我等がへっぽこ応援団長<後編>
応援団長は、一番上のトップだから、みんなの分まで頑張らないといけない。
応援団の練習とは別に、個別の練習が放課後あるように、なった。
姿勢とか、歩き方とか、立ちふる舞いが人より苦手な私は、その分時間がかかった。
先生達は、あんたダメねぇと、苦笑しながらも、毎日会議があるまで付き合ってくれた。
だけど、私は相変わらず、一向に上達しないままだった。
M先生という先生がいた。
髪の毛が赤くて、大きな身体をしたM先生の外見は、まるで熊を思わせた。
だけど、同時に、とても優しくて、自分の失恋話を面白おかしく話すM先生は、
みんなに「M先生、M先生」と慕われていた。
そんなM先生は、大の行事好きだった。
Special Need Schoolの生徒達が、何か行事が近づいてワクワクすると、
決まってM先生もワクワクして、嬉しそうにするのだった。
運動会の時は、応援団に入って話を進めたり、
また学習発表会の時は、シビアな劇の監督をしたりと大忙しだった。
あいにく、M先生が監督した、劇は評判が悪かった。
話の内容が難しいとか、つまらないとか、小学部の劇の方がいいと。
私は見て、スゴイと思った。だけど、難しいと思った。
ただ、それだけF先生の気合が入ってたことを、去年の私は忘れていたような気がする。
F先生の特訓は、厳しかった。
他の先生が会議に行っても、F先生だけ残ってた時があった。
運動会まであと何週間、あと何日となっても、私は相変わらずだった。
覚えようとしても、頭に入らない。
姿勢を正しても、違うと言われる。
悔しかった。恥かしかった。
学校にこっそり早く来て、後輩に見てもらいながら練習もした。
だけど、いくらやっても、上達はしなかった。
そしてある日、我慢の限界がきてしまった。
しびれを切らしたF先生が、指揮棒で背中を叩いた。
私は、生まれて初めて、学校の先生に叩かれた。叩かれた背中は痛かった。
目から涙が出た。涙はぽろぽろと、出てきた。目を瞑っても出てきた。
私は叫びながら、教室を出た。
昼休みで、和気あいあいとしていた友達や、先生は私を見てびっくりした。
「に、に、二村さん、どうしたの!?」マジメ君が声をかけた。
「しーっ!」眼鏡をかけた和美ちゃんが、そう制して車椅子をこぎながら私に近づく。
明英が、わんわんと泣く、私の頭を撫でながら「大丈夫、大丈夫」と言った。
泣いて、泣いて、泣きつづけた私は、これからどうしようと思った。
本番まで、あと何日。代理なんて、今更たてられない。
だけど、それ以上に、練習はきつかった。
ある先生が、後で言った。
「M先生はね、あんたに期待してたんだよ。
『沙誉ちゃんは、やれば出来る。伸びる。可能性があると思った』って」
その言葉を聞いて、私は、はっとした。
今まで、あれほど厳しかったM先生の練習が、
どうしてM先生が厳しかったのか、その時初めて、わかったような気がした。
残された時間は少なかった。
休んでいた練習を再開して、練習をするようになった。
だけど、時間は、もう無かった。
私は、不安いっぱいの気持ちのまま、当日を迎えた。
行事のある日の前は、いつもそう。
緊張して、ちっとも寝れなかったはずなのに、身体は元気だった。
やっぱり、大好きな運動会だからなのか。
ココロは不安でいっぱいのはずなのに、楽しかった。
和美ちゃんが誇らしそうに車椅子をこいで、明英が順調に点をいれていく。
小学部、中学部の後輩も頑張ってて、私は旗を振りながら、声援を送った。
だけど、時間はやってくる。
学生服を渡されて、更衣室に入って着替えた。
真っ黒な学生服。これを着るのも、今日で最後。
頑張ろう。
そして応援合戦。
掛け声と共に、場内に応援団一同突入。
ついにとうとう、始まった。
337拍子、用意始め!と言った後、後ろでマジメ君が太鼓を叩く音がした。
コンバットマーチ!と言った後、オーっという声がした。
応援歌!と言ったら、スピーカーから流れる大音量の曲が流れた。
真っ白だった。
目の前にあるはずの物なんて見えなくて、
ひたすら大きな声を叫んで、叫んでいた。
とにかく早く、時間が流れてほしかった。
「赤組応援団、退場!」と言った。
行く時よりも、少し早めに退場した。後輩が旗を振りながら後ろからついてくる。
マジメ君の太鼓を叩く音が、ずっと後ろから聞こえてきた。
終わった。
これで、終わったんだ。
みんなの、お疲れ様という声に迎えられながら、自分の席についた。
学生服を脱いで、更衣室に行こうとする前、M先生が、私に声をかけた。
「沙誉ちゃん、おつかれさま」
先生の顔は笑っていた。
私の顔も、笑っていた。
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