教壇の長髪の男は、にこにこしながら(場違いに明るくて胸糞の悪い笑顔だった)言葉を続けた。
「はーい、はいはい、みんなまだよく分かってないようなので、説明しまーす。まず、私が新しい皆さんの担任のイタキタケトといいます」
イタキと名乗ったその男は、黒板に向って、白墨で大きく縦に”板木全人”と自分の名前を書いた。
ん?そういえば”坂本金八”という名の教師が出てくる学園もののテレビ番組があったっけ。漢字で書くとよく似ている。
まったく、ふざけている。それともこんな状況だから偽名なのか?
突然、前の方で多古口真治(男子9番)が立ち上がって
「その名前は本名ですか?」と声を上げた。
まったく、核心を衝いた質問だ。
真治は続けた。
「なんなんですか。金八先生とは関係ないんですかぁ?それよりも、俺らはホテルへ戻るところだったんですけど、ここはどこなんですか?まさか、ここがホテルってわけじゃないでしょ?」
真治がそう言ったのを引き金に、辺りはざわつき始めた。
「金八先生の名字って坂本だっけ?」
「なんで寝てたんだろ?」
「ココハドコ?ワタシハダレ?」
「今何時だぁ?」
「腹減ったー」
「一体これからどうなっちまうんだ?」
「これって夢じゃないよね?」
「誰でもいいから、俺に分かりやすく説明してくれよ」
冬馬は板木が黙っているのを確認してから静かに辺りを見回した。何も喋っていない奴が他にも何人かいた。
まず目についたのは、冬馬の斜め後方にいた中闇拳次(男子17番)だった。普段はこういったことが起こったら、真っ先に何か言いそうなものだが、ただ静かに座っていた。まるで、じっと何かを待っているようだった。
それに前の方の淳子(女子16番)と涼子(女子17番)の混姉妹(中国と日本のハーフだそうだ)が、お互いに顔を見合わせてはいたが、何も喋っていなかった。二人は一卵生の双子で、腰ほどもある長い黒髪と同じく真っ黒な瞳が印象的だったが、あんまり男子と話してるようではなかった。冬馬自身一言二言話したことはあったが、あまり親しく話したことはなかった。
隅の方に座っていた伊達はガムを噛んでいたようだ。しかし、その目はしっかりと教壇の方を見据えていた。
それから、視線を前に戻したら、少し怯えた目で藤坂哀(女子15番)(なんでも、元々は”愛”の字にする予定だったのだが、父親に望まれていなかったらしく、生まれてくる前に両親はそのことを理由に離婚したらしい。だから”哀”の字をあてたそうだ)が冬馬を見つめていた。(冬馬は比較的、哀とは仲が良い方だった。いや、誰とでも仲が良かったのだろうか)だから、冬馬はその気持ちを察して、小さく頷いてみせた。哀は少し微笑んだようだった。
「はいはーい。静かにしなさーい」
板木が手を何度か叩いて、注意を引き付けた。再び静寂が訪れた。
「じゃぁ、説明しまーす。今日、みんなに集まってもらったのはほかでもありませーん」
そして、続けた。
「今日はー、皆さんにね、ちょっと、殺し合いをしてもらいまーす」
静かだ。異様なぐらい静かだった。
板木は相変わらず軽妙な口調で続けた。
「皆さんは、今年の”プログラム”施行対象クラスに選ばれました。御目出度ー」
ようやく状況を理解したのか、嗚咽の声が聞こえた。
[残り50人]
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