4時間。
加藤俊作(男子9番)と五反田智哉(男子12番)はバイクで島中を回ってあるものを書き残してきていた。
『Xi Xfrv os dwmj J Wrtwpiguz』
所謂、暗号鍵付きの暗号と言うやつだ。
暗号鍵を共有していればこの不可解な文字の羅列が意味を帯びる。
暗号化する時は文字を鍵の数字分だけ進め、復号化する時は戻す。
俊作は学校の成績は芳しくないが、こういった方面のことは得意だった。
そのことを竹宮浩樹(男子18番)は『ガキくせぇ』と馬鹿にしていた。
だがしかし、解読のメカニズムと暗号鍵は仲間(少なくとも平常時には行動を共にしていた者たち)に伝えてある。
だからこの暗号さえ目につけば仲間だけを集めることができると考えた。
復号化すれば言っていることは単純だ。
(We wait in area C Northeast)
Cエリアの北東で待っている。と。
 ここに辿り着いてから20分経った。
「誰も来ないな…」
智哉がぼそぼそっと言った。
「ああ」
俊作は空返事をした。
さらに10分、20分と時間は流れていった。
二人の間には最早会話はなくなっていた。
「悪い、俊作。俺ちょっと小便してくるわ」
そういって智哉は林の中へと姿を消していった。
5分が経った。智哉は帰ってこない。
10分経った。いまだ帰ってこない。
俊作は急激に不安に襲われた。
立ち上がって恐る恐る林の方へ進んでいった。
「智哉? …智哉…?」
小声で智哉の名前を呼びながら探し続けた。
100mぐらい歩いた先。林が開けていた。
波の打ち寄せる海岸に出た。
左手に広がる岩場の一際大きく聳える岩の上に見なれた顔があることに気付いた。
軽く肩から学生服を羽織った姿が印象的に映った。
桐原和也(男子10番)だった。
そしてその下にもやはり見なれた、後ろ姿でもはっきりそれとわかる大柄な体躯。今、まさに探していた五反田智哉であろう姿も確認できた。
「ボス!」
思わずさっきまで抱えていた不安が消え、嬉しくなって叫んで、桐原のもとへ駆け寄っていった。
桐原は静かに首を俊作の方へ傾けた。
「ボス。お待ちしておりました。暗号見てくださったんですね」
うれしそうに俊作は言った。
「智哉。お前も呼びに来いよ」
俊作は智哉の肩を軽く叩いた。
智哉はその場に物言わず崩れ去った。
倒れるのを待っていたかのように智哉の体から次から次へと血が流れ出した。
「ボス!智哉が、智哉が!」
俊作は慌てふためいた。
桐原は穏やかに話し始めた。
「俊作。人間てのは脆いものだな。
 たった一発の銃弾でそれまでに16年かけて積み上げてきたものが全て
 一瞬のうちに消え去るんだ。
 …いったい俺達は何の為に生きてるんだ?」
「ボス何を言ってるんだ?」
俊作の声は震えていた。
伸ばした桐原の右手には燻された銀のように鈍く光るものが握られていた。
俊作の背に背負っていた太陽がその物に反射してその物体が何であるかを掴めないでいた。
雲のせいなのか、太陽の光が一瞬和らいだ。
銃だ。桐原の手に握られていた物は拳銃だったのだ。
「ボッ、ボス!まさか…」
やっとの思いで俊作は言葉を吐き出した。
「ボス、なんで。ボス!ボッ…」
俊作の言葉は強引に断ち切られた。
銃の反動で桐原の学生服はふわっと宙に舞った。
なす術なく俊作は崩れ去った。
左眼から入った弾丸は脳を傷つけた後、後頭部から再び大気へと飛び出し、大地に突き刺さっていた。
 桐原は落ちた学生服を拾い上げ、先程座っていたものよりは低い岩に腰を掛け、空を見上げていた。

[残り34人]



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