卒業

卒業式まで、後10分。
椅子にこしかけたまま、私は時間がくるのを静かに待った。

今日でとうとう、水ちゃんが卒業する。

私が高校1年生の時、水ちゃんは高校3年生だった。
水ちゃんはどちらかというと、勉強よりも恋愛や趣味の方が大好きな子だった。
だから、いつも水ちゃんは誰かを好きになっていたし、
カラオケに行ったり、友達と楽しそうに喋っていた。
そんな子だった。

病院の屋上にいた頃、
私はよく水ちゃんと一緒に進路について話していた。

「水ちゃん、進路どうするの?」
「わかんない」
彼女の答えは、いつもこうだった。

水ちゃんには、夢があった。
動物の看護婦さんだった。
水ちゃんは動物が大好きで、捨てられた猫を飼って育てていた。
だから、水ちゃんの家にはいつも猫が何匹もいて、餌代がばかにならないと言っていた。

「じゃぁ、なんで動物の看護婦さんになれる学校に行かないの?」

今から思えば、とっても残酷な質問だったと思う。

「お金がないから」

その学校は、日本に1つか2つしかないらしい。
どっちも、遠く遠く離れてて、そこの学校に行くためには
まず、とっても高い交通費と、そこに住むための色々なお金がいっぱいいっぱい、必要だった。

別に働きたくもないし、何処か専門学校にも行きたくない。
結局、水ちゃんは進路先が何も決まらずに卒業していってしまった。

「卒業生、入場」

教頭先生の誇らしげな声が聞こえた。

音楽が、かかった。

胸に、花のブローチをつけた水ちゃんが歩いてきた。
私を見る訳でもないし、かといったら目の前の担任の先生も見てなかった。
水ちゃんは頬を染めながら、ずっとずっと前を歩いていた。

「着席」

先生が合図して、座った。

式が始まった。

校長先生から、賞状を貰う水ちゃんの姿が見えた。
とっても近くにいるはずなのに、何処かとっても遠くから見てるような気がする。
私は決して、あの中には入れない。
今、水ちゃんがいる場所はとても特別なんだ。

誰かのすすり声が聞こえた。
泣いてるんだ。

後ろを見ると、先生が泣いていた。
頬を濡らしながら、ハンカチで涙をふいていた。

送辞を読みながら、過去のことを思い出す。

初めて会ったのは、私が小学3年で水ちゃんが小学5年の時だった。
水ちゃんは小学生なのに、とっても礼儀正しくて、色んなトコロに連れて行ってくれた。
たった3つ離れてるだけなのに、私にとっては水ちゃんがとっても「お姉さん」に見えた。
そして中学1年の頃、私は木村さんと水ちゃんのことで、初めて人間関係に悩んだ。
その後、少したってから水ちゃんと仲直りをした。
それから今まで、私はずっと水ちゃんと友達だった。

目から涙が流れた。

私は水ちゃんのことが大好きだった。
ただ静かに泣いてた高倉さんと同じように、私も水ちゃんのことが好きだった。

拍手をする音が聞こえて、現実に戻る。
前を見ると、担任の先生につれられた水ちゃんの姿が見えた。

水ちゃん、卒業おめでとう。


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