誰にもない、私だけの校章
それからの私は、私立の短大に行こうと、決めた。
最後の最後まで、やっぱり浪人しようか、それとも妥協しようかと悩んだけど、
Special Need Schoolを卒業した後の行き先が、決まるのは、
その頃の私にとっては、とっても、とっても、大きな、魅力だった。
それに、もう、どうでもいいやって、思っていたこともある。
デザインを勉強しようかと思ったけど、私は、物を作るのが下手だったから、やめた。
次に、福祉のことについて学ぼうと思ったけど、それも、やめた。
そしてとうとう、最後に残ったのは、ビジネスだった。
私は、ビジネスには、全く、興味が無かった。
お父さんや、お母さんが、会社をしているから、少しだけ知ってたけど、
食事の席まで、仕事の話を聞きながら育ってきた私は、
ビジネスという言葉を聞いただけで、うんざりしてしまう。
それだけでも嫌なのに、何が悲しくて、わざわざ大学にまで行って、
勉強しなくちゃ、いけないんだろう。
だけど、周りの人達は、私に一番合ってるのは、ビジネスだよ、と言った。
高校1年の時から、パソコンを使っていたせいか、
私のキーボードを打つタイピングの速度は、他の人よりも、速かったような気がする。
他の所から、来たPCの先生は、私がパソコンを使うのを見て、
「あなたなら、多分、ワープロ2級は余裕でとれる」と、言ったらしい。
それだけで、行く大学も、勉強することも決めちゃ行けないんだろうけど、
私は、それで決めてしまった。いい加減だった。
だけど、悪いことをすると、必ず誰かが見ているもので、
そんな私にも、やっぱり天罰が、おちた。
忘れもしない、推薦入試の日。
私は、その時になっても、ココロの中は、不安と、緊張と、後悔の気持ちで、いっぱいだった。
本当に、自分は、後悔していないのか、面接を合格できるのか、ちゃんと、言えるだろうか。
推薦入試に合格すると、もう、絶対、そこに入りますと、約束しなければならない。
それを前提とした、試験だった。私の顔に、うっすらと、汗がにじんだ。
周りの人を見ると、きりっとした横顔に、自分を精一杯、良く見せようと頑張っているように見えた。
自分の学校の制服どころか、校章ボタンさえも無い私は、鏡の前に行って、自分の姿を見た。
生徒会にいた頃、Special Need Schoolの制服をつくろうと、校章ボタンをつくろうと提案したけれど、
お金がかかるからと、先生にやんわりと、却下されたことがある。
社会的には、地位の低い学校なんだろうけれど、私は、自分の通っていた学校に誇りを持っていた。
形に残るものなら、何でもいい。目に見える物を残したかった。
私は、うらやましそうな顔で、彼女達を見た。
自分の学校の、制服を着ている彼女達は、きらきらと、光っているように見える。
私には、なんにも、無いんだ。
あ、あった!
あるじゃないか、1個だけ、1個だけだけど、誰にも負けない、校章があるじゃないか。
Special Need Schoolの生徒だということを、言えるものが、あるじゃないか。
私は、ブレザーのポケットから、財布を取り出した。
中学生の時から、大事に、大事に使っている熊の財布。
その熊の財布の中から、これまた、ちっぽけな、
小さな、小さなカードを取り出して、私は、にっこりと微笑んだ。
カードには、こう、書かれていた。
右の者は、当校の学生であることを、証明する。
企救養護学校高等部3年、二村沙誉
私にとって、最高の、立派な校章だった。
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