| 「子供の不思議世界」 ![]() はじめに 子供は独自の、子供ふしぎワールドに生きています。 大人社会の規範や常識には無縁の、子供の感性が多彩に光る、子供 同士の決まりごとだけが通用するだけの、独特のこころの世界に生 きているのです。 「ふたりのイーダ」ちゃんや、「森のおばけ」の世界に、深く沈ん で泳いでいる存在・・・。 ポケモンと等身大に語りあう存在。 子供が「小さな大人」ではない事をうっかり忘れている、あるいは それを知らない大人は、知らず知らずのうちに、子供のこころを傷 つけるような事をいってしまったり、無意識のうちに必要以上に子 供の恐怖心をあおるような、例えば過激なテレビ番組を見せてしま ったりするかもしれません。 子供は受身の表情をしていても、感性はこまやかで、目や耳から受 け入れたものすべてに強烈な反応をします。 その反応は、大人のようにはっきりした外交型ではない事が多いで しょう。 両親が気づかないままに、子供は日々強烈なマイナス内面体験を積 み重ねていることもあるかもしれません。 テレビの流血シーンや、大人がテーブルで交わした夕食時の「もし 北朝鮮が戦争を始めたら」などという話題の影響のもと、ひそかに 爆発的な想像力を膨らませた子供が、戦車の群れや血まみれの夢を 見て、布団の中で汗をかいているかもしれません・・・。 そんな子供たちが東郷さやかに打ち明けた、子供のよろこび、恐怖、 無重力な存在体験の世界を連載します。 連載内容にふしぎ感性を感じたら、あなたも子供の世界に足を踏み 入れ、そして子供の良いお友達になり、子供が危なげなく大人にな るお手伝いをする一歩を踏み出したのかも・・・。 「シーツのおばけ」 窓の外にはドスンと暗闇が落ちてきて、どの家でも明かりが灯りは じめた。 父親はテレビ番組を見ていたが、しかし、いつものお相 撲さんの番組鑑賞の時とは雰囲気が違う父親の態度に、安奈はすぐ に気がついた。 「パパ、何を見ているの?」 「UFOの番組だよ。怖いかい?」 安奈とパパが見ている前で、寝室で寝ていたおじさんは宇宙人に注 射され、UFOにのせられていった。 UFOは光に包まれていて神々しくさえ見えたが、宇宙人には頭髪 がなく、彼らは異様に大きな丸い目と細い手足をしていた。 「こわいんだろう、安奈」 「怖くないよ!全然!」 しかし夜になると、安奈は布団のヘリを頭のてっぺんまで持ち上げ て、ベットの中ですっぽり毛布に包まって寝た。 「宇宙人が来るかもしれない!」 それから数ヶ月経ったころ、母親は安奈の目の回りに赤い湿疹が出 始めているのに気づいた。 医者に行って薬をもらっても一向に良くならず、安奈の湿疹は、ま すます顔中に広がっていった。 そしてある日、安奈の湿疹の原因は、夜になって安奈が頭まで毛布 をかぶってびっしょりと汗を掻いているせいだ、と母親によって発 見された。 理由が暴露され、安奈は家族中の笑い者になった。 それでも安奈は、毎晩すっぽりと頭のてっぺんまで相変わらず毛布 をかぶり続けていた。 窓に掛かっている白いレースのカーテンが風に動くたび、安奈は恐 怖を感じた。だまっている古い大きな洋服ダンスも異様な存在に思 われた。 ある日、いつものように安奈が毛布に体をすっぽり包んでベットで 体を丸めていると、「宇宙人!宇宙人!」「シーツのおばけ!」と いう叫び声がした。 驚くほどの速さでベットの上に跳ね起きた安奈の目には、真っ白い ベットシーツをかぶってダンスしている、パパとママの姿が目に入 った。 それっきり、安奈は二度と宇宙人が怖くなくなってしまった。 「雨の庭」 小学校の真横には駄菓子屋があって、摩耶は学校帰りにその店の前 を通る時には、初夏に急に天井にぶら下げられた、馬鹿に大きくて 真新しい宣伝用のビーチボールを熱心に眺めていた。 ある時店に入った摩耶は、レジの前に座っている女性に聞いた。 「あのボールは、いくら?」 白と薄いきみどり色の縞模様になっている新品のビーチボールは、 大きくファンタとカタカナで書かれていて、売り物ではなかった。 摩耶には、売り物ではない事が理解できなかった。 