すれ違い
学校には、制服がなかった。
理由は、お金がかかるからだとか、車椅子にのっていて着ることが難しい子が多かったからだそうだ。
だからといって、なんでも好きな服装をしていいかと問われたら、決してそうではなかった。
普段は、制服を着用(一応学校のだったら何処学校の制服でもいい)、
それが難しい人は目立たない服をきていた。
私は、学校の制服を着たかった。
どんなに高くても、どんなに小さくても、あったら迷わず買っていたと思う。
大好きな学校を象徴するモノの一つだから。
だけど、なかったから近くの制服の販売店にいって、近くの中学校の制服を母と一緒に買った。
ブレザー、少し小さめのリボン、緑と黄色で調和されたチェックのスカート。
どれも、初めて見て着るものばかりだ。
少し袖を通すと、ぶかぶかで大きかった。
コレからいく学部。
コレから毎日着る制服。
新しい友人達。
4月。
スクール・バスがくるのを待ちながら
去年のことを思い出す。
大丈夫だ、大丈夫。
もうあんなことはない。
新しい環境になったから、きっと大丈夫だ。
何度もそう自分に言い聞かすけど、不安が胸をよぎる。
期待と不安が入り混じった、私のココロ。
信号の向こうから、お目当てのバスがやってきた。
「おはようございまーっす!」
この台詞を言うのも、すごく久しぶりで気分がいい。
「さぁ、早くあがってあがって」
バスの乗務員さんにせかされて、自分の座席に座ろうとするけど、わからない。
あそこだよ、といわれ目をやると、隣にセーラー服のおんなのコが手を振っていた。
「沙誉ちゃーん!」
「水ちゃん?」
「お久しぶりー!」
小学部の友人との再会だ。
話に花が咲いた。
「沙誉ちゃん、大人っぽいじゃん、似合ってるよ♪」
「そうかなぁ。。。。ありがとう」
今までの私を知っている人にそう言われると、なんだか照れくさい。
「いよいよ沙誉ちゃんも中学生なんだね」
「うん、あ、中学部ってどんな感じ?楽しい?」
「全然」
「へ。。?そうなの?」
「うん、もう超サイテーっていう感じ。最悪な奴がいるんだ」
今まで笑ってた顔が、急に凍りつく。
去年のことが脳裏に浮かび、おなかが痛くなる。
「木村由美子っていうんだけどね。
頭はいいんだけど冷たいし、性格悪いし、八方美人な奴なんだ。
沙誉ちゃん、あんな奴には絶対にかかわらないほうがいいよ。」
私の頭の中で
木村由美子さんっていう人に対して
興味と恐怖と不安のココロがミックスされた。
また
去年と同じようになるの?
それはいやだ。
じゃぁ、なんとかしないと。
「。。。わかった、じゃぁ、私、その木村っていう人を観察するよ」
そう言うと、彼女は窓の方に目を向けて「お願いね」と暗い顔で言った。
その人は
とてもあたたかい人だった。
彼女を探ろうとしたら
いつのまにか彼女のペースにいる自分がいた。
最初あんなにあった
恐怖や不安のココロは
いつのまにか、羨望や好感、信頼に変わっていった。
それを、水ちゃんは察して
学校帰りのスクール・バスの時、
木村さんの悪口を言いながら、ちらっと私の方を見て
「最近、沙誉ちゃんって木村となかがいいよね」
冷や汗が出た。
悟られないように、
「そんなことないよ、相手を観察してるからだよ、あれはただの演技なんだよ」
「ふぅん」
そう言った後、彼女はまた目を窓の方に移して、
私がバス停に降りるまで、いつものように学校や木村さんへの不満や悪口を永遠と吐いていた。
家に帰ってから、どっとつかれが出て、その場に倒れこむ。
不意に眠気を覚えて、目を閉じる。
このまま、永遠に寝たかった。
永遠に、寝れるものなら。
コレはいつまで続くんだろう
私はいつまで、演技をしないといけないんだろう
いつまで、いつまでこんなことをしないといけないのだろう。。
友人に
相談したかった。
幼馴染で、小学部の時から交換日記をしていた。
その頃も、交換日記をやってて、二人で一つの小説に書いてた。
だから、日記に書こうと、相談しようとしたけど、やめた。
