不登校
「カラオケに行こうよ」と誘う水ちゃんの誘いを断わって、
いつもより早く私は家に帰った。
家に帰って居間にあがると、どっと今までの疲れが押し寄せてきた。
疲れた。
ふすまの方へ身体をあずける。
段々起きているのが辛くなって寝ようとするけれど寝られない。
夕方になって、お母さんが台所で食事を作り始めた。
とんとんとん。。。。規則正しく包丁で野菜を切る音を聞きながら、
私は制服のまま眠りに落ちていった。
翌日になって起きた。
時計は9時を指していた。遅刻だ。
そのままリュックサックを背中に部屋から出ようとするけれど
数秒後、私は部屋に戻ってきた。
もう学校に行かなくてもいいんだ。
家での生活は、幸せだった。
好きな時間に起きて、好きな時間に寝た。
何かも、自由だった。
だけど、そんな生活は5日で飽きた。
学校に行きたい。
休む前まではあれほど嫌で嫌でたまらなかったのに。
どうして、こんな気持ちになるんだろう。
今の時間だと、1時間目だから数学があるはずだった。
数学かぁ。
中元先生は優しいから、あんまり授業を先に進めないだろうなぁ。
それとも、どんどん、どんどん先へ先へと進んでいるのかなぁ。
そんなことばかり、考えるようになった。
2週間たつと、学校に行きたくて行きたくてたまらなくなった。
榊原先生、明英君、和美ちゃん、
マジメ君、水ちゃん、桃ちゃん、一君、マサヤンの笑顔が頭に浮かんだ。
みんなに、会いたい。
それから私は生徒や先生、
みんなが帰ってから、1人で学校に行くようになった。
学校には鍵がかかってるから、中には入れない。
だから、いつも外から自分達や桃ちゃんの教室を覗いていた。
みんな元気かな、会いたいな、一緒に笑いたい。
何か、自分は学校に来たんだっていうメッセージを残したかった。
いつも来るたび、学校の花を手折って、玄関の横の大きな大きな桜の木のトコロに置いた。
そして家に帰った。
3週間たつと、心配した桃ちゃん一家が
今度近所の自衛隊でパレードをやるから、沙誉ちゃん一緒においでよと誘ってくれた。
そして、その日がやってきた。
「沙誉ちゃん」
約束していた場所に、桃ちゃんのおばちゃんが来た。
「桃はね、今車の中にいるから。車椅子に移動させるから、ちょっとまっててね」
言われて少しの間待つこと数分、桃ちゃんが車椅子をおばちゃんに押されながらきた。
「沙誉ちゃん、お久しぶり」
そう言った桃ちゃんの顔が、まぶしかった。
桃ちゃんのおばちゃんはポップコーンを買ってきた。
そして、しきりに「食べなよ」と私に勧めた。
「ごめん、おばちゃん、あんまりいらん」と言うと、おばちゃんは少しだけ顔をうつむいた。
ポップコーンを食べながら、桃ちゃんとおばちゃんが口を揃えて同じことを聞いた。
「沙誉ちゃん、ちゃんと食べてる?
「うん、食べてるよ」
「よかった」
ここまでは、桃ちゃんとおばちゃんが何を言いたいのかよくわからなかった。
桃ちゃんが控えめに言った。
「だって、沙誉ちゃん凄く痩せたからさ」
そうかな、と思いながらポップコーンを口に運んだ。
「今、体重何キロ?」
言われて軽く思い出す。
学校を休む前は55キロぐらいあった。
「うーん、46キロぐらいかなぁ」
桃ちゃんと、おばちゃんの目が点になった。
「え?そんなに!?」
その時の私はよくわからなかったけれど、
彼女達から見ると、その時の私は骨と皮だけしかなかったように見えたようだった。
今までの疲れとストレス、そして休んでからの不規則な生活リズムで、
55キロだった私の体重は46キロまで減ってしまった。
身長161cmの理想体重は58キロないとダメなのに。
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