ワニ殺人記
一章第二章 殺意の始まり
ワニは折から逃げ出して三日は経っていたはずだ。
逃げ出してからのワニは特にすることもなく、
ボーとしていた。夜がきても、昼になっても反応しないで
思い出にふけっていたためだ。
だから、何日たったかなんてわからなくなってしまった。
考えながらもワニは人に見つからないようにするため、
険しい山の頂上にたどりついていた。
人を食べていないため、とてつもない空腹におそわれつつ・・・
人しか食べないこのワニにとって、
人の通らないつらいものだった。
疲れ果てて木にもたれてすわると
木の実が二、三個木の上から落ちてきた。
その木の実を見てふと思った。
・・・・ 以前何処かで食べたことがある?
そこで思い出をたどってみると・・・
確かにそれらしき記憶を発見した。
その記憶はほこりまみれで、とてつもなく古い記憶だった。
その思い出は、鍵がかかったドアの鍵穴からみたような、
小さな思い出だった。
すぐには開かない。きっと鍵穴がさびついているのだろう。
時間をかけてゆっくり、少しずつ・・・
そして数時間後、記憶の扉はひらいた・・・
その中は外見と違って、明るく楽しそうに笑う声などが聞こえた。
――――― 。
そう、私は三年前まで人を食べていなかった。
私は、人ではなく草を食べて暮らしていた。
私は、めずらしい草食のワニだった。
山に住んで草、葉、木の実などを食べて
草食の動物たちと仲良く暮らしていたのだ。
と、 そこまで明るく見えていた景色がなぜか急に暗くなり、
思いだせなくなってきた。
しかし、続きが気になる・・・
がんばって虫食いがかった記憶をたどっていった。
そうだ、思い出した。奴らだ!
草食動物しかいない山の中に人間達が入ってきたのだ。
ワニははじめてみる生き物だった。
その人間達はワニを見て叫んだ。
「おい、こんなところにワニがいるぞ。捕まえよう。」
その頃ワニの毛皮はとても高級だった。
誰もがほしがる高価なものだった。
そこで人間はワニを使ってひともうけしようと思いついたのだ。
人間達は考えた。
運ぶ途中で暴れられたりにげられたりしては大変だ。
そこで、とりあえず殺してしまうことにした。
数人は斧などの道具を持ち、残りはワニをおさえ、
ワニの首めがけ、いっせいに斧などを振り下ろした。
「ぎゃ――――!!」
死んだのではないただ驚いて気絶したのだ。
しかし、斧の刃はぼろぼろになっていて使い物にならなくなっていた。
人間達は傷1つついていないワニに驚きながらも、気絶したのを見て
「よし、今のうちに運んでしまえ。」
といってワニを連れて帰り、大金持ちで有名な資産家に
ワニを売ってしまった。
資産家に買い取られてから二日後、
ワニはようやく目を覚ました。檻に閉じ込められている・・・
しばらく檻を見つめていたが、だんだんイラついてきて
檻を壊そうとし、鉄に触れた。そのとたん体中を電流が走った。
バリ バリッッ・・・!
ワニは音を立てて倒れた。
どのくらいたったのだろう・・・
コツコツと足音を立て誰かが近づいてきた。
その足音はワニのいる檻の前で止まった。
ひそひそと話しながらこちらを見ている。
ワニはその近づいてきた者たちを見ようと起き上がった。
見ると、そこには2人の人間がいた。
この屋敷の主人と、それに仕える召使いの者のようだ。
その2人はワニが起きたのを確認すると
いきなり檻の中に入ってきた。
そして銃をかまえてワニにむかって引き金を引いた。
「 バ − ン ! 」
ワニは驚いて倒れたものの、傷1つなく起き上がった。
それを見て二人は絶叫した。
「うわぁ〜バケモノ〜!!」
そして、檻に鍵をかけるのを忘れて逃げ出した。
ワニは、少しの間何が起こったかわからずボーッとしていた。が、
すっくと立ち上がり檻から出た。
そして、今までからは考えられないほどのすばやさで
先ほどの2人に追いついた。そして・・・
主人の方をいっきに食べてしまった。
それを見た召使いは、あまりの恐ろしさに動けなくなってしまった。
するとワニは、
「おや、どうした。逃げないのかい?残念だねぇ。
せっかく逃がしてあげようかと思ったのに・・・」
と心底楽しそうに言いながらまたも一口でたいらげた。
【・・・どうやら、このワニは斧で頭を強打したとき
“草食”から“肉食”へと進化(?)してしまったらしい。】
それからワニはこの屋敷のすべての人であるメイド・コックなどを食べ
さらに、ペットらしいヘビ・クモ・イグアナなどの
動いているものを残さず食べてしまった。
そして誰にもとがめられることなくその屋敷から逃げ出した。
それからのワニは、自分に危害を加えるものは
すべて食べなくては気がすまなくなり、
人を殺したくて(食べたくて)ウズウズするようになった。
というところまで思い出すと頭がズキッとしたかと思うと、
古い記憶の扉は前よりもっと頑丈な鍵でとじられてしまった。