先生が泣いた
私の学校は普通、1年生が入ってくると2年、3年と先輩達が教室に遊びにやってくる。
そうしてみんな友達になっていくんだけど,私が高1の時は違った。
毎日のように1年生の教室から誰かの叫び声や悲鳴が聞こえてくるから、
みんな恐がって私達の教室に入ろうとせず遠くから覗いてた。
誰も私達のクラスには遊びにこようとしなかった。
1年生のみんなも、
自分の教室が好きじゃなかったから、先生も友達も、
みんな休み時間になると他の教室に行ったり廊下に出ていた。
話すことがないから
昼食の時間も、みんな黙って食べていた。
私の学校はSpecial Need school(養護学校)だから、他の学校と幾つか違うトコロがある。
その中に、昼食のことも含まれている。
普通の学校は大抵学食か自分で弁当を用意するのに対して
私の学校は小学校の延長なのか、給食になっていた。
みんなでごはんを持ってきて、
机を動かして一つの大きな大きな輪にした。
給食を用意するまではみんな色々喋ってたのに。
席に座って、さぁ食べようとなると
みんな急に貝殻のようになって口を閉じてしまう。
よく、山田先生が
「あんた達の教室はお通夜があってるんじゃないだろうね」
と寂しそうに笑っていた。
お通夜なんて、とんでもないけれど、それぐらい給食の時間は静かだった。
目は食べ物の方を向いて、口は常に何かをいれて動かしている。
口に何かをいれてなくても、みんな黙って食べていた。
榊原先生は、みんなと何か喋ろうと気を使っていってたけど、
笑い声が聞こえるのは一瞬だけど、その後、教室の中は静まり返ってしまう。
みんな、楽しく給食を食べたかった。
ただ、それだけだったのに。
私は段々、みんなが黙って給食を食べるのは先生に問題があると思うようになった。
先生さえかえれば、何もかも行くんじゃないかと。
今考えると、とっても馬鹿馬鹿しいことだった。
だけど、その時の私はとってもスゴイことを考えたと思った。
早速、その話を和美ちゃんに喋ってみたら、「いいねいいね、それいいね!」と言ってくれた。
マジメ君にも話したら「いいねいいね」と返ってきた。
みんな、みんな、いいねと言っていた。
ただ一人をのぞいて。
榊原先生に話してみたら、少しだけ悲しそうな顔をした。
だけど、みんながそれでいいなら、いいんじゃない。といってくれた。
何日かして、クラス会をすることになった。
教室の中にうわずった私の声が響いた。
「昼食時間があるんですけど、その日によって先生達をかえればいいと思うんです」
そうだ、そうだという声が聞こえたような気がした。
「賛成の人は手を挙げてください」
クラスのほとんどの人が
すぐに手を挙げたり、迷いながらも賛成の方に手を挙げた。
だけど、たった一人だけ手を挙げなかった。
マサやンだった。
「どうして手を挙げないんですか」と私が聞くと、
それに誘われたように、どうしてどうしてと言い出した。
その間、マサヤンはただ顔をうつむいてた。
そんなマサヤンを、みんなは説得しようとした。
なんで手を挙げないの
手を挙げようよ、
マサヤン。。。。。。。。。。。
それまで
顔を机の方にたれていたマサヤンは、目を私の方へやった。
私をじっと睨み、そして椅子から立ち上がって大声で叫んだ。
「お前殺すっ!ぶっ殺す!!!!」
顔が蒼白になった。
たっているはずのひざが震え、がくがくした。
机が音をたてて倒れ、マサヤンがこっちに向かってこようとするのを
先生やみんなが必死に押さえつけようとした。
だけど、とても叶わない。
「お前、死ねーッ。お前等死ねよ!!」
応援に来た先生達におさえつけられ、マサヤンは泣きながら外に出た。
そして、翌日。
マサヤンの突然の騒動にびっくりした私達は
教室で口々に、マサヤン恐いね、アイツ今日もくるのかなと言っていた。
それを聞いた榊原先生は
教室の戸を閉めずに、一言、言った。
「みなさん、マサヤン君をそんな風に言わないでください」
今までマサヤンの悪口を言っていたみんなが、いっせいに先生の方に向いた。
先生はとても悲しそうな顔をして、うつむきながら言った。
「人がかわっても、自分達がかわらないと何もかわらないんだと、
マサヤン君は泣きながら言ったんです。どうして、みんなそれがわからないのかって」
自分の中の何かが崩れた。
どうして自分は今までそのことに気がつかなかったんだろう。
先生の目から、涙がこぼれた。
「私だって、楽しく給食を食べたいんです」
両手を顔の方へ持って行き、先生は声をあげずに泣いた。
誰も、そのことに気づかなかった。
一番大切なこと。
マサヤンだけ気がついてた。
その日もマサヤンは学校にきた。
少し遅れながらも、いつもとかわらない嬉しそうな顔で。
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