島の西の端。小さく聳え立つ白堊の灯台の下、三人の女が辺りを気にしていた。
陵本美冬(女子2番)、川瀬由夏(女子3番)、窪倉秋良(女子5番)らがそれだ。
月は雲に覆われて星の明りで辛うじて動くものが見える。
ガサガサッと言う音がして、目の前の林の奥に人影が見え隠れした。
3人の間に急速に緊張した空気が流れた。
秋良は背中に冷たいものが流れるのを感じた。
心臓が高鳴った。
林の間から出てきたのは、道長春那(女子18番)の姿だった。
春那の姿を見て3人の間の緊張は弛緩した。
由夏が春那に尋ねた。
「遅かったじゃない。もしかして、あんた、鬼じゃないでしょうね?」
「そういうあんたこそ鬼なんじゃないの?」
春那が問い返した。
4人の内に緊迫したような空気が満ちた。
「フッ」と美冬が吹き出した。
「あんたが鬼になるわけないよね。たとえなってたところで私たちは殺せない。そうじゃない?」
「フフッ。まあね」

4人が互いに信頼しあっているから、4人には笑いがこぼれていた。

 月が顔を見せた。4人は地面に腰を降ろした。
そして、暫しの沈黙。
沈黙を破ったのは由夏の一言だった。
「私たちこれからどうなるんだろう…」
「何もしなければこのまま殺されるんじゃない?」
秋良が応えた。
「やっぱり死ぬの。死ぬのはイヤ…」
そう言いながら、月明りに照らし出された春那の頬を涙が零した。
「じゃぁ、鬼に出くわしたなら鬼を殺すの?」
美冬が聞いた。
「それは…」
皆は言葉につまった。
 再び月は翳った。海岸の向こう、遠く離れた岸に街の灯が薄らと揺らいでいる。
草木が風に揺れる音が響いている。
「あれも嫌。これも嫌じゃどうしようもない…」
静で落ち着いた声が聞こえた。
声の主の姿は見えない。
4人の内に緊張が走った。
体の奥底から震えるのを美冬は感じていた。
「誰!?誰かいるの?」
秋良は叫んだ。
辺りを注意深く探ったが、やはり人影は見えない。
風がざわつくように感じられた。
「何か…、勘違いをしてないか? …死は苦痛じゃない。解放さ」
「死は万人に訪れる。それを受け入れればいいだけだ」
謎の声の主は続けた。
枯れ葉を踏み分ける音が聞こえた。
4人の足は竦んで動かなかった。
遂に声の主は4人の前に姿を表した。
身の丈185cmで、がっしりとした大柄な体躯。左頬の大きな刀傷。
見紛う方もない。鬼窪龍二(男子7番)であった。
一見して龍二は手ぶらのようだった。
龍二はゆっくりと4人の真ん中まで歩を進めた。
美冬の心臓は未だ高鳴っていた。
龍二は徐に懐に手を伸ばした。
美冬にはこれから起こるであろうことは容易に想像がついた。
それは恐らく由夏や秋良、春那も同じことであろう。
だがしかし、誰一人として動けなかった。
それは、或いは死への恐怖からか。或いは龍二の存在に依る心理的、精神的抑圧感からなのか。
兎に角、誰も動くことは出来なかった。誰も…
龍二の右手が懐から出てきた。
と、同時に銃声が響いた。
風が止んでいた。
春那がその場に倒れこんだ。
止まっていた砂時計の砂が再び滑り始めた。
由夏が言葉にならない叫び声を上げた。
美冬はまだ動けないでいる。
秋良が龍二に蹴り掛かった。
秋良は4人の中では一番気が短い方だった。
秋良の足が龍二に届く前に秋良の首は180度回って、真後ろを見ていた。
由夏は走り出していた。
ただただ無我夢中になって。その場から少しでも離れようとして。
龍二が再び銃を構えて、撃った。
先ずは両の足に。太腿に。そして近づいていき、腹に、胸に、頭に。
合計7発の銃弾が由夏の全身を貫いていた。
 月を覆っていた雲が上空の風に流された。
月明りに春那の姿が映し出された。
春那の焦点の合っていない虚ろな眼は天を仰いでいた。顳かみからは血が滴っていた。
それを見て美冬は嘔吐を催した。
龍二は弾倉を入れ替えていた。そして爪先を翻して美冬に近付いた。
龍二は蹲っている美冬に声をかけた。
「選ばせてやろう。このまま死ぬか、立ち向かって死ぬか、逃げようとして死ぬか…。1分やる。好きなのを選ぶといい」
突然突き付けられた1分という時間。この世に残された最後の時間は、とても長く感じられた。
1秒が1分にも、1時間にも感じられた。
よく言われることではあるが、美冬もこのとき、過去のことが走馬灯のように思いだされていた。
両親のこと、妹のこと、1年前バレー部に入部する時に知り合った春那や由夏、秋良のこと。
全てがまるで昨日のことのように思いだされた。
「5、4、3」
読み上げる声がより一層ゆっくりに感じられた。
龍二の腕が上がるのがスローモーションに思えた。
「2、1」
銃口が明るくなった。
額に弾が当たるのさえゆっくりとしていた。
死の際に、先を歩く3人の姿が見えた気がした。
世界は速度を取り戻した。
木の葉が風に踊った。

[残り36人]



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