カウントダウン


「卒業まで、あと○日」

クラスのみんなで、作ったカウントダウンの紙。
いちにちたったら、いちまい、紙をとる。
あんなに、あつかったカウントダウンの紙は、とうとう、数えるほどになってしまった。

一人、5枚ずつぐらい、それぞれ好きなように、あと○日と、大きな字で書いた。

ポケモン好きなマサヤンは、ピカチュウ、イカチュウと言いながら、楽しそうに書いていた。
もうその頃には、すっかりマサヤンはクラスに馴染めて、
みんなと毎日、おはよう、おはよう、と言えるようになっていた。
だけど、みんなカウントダウンの紙を書いてたのに、
ただ一人だけ、クラスの中で、それを書きたがらない人がいた。マジメ君だった。

マジメ君は、私と同じ、病気がてんかんの男の子だった。
行きたい大学に、行きたいと思って、たくさん勉強をした私だけど、
覚えた言葉は、何千個あるうちの、たったの、2つか、3つしかなかった。
だけど、マジメ君は、私なんかよりも、もっとひどかった。

多分、私がSpecial Ned Schoolにいた時、
いちばん、誰よりも勉強したのは、マジメ君だったんじゃないかなぁ、と思う。

マジメ君は、とっても正義感が強くて、純粋に物事を受けとめる人だった。
私には、マジメなんていう言葉は、よくわからないんだけど、
マジメっていう言葉は、多分、マジメ君のためにあるんだと思った。

毎学期、期末テストが近づくと、必ずマジメ君は、
「あぁ、もう、僕は」と言って、しょんぼりした顔を見せ、
そして決まってノイローゼになり、先生やみんなに八当たりをした。
だけど、それぐらいマジメ君は、テスト勉強をしているし、頑張っていた。

こんなことがあった。

あれは、私が中学3年生の時だったと思う。
期末テストの時間、急に、担任の先生が怒り出して、
マジメ、ちょっとこっちへ来い!と言って、
何とマジメ君を、担任の先生は教室から連れ出してしまった。

もちろん、試験中だから、顔は下を向いて、問題を解かないといけないんだけど、
あまりにの突然の出来事だったから、みんな、びっくりして騒然としてしまった。

最初は、先生の怒った声が、いっぱいいっぱい、聞こえてきた。
その後、急に静かになって、やがて、マジメ君の泣き声が耳に入った。
はっとする。そっか、マジメ君は、カンニングをしたんだ。

テストがある何ヶ月も前から、一生懸命に勉強をして、
家に帰ってから寝るまで勉強をして、徹夜して勉強しても、
覚えられないマジメ君は、先生の話によると、こっそりカンニングをしたらしい。

マジメ君は、次の日、学校に来た時に、
お父さんに叩かれて、お母さんに泣かれたと、ぼそっと、小さな声で、そう言った。

私は、マジメ君の気持ちが、カンニングをした気持ちが、わかっていた。

覚え、られないんだよね。

みんなは、勉強したら、その分だけ、頭に入るんだけど、
勉強しても、出来る人と、出来ない人がいるんだよね。
いくら泣いても、怒っても、覚えられないんだよね。
情けないよね、悔しいよね、思いっきり泣きたくなるよね。
だからさ、マジメ君、泣いていいよ、思いっきり泣いたっていいんだよ。

Special Need Schoolを卒業しても、他のみんなのように行き先が
あんまり無かったマジメ君は、とってもとっても、悩んでいた。

療育手帳とか、障害者手帳とか、そんなのを持ってたら
施設に行けたり、障害者の人達も働ける会社に行けるみたいだけど、
私とマジメ君は、持ってなかったから大変だった。

卒業しても、行き場所が、ないんだ。

マジメ君は、カウントダウンの紙を作るときも、おかまいなしに、
手を頭にあてて、どうしよう、どうしよう、と言っていた。

カウントダウン、マジメ君の頭の中は、それ所じゃなかった。

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