記念樹


新年入って、もう2月、Special Need School(養護学校)の生活は、相変わらずだった。
明英君は、毎年どおり、女の子からたくさんチョコをもらってたし、
マサヤンはマサヤンで、相変わらずポケモン、ピカチュウ!と笑って言ってた。
マジメ君といえば、これも毎年、いつものことなんだけど、
大好きな和美ちゃんからチョコを貰って大喜びしていた。
卒業する間近とは思えないほど、本当に、私のクラスは、相変わらずな雰囲気が流れていた。

これで、いいのかな。
このまま卒業しても、いいのかな。後悔しないのかな。

私は、日が一日一日、たつにつれて、そう思うようになってきた。

小学校2年生の時、私は通っていた学校を退学した。
Special Need Schoolの人達は、そんな私を、とってもとっても、あたたかく迎えてくれた。
私がいじめて、他の学校に転校させてしまった男の子でさえも、喜んでくれた。

漢字どころか、ひらがなの、あ、という文字すら読めなかった私が、
1+1=2の計算ができなかった私が、Special Need Schoolに来てから、こんなに変わった。
そしてその背景には、たくさんの先生達の努力と、友達のあたたかい心があった。

どうしても、自分なりの恩返しがしたかった私は、
ある日、学校に帰って来るなり、急いで走って、近くの植木屋さんに行った。

あった、これだ。

私の目には、桜の木の苗が、並んでいた。
しだれ桜と、八重桜。苗だから小さいけど、それでも、他の花の苗に比べたら、ずっと大きい。
それを見て私は、にっこりと微笑んだ。
Special Need Schoolに咲く桜の花は、とってもキレイだった。
だけど、だんだん、やれ工事だ、やれ駐車場のスペースを広げるんだ、
と言って切るうちに、私が高校2年生になった時は、すっかり桜の木は、少なくなってしまった。

そして次の朝、顔に満面の笑みを浮かべながら
大きな桜の木の苗を2本、天井にぶつけながら持ってきた私を、
山田先生や春谷先生は、びっくりした顔で見た。

「あんた、これ何?」
「桜です。記念樹なんです」
「記念樹?それわかったんだけど、コレ、どうするん?」

だけど、引きさがろうとしない私を見て、山田先生はしょうがないわねぇ
と言いながら、教頭先生にかけあってくれた。
話を聞いた教頭先生は、学校の中庭になら植えてもいいよと、と言ってくれたらしい。
数日後、私は特別授業の時間に、他の先生達と大きな大きな、穴を掘った。
高等部どころか、他の先生達も巻き込んで、えんやこらと、みんなで穴を掘って、桜の苗を植えた。

そしてSpecial Need Schoolを卒業した後、
久しぶりに学校に来た私に、沙誉ちゃん、桜ね、ちっちゃいけど花をつけたんよ、
と教えてくれた先生がいた。迷わず見に行った私の目には、あの時の桜の枝が見えた。

本当だ、とっても小さいけど、花がちょこんと、ある。咲いてるんだ。
私は、にっこりと、あの時を思い出しながら、また笑った。



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