日記まで、それにおかされたくなかったから。
誰に、相談していいのかわからなかった。
水ちゃんの木村さんに対する気持ちは、
次第に被害妄想になって、一層悪口やグチも激しくなった。
木村は兵隊で、友人は兵士。沙誉ちゃんも一緒だと。
そして、私は、また同じことを始めた。
ぷちん。
また、髪の毛が抜ける。
久しぶり感触だった。
ぷちん、ぷちん、ぷちん。。。。
時が過ぎて、季節が変わっても
私の周りだけは何も変わらなかった。
それどころか、私の周りだけ逆方向を向いて悪化していくような感じさえ覚えた。
ある日、
水ちゃんは、バスの中で、こう言った。
「今日さ、説教された」
「そうなの?」
「私がさ、木村をいじめてるって。木村が先生にいってから、説教されたんだ。」
どう言っていいのかわからない。
「木村が挨拶をいってもマトモに返さない、無視するからってさ」
確かに、水ちゃんが木村さんに挨拶したのを見たことがない。
だけど、木村さんが水ちゃんに挨拶したのを、私は見たことがなかった。
お互いに、相手を無視しようとしていた。
そして、3月。決して忘れられないことが起きた。
水ちゃんの被害妄想は頂点に達していた。
混乱した。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
「じゃぁさ、んー。。。私が明英くんと付き合って、木村さんを混乱させるっていうのは?」
こんなことを、言った。
私が、明英くんと付き合って(わざと)そして、木村さんを混乱させる。
もう、その頃には私も狂っていたのかもしれない。
水ちゃんは興味がないのか、勝手にすればとだけ、一言言った。
その夜
いやがる明英くんを電話で数十分間いってお願いした。
その翌日か何日だったと思う。
休み時間に教室の中で、木村さんと友人に「付き合ったよ」と二人で言った。
友人さんは、目が飛び出したような顔をして、木村さんは本当に嬉しそうな顔をした。
彼女は、明英くんに「沙誉ちゃんを泣かせたらダメだよ!」と笑いながら肩を叩くふりをした。
作戦は大成功に終わった、はずだった。
だけど
言って、彼女達が教室から出ていった後、
明英くんと一緒に、どうしようって言っていた。
二人とも、多分無意識に気づいていたと思う。
あんなこと、何の意味も持たないって。
罪悪感が、ココロを襲う。
悩んでも、いくら後悔しても、決して元には戻らない。
私が大好きな人に嘘をついて、彼女達を騙したことは。
数日後
帰りのバスの時間に、それを水ちゃんにいったら
「知らないよ。自分関係ないし」と水ちゃんは一蹴した。
目の前が、真っ暗になった。
そう、彼女の言うとおり。
これは私が勝手にやったことであって、
彼女には関係ない。
だけど
そうさせたのは、水ちゃんじゃないか。
だけど
そのおかげで、ようやく決心がついた。
翌日、
迎えにきたスクール・バスに乗って、自分の席に座るなり、
私は彼女にこう宣言した。
「これからは、私に一切話し掛けないで」
彼女は、本当にびっくりした顔で、私を見ていた。
そして、一瞬悲しそうな目をして、すぐに無表情な顔に戻った。
私は、知っていた。
その時の彼女が、頼れるものは自分しかいないと。
だから、あんなにグチや悪口を通して、自分をさらけだしたのだと。
だけど
中学1年の時の私には、あまりにもそれは大きすぎた。
あの後
彼女は、本当に話し掛けなくなった。
誰にも頼らずに。
中学生の頃のアルバムをめくってみる。
見ていくと1年の時、2年3年のみんなと一緒に、卒業する前に撮った写真が見つかった。
写真の中央に
嬉しそうに笑っている木村さんの姿が見え、その横に私が指でピースしている。
前の方で明英くんは、振り向いて笑っている。
友人さんはストレッチャーに寝ながら、はにかんでいる。
その、一番後ろで、水ちゃんは、ぽつんと立って、悲しそうな顔で正面を向いていた。
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