全教科満点とりなさい
たし算と、ひき算が出来ない子供は、
小学校2年生で、通っていた学校を辞めさせられました。
学校を辞めた子供は、遠くにある養護学校に行きました。
車椅子に乗っている子供達は、何でこの子がここにいるんだろうと、
不思議そうな顔をしていました。
普通に歩けるし、喋れるし、走れることだって出来る。
子供にも、どうしてそこにいるのかが、わからなかったのです。
子供の病気は、てんかんと言って、重い重い頭の病気です。
てんかんには2種類あって、自分が傷付くモノと、
友達も、自分も、傷付けるモノがありました。
子供は、残念ながら、後者の方でした。
自分を傷付けてはいけません。痛いです。
だけど、周りの友達も、傷付けては、いけません。もっと痛いです。
誰も傷付けないように、子供は病気を止める、とっても強いお薬を飲みました。
そのお薬を飲むと、子供は副作用が出るようになりました。
勉強しても、頭に入らなくなったり、時々、目や耳が聞こえなくなりました。
普通の人よりも、いっぱいいっぱい、勉強をしなくてはなりません。
目や耳が聞こえなくなると、「無視」と言われました。
子供には、どうして自分が、沙誉ちゃんから無視されたと、言われてるのか、
ちっとも、わかりませんでした。
あれから、10年たちました。
たし算、ひき算が出来なくて
知的養護学校を勧められた子供は、あれから頑張りました。
100回、同じ単語を練習しても覚えない子供は、200回、300回と、勉強しました。
多分、普通の学校だったら、きっと、子供は今もどんべぇだったと思います。
だけど、たまたま運が良かったからなのか。それとも養護学校だったからなのか。
子供は、その学校でトップクラスの成績に入るようになりました。
だけど…….
目の前が、真っ暗になった。
お母さんから言われた言葉が、信じられなかった。
私は、予備校に行きたいから、お金を出してくれと頼んだ。
そうしたら、お母さんは、こう言った。
「それなら、今度の期末で全科目満点をとりなさい。
これが、条件。これがクリア出来ないと、予備校には行かせられない」
反論するよりも先に、私は涙がぽろぽろと、出た。
「そんなこと、出来るわけがないじゃん!」
今も、この成績を維持するだけで精一杯なのに、全教科満点だなんて。
そんなこと、出来るはずがなかった。
「沙誉」
お母さんは静かに言った。
「学校のテストは、簡単でしょう。あなたもよくわかってるでしょう。
だけど、それでも出来ないでしょう。大学に入るためのテストは、
それより、もっともっと、難しいんだよ。それが、あなたがクリアできるかどうか、
お母さん達はね、みたいの。安心させてください」
わかるはずの言葉が、わからない。
理解できるはずの文章が、理解できない。
全教科満点。全教科満点。全教科満点。
全教科満点をとらないと、予備校には行けない。
全教科とらないと、大学に行く切符が、手に入らない。
一言叫んで、私は、家を飛び出した。
外は、真っ暗だった。
涙が出た。ひとつ出ると、ふたつ出てくる。
ぽろぽろと、泣いた。涙はとまらなかった。鼻水もとまらなかった。
それからひたすら、私は、泣きつづけた。
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