明英君
Special Need Schoolに通う、誰からも好かれ、誰からも愛された人が、いた。
明英君という、小さな小さな、車椅子に乗った男の子だった。
私は、小学2年生の時から、ずっと、明英君と友達だった。
小学生の時、明英君と私は、小学部のろうかで、風船を投げて遊んでいた。
初めて、理科室に行った時、まんまるい椅子が、妙に高かったのを、覚えている。
私と明英君は、ちょっとだけ、苦労して椅子に座った。
二人で、「高いねー、高いねー」と言って、笑いながら空中に足をブランコしていた。
それが、年をかさねていくうち、高いねー、って言うのが、明英君だけに、なってしまった。
子供の頃は、同じ目線で、ほとんど変わらなかったのに、
私だけが、どんどんどんどん、身長や、体重がのびてしまった。
だけど、それでも、私と、明英君は、仲良しだった。
中学生になっても、高校生になっても、
いつも何かを喋ったり、一緒にいることが多かった
私と明英君は、周りの友達や、先生から見たら、二人は恋人同士に見えたらしい。
名前も、顔も覚えてないけれど、
確か、多分、後輩の女の子なんだろう。
突然、「二村さんと、明英君って、付き合ってるの?」と聞かれたことがある。
私は、びっくりして、違うよ、付き合ってないよ、と、笑って手をふりながら言うと、
その子は、少しだけ安心した顔をしながら、そうなんだ、と言った。
その時、初めて私は、明英君って、もてるんだなぁと、思った。
身長が、とっても小さかったけど、とっても優しくて、性格の良かった
明英君は、先生からも、先輩からも、同級生からも、後輩からも
好かれ、人望もあって、学校の生徒会長をしていた。
だけど、明英君は、どんな女の子から、好きですって、
告白されても決して、付き合おうとはしなかった。
そういう人だった。
そんな明英君は、とっても周りには優しかったけれど、
自分には、それと同じぐらい厳しい人だった。
私と明英君が中学1年生の時。
明英君は、中学生の時、児童生徒会の、選挙に出るはずだった。
それなのに、その前日に、明英君は、骨折してしまう。
とっても痛いはずなのに、痛くて、たまらないはずなのに、
何と次の日、彼は学校にやって来て、腕に包帯を巻きながらも演説をした。
そんな彼を、私は、1回だけ、思いっきり泣かせてしまったことがある。
ある日、私と明英君は、いつものように、二人で仲良く図書室に行った。
二人で、何を見よっか、いっぱい本が並んでるね、と言いながら見ていた時、
私の目に、大きな大きな、1冊の本が見えた。
それは、とっても重たそうだったけど、明英君には、持てないはずがないのに、
その時の私は、すっかりそのことを忘れてしまって、
彼に私は、じゃぁ、これ、ちょっと持ってねと、渡してしまった。
ピキッ。
何か、音が聞こえたような気がした。
そして、次の瞬間、明英君は、ウワーン、ウワーン、と、声を出して、泣き出した。
イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、ウワーン、ウワーン、ウワーン。
明英君の、泣き叫ぶ声を聞いて、真っ青になった私は、
自分の教室に、行ったのか、それとも職員室に、先生を呼びにいったのか覚えてないけれど、
数分後、たくさんの先生達が、かけつけた。
その時、私は、自分が何て大変なことをしたことに、初めて気がついた。
いくら謝っても、謝っても、謝りきれないことを、
私は、明英君にしてしまった。最も大好きな友達を、自分で傷付けてしまった。
ごめんなさいと、何回言っても、明英君はいつも、沙誉ちゃん、良いんだよ、と笑って言った。
だけど、その代わり、明英君は、もう2度と、私の前では泣かなかった。
Special Need Schoolを卒業する2ヶ月前、
私と明英君は、いつものように、二人で話していた。
他の人には、自然と気を使ってしまう明英君だけど、
私には、ちっともそんなことはなく、あんたねぇ、と言って相変わらずのにくまれ口を叩いてくる。
明英君と冗談を言い合いながら、私は、そっか、もうすぐ卒業するんだなと、実感する。
もう、一緒にはいられない、進路も別々なんだ、
こんな風に話せることも、明英君と、いられることも、あとちょっとなんだ。
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