And it is also future all the time.<前編>


眠れなくて、身体がうずうずして、早朝、私はいつもより目がさめた。

すっかりおなじみの、着なれたブレザーを着て、
いつもと同じ道を、とぼとぼと歩く。
学校に入ると、日の丸が見えた。

卒業式。

小学部から、中学部、高等部と、
ゆっくり歩きながら、私は、自分が過ごした教室を見て周った。
図書室も、理科室も、養訓室も。
みんなみんな、9年前と変わらない。

中庭に行って、ブランコに足をかけた。
小学部や、中学部の時、大好きでいつも遊んでたブランコ。
一人できゃっきゃと、はしゃぎながらこいでたら、先生が手をふった。
私も、笑って、手をふりかえした。

教室に帰ると、みんなが来ていた。

いつもと変わらない、話をして、騒いで、
今日でとうとう、Special Need Schoolを卒業するのに、
私のクラスには、そんな空気はちっともなかった。

時間が来て、式場に移動する。
もう時間だという時、誰かが言った。

「みんな、聞いて!私、施設への入所が決まったの」

僕も、僕も、という声が聞こえた。
施設へ入れるかどうかは、卒業するぎりぎりになってからわかるらしい。
あなたは入れますよ、と連絡が来たのは、ちょうどこの日みたいで、
私達は、勧声をあげて、みんなで、おめでとう、よかったねと、笑いあった。

そしてとうとう、時間が来た。

「卒業生、入場」

音楽がなって、みんなで、進んで、前の席に座った。
椅子が、ずっしりと、重たく感じる。
あぁ、今日で、私は卒業するんだ。

胸が、じーんっとなって、私は、まだまだ全然、
泣くトコロじゃないのに、最初っから最後まで泣いてしまう。

泣きながら、昔のことを、いっぱい、いっぱい思い出していた。

初めてこの学校に来た時のこと、自分がいじめた男の子のこと、
アキちゃんのこと、マサヤンのこと、優ちゃんとのこと、
とっても大事な試験に落ちたこと、思い出せば、思い出すほど
まるで、走馬灯のように、ぐるぐるとよみがえる。

だけど、今日で卒業するんだ。

おわかれの言葉と書かれた
小さな小さな、黄色い小冊子をぎゅって握りしめて、
私はぽたぽたと、目から涙を落とした。

贈る言葉とか、あって、後輩のみんなの声は、震えていた子もいたし、
頑張って一言一言、カタコトのように言う子もいたし、明るく元気に言う子もいた。
私には、そのどれもが嬉しくて、たまらない。

「お別れの言葉」

マジメ君が、後輩のみんなにこたえるように言った。

「吹く風に、春の暖かさを感じる今日、
僕たちは、たくさんの思い出を胸に企救養護学校を旅立ちます」

座って、立ちあがり、私は言った。

「暖かな春の日、小さな学校の玄関で現在の友人と先生に迎えられ、
十一年間ずっと通ってきました。今日、卒業することが、今でも信じられません。
小学生の時は楽しい毎日でしたが時がたつにつれ、
友人の死や人間関係に悩むようになりました。
そんな時、私のそばにはいつも先生がいてくれました。
中学三年生の卒業式で言った『私はこれからも多くの人に出会い支えられるでしょう』
そのことばを今思い出しています。」

涙で、手に持っていた小冊子に書かれた言葉が、かすんでみえた。
泣きながら、私は続けて言った。

「家族、友人、そして先生方、ありがとうございます。
卒業しても、企救養護学校の卒業生であることを誇りに、頑張りたいと思っています」

マジメ君が立ちあがって言った。

「僕は、三年前、『とうとう高校生になったぞ。これからも頑張るぞ。』
と思いました。一番頑張ったことは、パン屋さんでの現場実習です。
作業は、パンの生地をこねたり、配達へ行ったり、とても大変でした。
家に帰ると疲れて、すぐに横になっていました。しかし、充実した2週間でした。
楽しい毎日でした。卒業後、パン屋さんで働きます。
僕は自分で決めた道を頑張って歩んでいきます」

マサヤンも立ちあがって言う。
震えながら、マサヤンは言った。

「僕は、ある偶然からこの企救養護学校に入学することになりました。
三年間で、僕は大きく成長できたと思います。最初の頃はけんかばかりしていました。
迷惑をかけた先生方すみませんでした。
楽しかったことは、昼休みに一年生としたカードゲームです。
結構強くて、いい対戦相手でした。
企救養護学校の友達、先生方、本当にありがとうございました」

そして明英君が、車椅子に座ったまま、言った。

「僕は、 十二年間この企救養護学校に通い続けました。
今日で終わると思うと、とても不思議な気分です。
十二年間の中で高等部の三年間は衝撃的でした。
四人の仲間が増え、九人になり、僕にとっては大人数に感じました。
しかし、初めは意見の食い違いも多く大変でした。
しかし二年生、三年生になるにつれお互いの気持ちを考えられるようになりました。
僕はこの九人の一人だったことをとても嬉しく思います。
これからも、今の自分を、この学校のことを、忘れずに頑張っていきたいと思います」

泣きながら、私は叫ぶように、大きく大きく言う。

「三年前の入学式の日より、一人ひとりが毎日少しずつ成長してきました。
これも私たち九名を「大切な生徒」として導いてくださった先生方や、
ともに助けあった在校生のみなさんのおかげだと思っています。
私たちは、これからの人生を一歩ずつ確実に歩んでいきます。
平成十四年三月六日、第二十五回」

最後の言葉はみんなで言った。

「卒業生一同」


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