本当の姿を見せぬまま

私は歩みを進めていく