きたない仕事、ほこれない仕事、みにくい仕事<中編>


空を見上げたら、大きいビルが、たっていた。
私は、ごくっと、生唾を小さく、飲みこんだ。
階段をあがって、ピンポンと、チャイムをおすと、中から人が出てきた。

「こちらへどうぞ」

通され、中に入った私は、奥に通された。
まるで、これから地獄に行くかのように、とっても恐くなってしまった私は、
どうか、どうか、無事に帰れますようにと、ココロの中で、何度も何度も、呟いた。

私の他に、もう一人面接をする子がいて、その子と一緒に、私は面接を受けた。
きりっとした顔をしてて、頭がよさそうに見えた彼女は、とっても綺麗に見えた。
その子を、こそこそっと見ながら、私は、あぁ、これで、また落ちた、と思ってしまう。

面接は、精神的に、きついお仕事ですが、それでもやっていけそうですかとか、
そういったことを、言葉を変えて、何度も何度も、聞かれたような気がする。
馬鹿な私は、どんな風に答えていいのかわからずに、
ハイ、大丈夫です、やっていけます、としか言えないけれど、
その頭のよさそうな子は、私と違って、自分の言いたいことを、はっきりと、伝えていた。

採用する人は、私の、何処を見たんだろう。
数十分間後、二人揃って、その場で採用された私は、唖然としてしまった。
とってもとっても、まるで、大学に合格した時よりも、嬉しかった。

だけど、仕事は、とんでもなく、精神的にきついお仕事だった。
電話勧誘だから、当たり前といえば、そうなのかもしれない。
一緒に入った子は、研修期間中に辞めてしまって、私は、ひとりぼっちになってしまった。

丁度その頃、近所の野菜屋さんに採用された私は、また、舞い上がってしまう。
年末から、年始までの期間限定なんだけど、たくさん頑張れば、ずっと働けるんだ。
テレホンアポインターなんていう仕事、もうやらなくていいんだと思った私は、
はりきって仕事をするけど、野菜や、袋の名前を、ちっとも覚えられなかった。

始めは、いっぱい仕事をくれたけど、段々おばさん達は、仕事を頼まなくなった。
朝早く、9時から来てたのが、10時や11時になり、私は、早く帰らされるようになった。
頑張って、物を覚えれば、覚えようとするほど、空回りをしてしまう。

私は、ひどく、傷付いた。

とっても、とっても、ココロが痛かった。
涙が出るけど、顔には出ずに、ココロの中で、そのままこぼれ落ちる。
私の涙は、優君と別れた時と、大学受験の時に、出た、英語のテストの時に、
ぜんぶ、出てしまったはずなのに。

だけど、それでも、私の涙は、ぽろぽろと、おかしいぐらいに、こぼれてしまう。

もう、いっぱいいっぱい泣いたはずなのに、どうして、しょっぱい、お水が出るんだろう。

そして、正月を空けた頃に、給料を渡すから、来てくださいと
言われた私は、暗い気持ちで、いっぱいになった。
お金を、もらうことは、とっても簡単だけど、私がお金を受け取ったら、
今度から、おじさんやおばさんは、Special Need Schoolの後輩達を、雇わなくなってしまう。
あぁ、養護学校の子は、こんなもんなんだな、使えないんだなと思ったら、どうなるんだろう。
アルバイトでさえ、Special Need Schoolの中では、高校を卒業した後の、就職と呼ばれるのに。
その数少ない、貴重な、大切な、就職先を、私は、つぶしてしまった。

お金は、いらない。

そんな風に、ココロに決めた私は、私を雇ってくれた、おじさん、おばさんに、手紙を書いた。
私を、雇ってくれて、ありがとうございます。たくさん、ご迷惑をおかけしました。
お給料はいりません、だけど、どうか、次に、私のような後輩がいたら、雇ってください、と。
そんな言葉を、1枚か2枚足らずの便箋に、書いたような気がする。

そして、正月を過ぎた3日目に、私は、今まで働いた野菜屋さんに行った。

お店で働く、おばさんは、私を見つけると、ちょっと待って、と言った。
本当は、手紙を渡して、すぐに帰りたかったのに。
忙しいのにも関わらず、ちょっとしてから、おばさんは来てくれた。

私は持ってきた手紙を出して、おばさんに渡した。
帰ってから読めばいいのに、おばさんは、その場で封筒から出して、手紙を読んだ。
そして、一言、言った。

「この子に、お給料あげて」

びっくりした。
たった今、手紙を読んだはずなのに、なんでおばさんは、そんなことを言うんだろう。
何回も、何回も、私は断わった。

おばさんは、静かに言った。

「あんたの、気持ちは、ようわかった。
だけど、今まであんたが、働いた分のお給料だから、受け取りなさい。」

それでも、私は、ことわった。
おばさんの、言いたいことは、十分すぎるほどわかって、
とっても、ありがたかったんだけど、私はそれ以上に、
そのお給料を貰ったら、次から、後輩が雇ってもらえなくなることを思うと、
どうしても、その出された茶色い封筒を、受け取れなくなってしまう。

だけど、大丈夫だから、心配せんでええから、と言って、おばさんは、お給料をくれた。
今でも、せんめいに覚えている。茶色い色をして、ちょっとだけあつかった、
私が貰った初めての給料袋は、とっても、ずっしりと、重たく感じた。

その足で、真っ直ぐに、もうひとつのバイト先に行った時、
正月明けなのか、バイトの人は、とっても少なくて、私ひとりだった。
所長さんは、踊りながら、私に近寄ってきて、
「アポとれなかったら、クビだからね」と、笑いながら言って、
手で、クビを切るマネをした。背筋が、こおった。

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