全教科満点とりなさい<中編>
「全教科満点とらないとダメなの!?」
Special Need Schoolに転校して以来、ずっと友達の明英は
そう言って、びっくりした顔を私に見せた。
生徒会長をやってて、先生からも友達からも信頼される明英は、とっても頭が良かった。
1学期に1回しかない期末テストでは、他の誰よりも、ずっとずっと、良い点数をとっていた。
学校きっての秀才。そんな秀才ですら、全教科オール満点はとったことは、今までに1回も無かった。
私は、無言で頷いた。
「取れない、取れない、満点だなんて、絶対に無理に決まってる!」
先生達は、必死に励まそうとした。
たっくん、スマイルは「マジで!?」と、一言、言った。
マジメ君は、「満点取らないといけない」と、ぶつぶつと、独り言を言った。
和美ちゃんが後から、「マジメ君じゃないんだよ、マジメ君がじゃないんだよ」とフォローした。
何回聞いても、何十回頼んでも、条件が変わることはなかった。
どんなに泣き倒しても、「世の中そんなに甘くないのよ」と、お母さんは、言っただけだった。
私は、今度あるテストに向けて、勉強を始めた。
ノートに1回単語を書く。覚えない。
ノートに10回単語を書く。覚えられない。
ノートに100回、同じ単語を書いたら、頭の片隅に、やっと覚えたような気がした。
だけど、どんなに勉強しても、すぐ忘れてしまうのが現実だった。
毎晩、飲み慣れない、コーヒーを飲んで徹夜した。
必要以上に、砂糖やミルクが入ったコーヒーは、全然美味しくなかった。
苛々した。
勉強しながら、私は少し前のことを、思い出していた。
ずっと昔から行ってた病院で、白い部屋の中であったことを。
「沙誉ちゃん、もう薬は飲まなくていいよ」
脳波の紙を見ながら、やぎ先生はにっこり笑って、そう言った。
私は、言われたことがわからなくて、びっくりした。聞き間違えかと思った。
「うん、もう飲まなくていいんだよ。脳波もキレイだしね。
だから、のう飲まなくていいよ。とりあえず、様子を見ようか」
黒ぶちの眼鏡をかけた、やぎ先生の顔は、やっぱり嬉しそうで、にこにこしていた。
嬉しかった。
試験的だけど、薬を飲まなくていい。
これからは、副作用の心配なんてしなくていいし、覚えたいことが覚えられるんだ!
それが半年前のことだった。
だけど
現実は、そんなに甘く無かった。
薬の副作用は、すっかり身体に、染みついてしまった。
それは、私が勉強すればするほど、どんどんどんどん、悪化した。
そして迎えた期末テスト。
朝っぱらから、必死に教科書やプリントを見る私を、明英は心配そうに見た。
スマイルは諦めたのか、笑いながら教室の中をまわって、「ダメだよ」と言っていた。
教科書を見ながら、愕然とする。
何十回、何百回と見なれたはずの言葉は、やっぱり覚えてなかった。
始まってから、狂ったように、手にもつシャーペンを動かした。
何でもいい、とにかく、何か書くんだ。
覚えていようと、覚えていなくても、とにかく、何かを書くんだ。
書きながら、頭の中が真っ白になっていく。
テストが終わった時、私は灰になっていた。燃え尽きていた。
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