毎日のようにランドセルをしょってしつこくビーチボールを見に来 る少女に根負けして、女性はある時、「360円」と言った。 摩耶は台所の食器棚の影に、小銭がいくらかあるのを知っていた。 息を切らせて家に走りこむと食堂へ直行して、食器棚の影に手を入 れた。ピカピカのコインは宝物のように見えた。 学校で習ったとおりに、360円のコインを数えて、摩耶は再び店 に走っていった。 来る日も来る日も、摩耶は友達の誘いにものらず、家の庭の中で飛 びはねながらビーチボールを打ち上げて遊んだ。 「もっと高く!もっと、もっと!!」 突然現れた真新しいビーチボールに、母親は首をひねった。 「そのボールはどうしたの?」「駄菓子屋のオバさんに貰った!」 夕方になると、遊びつかれた摩耶の手によってボールは家の中へ運 びこまれ、ベットの枕もとへ置かれてハンカチをかぶせられた。 ある日、高く高く打ち上げられたボールは、勢いあまって庭の池の 中に落ちた。池の周りには高い木や草が生い茂っていて、コケに覆 われた池の石はつるつると滑りやすかった。 奇妙な羽虫やトカゲなどがいて、どろっと腐った草の茎などが散乱 する池の周りの土を、摩耶は一度も踏んだことがなかった。 その日の夜、摩耶はボールを庭に残したまま、家の中に入った。 雨が降り、日が差して、池の上に放置されたボールは、次第にドロ ドロに汚れていった。 その惨事に気づいた母親の手によって洗われたボールは、再び摩耶 の手に戻った。 しかし摩耶は二度とボールには手を触れず、以前のように友達と外 を駆け回って遊ぶ、普通の日々が戻った。 食器棚の影の小銭は母親が貯めていたへそくりである事を、摩耶は 10年以上経ってから知った。 「ビルの屋上」 「きれいな夕日やなあ・・・」 「ここは自殺の名所なんやて!」 孝史が激しく柵を揺さぶると、柵はめらめらと体をゆがめて、きし んだ音を立てた。 剛がゆれている柵に、さらに乱暴な蹴り込みを入れる。 子供達が屋上まで登りつめた16階建てのビルは、小学校の裏庭の 真向かいにある。 なぜか屋上から飛び降りて自殺する中学生や高校生が多いので、屋 上には今年から厳重な柵がめぐらされ、警備員が度々見まわりにや って来る。 佐知子が菓子のゴミを柵の向こう側の空へ吹き飛ばした丁度その時、 「こらっ!」という大きな怒鳴り声がして、ビルの警備員が子供達 に近づいてきた。 「屋上は立ち入り禁止だ!みんな降りなさい!」 警備員は、追い払っても怒鳴りつけても毎日のようにやってきては 屋上で騒いでいる、この無邪気な小学生集団にすっかり手を焼いて いた。 しかし、その小学生集団もやがて6年生になり、小学校を卒業して ビルのある通りから数百メートルも東側の区立の中学校へ通うよう になった。 中間試験、期末試験と忙しくなった子供達は、前ほど一緒に遊ばな くなったし、佐知子にとっても孝史にとっても、他の中学生の生活 同様、当たり前の受験準備を熱心にこなす日々が続いていた。 誰もがこころの奥底で「試験に開放されるその日」を夢見ながら。 ある日、期末試験期間に疲れを感じた佐知子は、ふと気晴らしに、 大きく回り道をして家に帰ろうと思いついた。 足は自然と小学校の裏側を目指していた。 昔なつかしの大きな木が生い茂る学校の裏庭をまわり、灰色の道を 何も考えずに進んでいた佐知子の前に、突如、大きなビルが現れた。 まるで不意打ちをかけるような勢いで、ぞっとするほど無機質な姿 をさらして迫ってくる巨大なビルに、佐知子は一瞬ひるんだ。 突然湧き上がってきた寒い気持ちを無視するように、足早にビルの 前を立ち去る佐知子がふと振りかえってビルの屋上を仰げば、ビル のてっぺんに広がった空には、佐知子の心を燃えつくすような鮮や かな夕焼けが、激しく広がっていた。 「ナメクジ」 エピソード「ナメクジ」は、現在、東郷さやかの元で最後のお化粧 に励んでいますが、近日中に掲載いたしますのでお楽しみに! 東郷さやかにコンタクト:info-pd@wanadoo.fr
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