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盤面に白百合の芽が萌えいでて、數匹の牛頭馬頭が來て云つた。この世に華の咲いた例はない、どうして蕾を付けることが出來よう。 それでも牛頭馬頭ども、一輪の白百合を摘むことなく、遠くから見守つてゐた。 果たして白百合は一つの蕾を付けた。それは香氣を放ち、牛頭馬頭どもの鼻に至つた。 何事ぞ、と思ひ白百合のもとに集まれば、見よ、その香しさとともに金色の後光を放つてをる。牛頭馬頭ども華の異變に戸惑ひ、在る者は目を背け、在る者は刮目してその御姿の前にて聖て拜した。衆目の前ではさうするしかなかつた。 暗き狹き浮き世に光が宿つた。この金色の光ほど、素晴らしいものはない。その瑞々しさを誰もが獨りで愛でたかつた。ただ、それは一輪の一輪のみの華の故、摘んで己が物とすることも儘ならず、何よりもその~聖を犯すことは阻まれた。 幾日か過ぎ白百合は華開いた。香氣はいつさう強くなり、變はらず目映く光つてゐた。誰もがその臭ひと可憐な花瓣に惹かれて來たのに、光をのみ拝みに來たと嘯いた。 やがて、白百合は枯れ始めた。香氣は臭氣に變はり、變はらず目映く光つてゐた。光を拝みに來るものは少なくなり、世話をする聖司ですら、その扱ひはぞんざいになつてゐた。 ある夜、白百合の前に一匹の牛頭が來てその~聖を犯さうと企んだ。變はらず金色の後光を放つてゐるその華の萎れ果てた花瓣に、到頭牛頭は手を触れた。途端、光は鈍くなり華の~聖が薄らいだ。 華は實は燃えてゐた。己が身を焦がして金色の光を放つてゐた。それを知つて牛頭は、もつと早く觸れてやるべきだつたと後悔した。 牛頭は白百合を千切り、その臭氣を之でもかと云ふほど吸ひ込むと、それを一口で飲みこんだ。萎れた花瓣は柔かかつた。 |