ひび



気に入って買い求めたぐい呑みに

知らぬ間にひびが入った

大切に使ってきたはずなのに

いつの間にか粗雑な扱いをしたのだろう

失いたくないものにかぎって

いつもこうだ



なみなみと酒をそそげば

芽吹く季節が

ひかりながら揺れている

手のなかであたため

揺らぎが消えるのを待つ

ひびが消えるのを待つ



どれだけ飲みほしても

酔えやしない春の夜には

ぐい呑みにまつわる記憶を

たぐり寄せてみよう

泣いたり 笑ったり

たくさんの想いが浮かんでいる

だけど

不用意につけたひびのせいで

酒がしみ出してくるのだ

悔いてこぼれるなみだのように