落ちた


「沙誉、病院に行って、暫く入院しよう」


お母さんは、思いつめた顔をして、一言、そう言った。

「沙誉、もういいんだよ。もういいんだよ。もう、頑張らなくていいんだよ」
泣きながらそう言った、お母さんの顔は、とっても悲しそうだった。

夏休みを終わる直前、私は、校内推薦のテストがあることを、聞いた。
そして、そのテストがある日を聞いた私は、びっくりしてしまった。
お母さんは、私が毎日予備校に行って勉強するものの、
みんなについていけてないことに、気づいていた。
だけど、私があまりにも、頑張るから、周りが見えてなかったから、
お母さんは、どんなに言いたくても、今まで言えなかった。

結局、テストがある日を知らされたのは、1週間か2週間前になってしまった。

そして、私は、まだ大丈夫だからと怒鳴って、勉強をしに、自分の部屋に行く。
部屋に入って、参考書を見るものの、意味がわからずに呆然とする。
まずは単語を覚えようとして、ノートに練習するけれど、覚えられない。
苛々して、パソコンの画面をつけて、友達とメールしたり、チャットする。
その頃、私は、完全なネット中毒になっていた。

朝勉強して、学校に行って勉強して、夜、パソコンで遊んで、徹夜して勉強する。

どれぐらい勉強をしたのか、わからない。
だけど、その中で私が覚えられた単語は、たったの2つか、3つだけだった。
いつになったら、私はひとつの単語を、同じ単語を、覚えられるんだろう。

「あんた、もうやめなよ。勉強しなくていいよ」
毎日、狂ったように、顔をゆがめながら勉強する私に、明英はそう言った。
大丈夫だからと、私は明英の顔を見ずに、そう言って、参考書を見る。
明英の悲しそうな顔が、入院しようと言ったお母さんの顔とだぶって見えた。

評価値の3.5はクリアーしてたけど、欠席や遅刻がとても多かった私は、
他に行きたい人はいなかったものの、テストを受けることになった。

そうして迎えた、校内推薦テストの日がやってきた。
時間が来て、私はいつもの教室とは違う教室に通される。
小さくて、狭くて、暗い部屋だけど、慣れ親しんだ教室には、違いないんだ。

もう大丈夫だから、緊張しなくていいから。
あれだかけ勉強したんだから、少しは出来るはずだよと、自分に言い聞かせる。

最初は、国語だった。
古文とか、漢文とか見るけれど、頭の悪い私には理解できない。
悔しくて、悔しくて、泣きたくなるけど、とにかく書くんだと、適当に答えを選んで記入する。
記述式は、全くできなかった。

休憩して、次に英語のテストを受ける私は、どうしようもなく不安だった。
国語でもない、小論文でもない、一番勉強して、一番出来なかった科目が、英語だった。
深呼吸をして、大丈夫だよと、大丈夫なんだよと、落ちつこうとするけれど、出来ない。
ドキ、ドキ、ドキと、心臓がいつもより、早くうつ音が、聞こえるようだった。

時間が来た。
先生から問題をもらった私は、愕然とした。
真っ白な、大きい紙に、いっぱい英語が書いている。
英語は英文になって、ずらずらって書いてるけど、
私には、たったのひとつの言葉すら、わからない。

頭が真っ白になった。

私の目から、涙が出た。
問題を見ても、答えが出ずに、涙しか出ない私は、
どうしようもなく悔しくて、悲しくて、そのまま、声をあげて泣き続けた。

「あなたは、本当に頑張った。頭の病気が無かったら、東大だって、行けたと思う。」
そう言いながら、話すお母さんの言葉を、私は、泣きながら思い出していた。

その後、私にもう1回、チャンスが与えられた。
同じ教科で、全く別の問題に挑んだ私は、その時も、やっぱり出来なかった。

私の、長い夏が、終わった。


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