進路取捨選択<後編>


あれは、中学生のことだった。
私にとっては、珍しくオシャレな美容院に行って、散髪をしてもらった。
黒髪のおじちゃんが、髪の毛を切って、私は、話しながら笑ってた。
すると、突然おじちゃんは、「どうしたの、これ?」と言って、
私のはげている部分を、指であげて、鏡の前で見せる仕草をした。

今まで笑ってた、私の笑顔は、凍りついた。

それ以来、あの美容院には行ってない。

臨床心理医師になれなくて、保母さんにもなれない私は、
数年間、風俗に行って、貯金をして、大学に行こうと思うようになった。
妊娠したらどうしよう、友達や先生が知ったら、何て言うんだろう、
きっと、とっても悲しそうな顔をするだろうなと思うんだけど、
一番の悩みは、お客さんに、髪の毛を触られたら、どうしようっていうことだった。
他のことなら、まだ、我慢が出来るかもしれない。
だけど、あの場面を思い出しただけで、ぞっとする私は、途方にくれた。
私は、風俗さえも、行けないんだ。

なかなか進路が決まらなくて、荒れていた私を、助けてくれたのは、山田先生だった。
「あんた、どうするん?」選択国語の時間に、山田先生は言った。
「現代文の勉強しない、漢字の勉強しない、そんなんやったら、授業にならないよ」
先生の声は聞こえているけど、私には、とっても、とっても、
遠いい所から、先生が、言ってるように感じる。
全く反応を示さない、私を見て、山田先生は、一言、はぁ、と、溜息をついて言った。
「ほんなら、習字しようか?それなら、あんたも、たまには気分変わるやろ?」

ちょっとたってから、、山田先生は、片手に墨汁と、小さな半紙を、持ってきた。
山田先生は、小学生の時から習字を習ってて、大学にいる時は習字を勉強してたらしい。
そんな山田先生の書く字は、とっても綺麗で、すごく達筆な字で、私は大好きだった。
だけど、目の前には山田先生が書いた字なんてない、ただ、真っ白な半紙があるだけだ。

「何でもいいからさ、あんたの好きな、字を書いてごらんよ」
そう言われても、思いつくことばなんてない私は、ただ、ぼうっとする。
だけど、何か書かなければいけない、そう思って書いた文字は、創造という字だった。
何にも創造できない所か、夢さえもないのに、何で私は、こんな字を書いてるんだろう。
そう思った私は、悲しくて、情けない気持ちで、いっぱいになった。
その気持ちが伝わったのか、それとも、全然伝わってないのか、
次の瞬間、山田先生は、とっても大きな声を出して、私を叱った。

「あんた、何しとんねん!あんたがしっかりせんと、ダメなんやろ!?」

その言葉がきっかけで、迷いに迷って、人よりもたくさん悩んだ私は、
ようやく、ある私立の短大に、推薦入試を受けることを決めた。

あの時の私は、山田先生の一言に、助けられたような気が、してならない。


山田先生へ、ありがとう。


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