きたない仕事、みにくい仕事、ほこれない仕事<後編>
「恐れ入りますが、電話番号の前に、186をつけて、
ダイヤルを電話番号の前に通知して、おかけなおしください」
機械じみた女の人の声が聞こえて、私は、思わず苦笑した。
働いていた野菜屋さんをクビになって、
テレホンアポインターという名の、電話勧誘しか、私には、バイトが無かった。
クビにされないためには、1ヶ月に必ず、1件は契約をとらないといけないんだけど、
これがとっても、むずかしくて、なかなかどうして、契約がとれない私は
月末が近づくと、決まって頭を抱え込んで、どうしようと、悩ませた。
私がしていたのは、家庭教師の体験学習の勧誘で、
有名大学の学生のふりをして、中学生の家庭に電話をかけて、
体験学習をしませんか?と言うバイトだった。
もちろん、お母さん達も慣れているから、適当にあしらわれたり、すぐに電話を切られた。
その日、1日3時間、100件ぐらい電話をかけると、60件が電話を切られて、
残りの37件が、ルスで、ようやく、残りの3件が、ちょこちょこっと、
退屈しのぎに、私の話を、聞いてくれるようなものだった。
私が、一番嫌だったのは、電話をかけて、アポをとること。
それは、今も、昔も、ずっとかわらない。
まず最初に、自分を、有名大学の学生だと名乗る。
そして、いかにも、私は、勉強が出来るんですよ、安心してまかせてくださいという風に、
お母さんや、お父さん、時には、子供とさえ、電話で話す。
資料という名の、マニュアルを見ながら、話す私の声を聞いて、
最初はとっても、警戒していたお母さんも、次第に、だんだん、打ち解けてくれるようになる。
そして、見事に、じゃぁ、今度の何月何日、何時に、お宅に伺いますと、
めでたくアポになるけれど、問題は、その後だった。
私の代わりの、指導員という名の営業の人が、
お父さん、お母さんのいる家に実際に行って、ちょこちょこっと、勉強を教えて、
こんな教材を購入したら、もっと勉強が出来ますよ、と言って、
家庭教師と一緒に、とっても高い教材も、購入させる。
それが、契約だった。
私は、私を、信頼してくれた人達を、騙してるんだ。
私が、家庭教師のふりをして、騙した家庭の中には、色んな人達がいた。
勉強が全くダメで、一日中、遊んでいる子、部活で忙しいけど、私を気に入ってくれた子、
子供が、どうしても勉強しないから、ワラにもつかむ気持ちで、私に、お願いします、と言った人。
その、全部の人達に、私は、任せてください、もう、大丈夫ですから、と言った。
何が、まかせられるんだろう。
自分が、実際に、見た訳でも、その場にいた訳でもないのに、
なんで、自分の口から、そんな言葉が出てくるんだろうと、
アポを取るたび、嬉しい反面、悲しい気持ちで、いっぱいになった。
そんなバイトだから、辞めていく人も多ければ、入ってくる人も多かった。
何百人と、入れ替わり、立ち代り、新人さんが来たけれど、
何年間、何ヶ月と続いたのは、私と、先輩のアポインターさんの、たったの、何人かだけだった。
それぐらい、精神的に、キツイ、キツイお仕事だった。
本当なら、すぐにでもやめたかったけど、
他に行き先が無かったり、どうしても学費が必要だった私は、
毎週毎週、ほとんど毎日働いて、休み時間や、みんなが仕事を終わった後も、
ただ、ひたすら電話をかけつづけた。
狂ったように、ほとんど毎日、働く私を見て、
あの人、頭がおかしいんじゃない、普通はさ、こんなバイト、したくないのにね、
と、ねたんで、陰口を叩く人も、出てきた。
だけど、それでも、私の、行きたい大学の、学費を貯めたい気持ちは、
変わらずに、月日がたっても、私は、それだけのために、相変わらず狂ったように、働いた。
そして、どれぐらいたったんだろう。
私は、そのバイト先で、一番に、なった。
当然、給料も、他の人に比べたら、ずっとずっと、いいんだろうけど、
私が行きたかった大学の学費の話になると、くらべものに、ならなかった。
有名ブランドの、バッグとか、財布とか、そんなのだったら、余裕で買えるんだろうけれど、
行きたい大学には、やっぱり、そこでも、また、行けないんだ。
どんなに毎日、働いても、電話をかけても。。。。。。
泣きたくなった。
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